冒頭から、りくりゅうは『Paint It Black』の旋律に乗って、らしさ全開だった。トリプルツイストリフトでは木原が三浦を高い位置まで投げ、空中でくるくると3回転させる。3回転トーループもそろって着氷。どれだけ練習を重ねたのか、とにかく息が合っていた。
ところが、5アクセルラッソーリフトの出口でミスが出た。
「映像を見られていないので......なんでああなっちゃったかわからないですが」
木原は無念さにさいなまれていた。一方、三浦は自分たちを奮い立たせるように言った。
「リフトっていうのは、すべてふたりの阿吽の呼吸で成り立っているので、少しずれてしまうと今回のようになってしまう。積み上げてきたものもあったんですけど、運も悪かったなって」
ショックは大きかったはずだが、リンクのふたりは真骨頂を見せていた。次のスロー3回転ルッツは三浦が低い重心で耐えて、傷口を広げていない。そしてスピン、ステップはいずれもレベル4だった。最後のバックワード・インサイド・デススパイラルも完璧に決めた。
「ここ(ルッツ)ではもう失敗できないなっていうのはあったんですけど......そういった場面って今までたくさんありました。だから、自分たちのメンタルの強さも発揮できたのかなって思っています」
三浦は力強く振り返ったが、その言葉にふたりの本質がある。金メダルには厳しい滑り出しになったが、ミスがあっても崩れなかったのはみごとだった。彼らの底力を感じさせた。
【ふたりの「歴史」が誘う場所とは】
そもそもふたりはこれまでも苦難を乗り越え、活路を開いてきた。その一つひとつの瞬間が経験で歴史である。成功も、失敗も、栄光も、挫折も、ひとつも無駄なものはない。
「歴史」
文字にすると簡単だが、こめられた意味は重い。
りくりゅうはまず2019−2020シーズンに新たにペアを結成したが、まさにコロナ禍に襲われている。2020−2021シーズンも、コロナ禍が続き大会が限られるなか世界選手権で北京五輪出場枠を一発でもぎ取った。2021−2022シーズン、北京五輪団体でSP4位、フリー2位で銀メダルに大きく貢献。個人でも7位に入賞し、史上最高位だった。続く世界選手権では、堂々の銀メダルを獲得した。
カップル競技で、世界トップの日本人が登場したのだ。
2022−2023シーズン、三浦がシーズン開幕のアイスショーで肩の脱臼をしたが、GPファイナル、世界選手権では続けて制覇した。2023−2024シーズン、今度は木原が腰椎分離症で戦線離脱を余儀なくされ、復帰した世界選手権で再び三浦が肩を痛めたが、なんと銀メダルを勝ち獲っている。
「(コロナ禍で)日本に帰れず、五輪に出させてもらって、でもケガもあって......すべての経験が自分たちを成長させてくれました」(2024年11月、NHK杯後の三浦)
りくりゅうは世界最強だが、その道のりは平坦ではない。しかし平坦ではなかったからこそ、逆説的に強いのだろう。2024−2025シーズンには再び世界王者になって、名声を確固たるものにした。
「慣れてしまうと、新鮮さが失われてしまうもので......気づけば、結果を求めすぎていたと思います。僕たちは、苦労してようやく会えたパートナーなので、ふたりで滑る楽しさを忘れずに。それこそ、自分たちの楽しさなので」(2025年4月、世界国別対抗戦後の木原)
彼の言う「楽しさ」に行きつくのは簡単ではない。ふたりは巡り巡って、その境地にたどり着いて、これだけの演技ができるのだ。
運命のフリーに向け、ふたりは真価を見せる。SPは73.11点で5位。首位とは約7点差、決して逆転できないスコアではない。
「(SPは)ふたりともいい緊張感で、ツイストもジャンプ系エレメンツもハマっていました。このミスがあったからこそ、明日は一つひとつ丁寧に、気持ちも切り替えて挑みたいです。自分たちが"できる"と信じてやればできる。あしたはあしたで切り替えて頑張りたいと思います」
三浦は明るくそう語った。その表情には強い決意がにじんでいた。
「今はやるしかないって気持ちを切り替えられました。チームとして調子が悪いわけじゃない。いつもどおりのりくりゅうで、ここ(取材エリア)で話ができるように、必ず戻ってくるので待っていてください」
最後は木原も決然とした言葉を口にした。
2月16日、フリー。りくりゅうは逆転にかける。どこまでも金メダルが期待されるのは、計り知れない重圧だろう。しかし、彼らの「歴史」がしかるべきところに誘ってくれるはずだ。