騒音、ゴミ出し、深夜の出入り、治安への不安――。近隣住民の生活は静かに侵食され、苦情や通報が相次いでいるが、管理人の姿はなく、連絡先すらわからないケースも少なくない。なぜ、厳しい
民泊規制を敷いてきたはずの目黒区で、こうした施設が急増しているのか。
現地を歩くと、制度の抜け穴と、インバウンド拡大を優先する行政の姿勢が、住宅街の安心を切り崩している実態が浮かび上がってきた。
◆閑静な住宅街に突如現れた“名ばかりホテル”
東京・目黒区は、区の8割を住宅系用途地域が占める住宅街だ。閑静な住環境を守るため、都内でも最も厳しい
民泊規制で知られる。ところが、ある日突然、隣りの民家が「ホテル」として営業を始め、
近隣トラブルが頻発しているという。記者は現地を訪れた。
目黒本町は、渋谷へ15分ほどの好アクセスと治安のよさが人気の閑静な住宅街。そんな街並みに溶け込むように、ホテルは立っていた。というのも、外観がごく普通の二階建の民家なのだ。表札には英語の名前があるが、「HOTEL」の表記はない。玄関に括りつけられたキーボックスが、わずかに宿泊施設であることを匂わせる。
向かいの家に暮らす70代と思しき女性は、こう話した。
「目黒区は、金曜と土曜しか宿泊できないはずなんだけど、ここは平日でも外国人が出入りして、何日も連泊している。(条例的に)ダメだと思うんだけど、そこまでルールを詳しく知らないし……」
民家にしか見えないのだから、
民泊と勘違いするのも仕方ない。一方、隣りに住む30代の女性は、不安を口にした。
「夜中に騒いでうるさくても、数日ならと我慢してます。それより、隣りのベランダとウチのベランダが手が届くほど近く、幼い子もいるので何かあったら心配です」
◆
民泊より緩い?旅館業法が生んだ逆転現象
そもそも、目黒区の
民泊規制は非常に厳格だ。大多数の自治体が年180日の営業が可能なのに対して、104日に制限。事業者には近隣への事前告知義務が課される。規制は区内全域に適用され、住民は静かに安心して暮らすことができていた。そんな目黒区で、なぜ民家にしか見えない“名ばかりホテル”が増えているのか。この問題を早くから追及する白川愛・目黒区議は、こう説明する。
「規制が厳しい
民泊事業は収益性が低く、区内の
民泊数は23区で最少の水準です。ところが、旅館業法が大幅に規制緩和され、設備要件さえ満たせば容易に許可が取れるザル法と化し、
民泊よりホテルを開業するハードルが低い逆転現象が起きている。年365日営業できるホテルのほうが収益は上がるので、近年、急増していますが、その運営実態は
民泊そのものです」
’18年、政府はインバウンドの宿泊需要に対応するため、旅館業法の規制緩和に踏み切る。これにより、ビデオカメラやタブレットなどで宿泊者の本人確認ができれば、フロントを設置せず、管理人も置かない「無人ホテル」の営業が可能になった。
規制緩和の影響は絶大だった。目黒区の
民泊は’21年の23軒から’25年には30軒と微増にとどまるのに対して、ホテルの数は’21年の28軒から’25年の62軒へとほぼ倍増している。うち8割近くの48軒が、管理人不在の“名ばかりホテル”だ。