ミラノ・コルティナ五輪を席巻する日本スノーボード勢がまたまたやってくれました!ここまで男女のビッグエアでダブル金+男子の銀を獲得し、ハーフパイプ女子でも小野光希さんが銅を獲得。そして大注目の男子ハーフパイプでは過去2大会メダル候補と言われながら決勝で満足のランができずに失意の五輪となってきた戸塚優斗さんがついにメダル、それも金メダルを獲得しました。山田琉聖さんが銅、平野流佳さんも3本フルメイクで4位、そして平野歩夢さんもダブルコーク1620を決めて奇跡の7位に!この大活躍には、スノーボード大国を自認してもバチは当たらないでしょう。お茶の間でも座布団をジャパングラブしながらガッツポーズです!
迎えた決勝。日本勢は予選2位通過で戸塚優斗さん、3位通過で山田琉聖さん、5位通過で平野流佳さん、そして7位通過で平野歩夢さんと出場4選手がいずれも決勝進出を果たしました。特に、直前1月の大会で大転倒し、複数個所の骨折ほか多数の負傷をしながら奇跡的な出場に漕ぎつけた平野歩夢さんの決勝進出は、その時点でもうメダル級の感動を日本…いや世界に広げてくれるものでした。鼻が折れた、骨盤が折れた、ヒザが倍に膨らんで感覚がない、その状態でもここに立つというその覚悟、その勇気たるや。
予選での平野歩夢さんは、ドロップイン後のダブルコーク1280からキャブダブルコーク1440につなぎ、フロントサイド900、バックサイドのダブルコーク1280、そして最後のフロントサイドダブルコーク1080まで抑えめの構成でしっかりとつなぎ切っていました。すると、このランに予選のジャッジ1番は90点をつけました。このジャッジだけの判断ではあるものの、ジャッジ1番のなかでは歩夢さんのランはメダル圏にも肉薄する評価でした。怪我の状況は心配ではありますが、決勝の最後の最後の1本にすべてを懸けることができたなら、奇跡は起きるかもしれない…そんな予感で勝手に頭のなかには夢の光景が広がっていきました。
多くの選手が高難度の技に挑み、1本目から究極の一発を狙ってくる決勝の舞台。「まずはメダル圏内に置きにいって」なんて選手はひとりもいません。全員がフル全力でフルメイクを目指しています。成功には至らないものの、ダブルコーク1620(4回転半)やトリプルコーク1620に挑む選手も。4年前の北京で平野歩夢さんが金を獲った技はトリプルコーク1440でした。世界はそこからさらに1回まわしていこうとしている。何というレベル、何という進化。この挑戦の連打のなかでは、恐れていてはメダルも金もありません。
日本勢で最初に登場したのは平野歩夢さん。1本目からいきなりフロントサイドダブルコーク1620に挑んできましたが、ここは腹ばいで転倒。身体の状態はわかりません、が、最初から最後まで全力でいく覚悟があるのはわかります。ここで決められなかったのであれば、決まるまで挑みつづけるのでしょう。最後までもってくれ、そう願うだけです。
そんな平野歩夢さんに刺激を…今さら改めて受けるなんてはずはなく、ずっとその存在に牽引されてきたであろう日本勢は、平野歩夢さんの挑戦をさらに超えていくような見事なランを見せます。平野流佳さんは1440を3本入れる構成でフルメイク。ジャッジ6人全員が90.00点をつけたランは「今日のメダルラインはまずこのランが基準だね」というメッセージでした。
つづく山田琉聖さんは、トリプルコークは含まないもののマックツイストやスイッチダブルアーリーチャック900などをまじえてスタイルを出すラン。キャブダブルコーク1440もバッチリ決めて92.00点で上に出ます。その後、戸塚優斗さんもダブルコーク1440からトリプルコーク1440を連続で決めると、スイッチダブルアーリーチャック900からスイッチスタンスでのダブルコーク1080につなげるなど淀みない連続技で91.00点。最後に滑った前回銀のスコッティ・ジェームズさんがミスとなったことで、1本目を終えて何と日本勢がワン・ツー・スリーとしました。
ただ、スコアは「92、91、90」と明らかに上位の入る枠を残しています。「これで終わりじゃないよな?」「あと2回、金銀銅が全部更新されてもいいように枠を空けてあるぜ」そんなメッセージ付きの採点。もちろんどの選手もそこに飛び込んでいくつもりです。
決勝2回目。この2回目はまず平野歩夢さんがやってくれました。3個目のトリックでフロントサイドダブルコーク1620を見事に成功!最後となる5個目のトリックにフロントサイドトリプルコーク1440を決めて86.50点!メダル圏内に飛び込むことはできませんでしたが、奇跡のランを見せてくれました。4年前を超えてきました。この大怪我のなかで!
そんな頼もしい姿を前に、さらに高く跳んでいく日本勢。平野流佳さんは先ほどの1本目よりも構成をあげて、1440を3本入れてきました。点数は90.00点と変わりませんでしたが、さっきの自分を超えてきました。山田琉聖さんは、何と1本目とはまるで違う構成で、2個目のトリックにスイッチスタンスでのアーリーダブルロデオ1080を組み込んできました。転倒となりランは途中で途切れましたが、大本番にまったく違う構成のネタを2種類持ってきているなんて、M-1 決勝かと。この多彩さ、独創性、最後までメイクしたら何が起きるのかワクワクが止まりません。
そしてそして、過去2大会は決勝で満足のランができず、栄光の影で救急搬送されるなど五輪に苦しんできた戸塚優斗さんに、ついに「戸塚さんの番」が訪れました。最初のトリックをトリプルコークにして「連続トリプルコーク1440」に構成をあげ、完璧なフルメイク。すべてがクリーン、すべてが一本でつながった美しさ。先ほどの91.00点より下にすることは絶対にできないランで、これにはジャッジたちも「金では?」と認める95.00点の高得点を出さざるを得ない!最後に滑ったスコッティ・ジェームズさんもフルメイクで93.50点としますが、これは2位まで。最後の1本に勝負を懸ける展開となりました。
決勝最終3本目。誰もが究極の1本を目指して全力の挑戦をしてきます。ダブルコーク1620、トリプルコーク1620の大技を決める選手も生まれます。平野歩夢さんももちろんそのひとり。2本目のランよりもいい内容で再びダブルコーク1620を決めました。しかし、フルメイクには至らず、連続メダルはなくなりました。ただ、あの1月の大転倒負傷からすれば、この舞台に立ち、この大技をメイクしたことは奇跡にほかなりません。滑る前も、ランを終えたあとも、「ありがとう」の言葉しかなかった。本当にすごいものを見せてもらいました!
さぁ、メダル争いはいよいよ決着へ。メダル圏内に飛び込みたい平野流佳さんは全体の流れはこれまでと同様も、グラブを変えてさらに上を目指してきました。ジャッジの評価は微増の91.00点と大きく響くものではありませんでしたが、全選手のなかで唯一の3本フルメイク、すべて90点台、そして1本ごとに自分を超えつづけたことは誇れる結果ではないでしょうか。お見事でした。
競技が進み、山田琉聖さんの番を迎えた時点では山田さんの銅メダル以上、そして戸塚さんとふたりで日本勢の複数メダルが決まっていました。もうこれは金を目指すしかないシチュエーション。山田さんは2本目で通せなかった構成に再び挑み、今度は見事にフルメイク。3位は変わらずも、2種類の構成いずれでもメダルに届く92.00点のスコアを出してきたというのは力量十分&個性十二分の内容でした。
金を獲りにいく戸塚さんの3本目。2本目の構成からさらにあげて4個目のトリックを1440まで追加で1回転まわしてきました。決まれば95.00点以上は間違いないところでしたが、最後のトリックの着地でリップに当たり、惜しくもフルメイクはならず。堂々の95.00点を持って、金が決まるのを待ちます。
最後に登場のスコッティ・ジェームズさんは、金を獲るための秘策を開放してきました。最後の5個目のトリックにダブルコーク1620を入れるという自分を超える構成は、決まれば金もある、金のために挑んだ限界への挑戦でした。その挑戦は実りませんでしたが、誰もがそのフルメイクを見てみたくて、失敗を喜ぶのではなく失敗を惜しんでいました。清々しい挑戦と挑戦の戦い。色は金銀銅でわかれましたが、全員を讃えたいような聖戦でした。日本、戸塚優斗さん金、山田琉聖さん銅、ダブル表彰台ありがとうございます!
↓平野歩夢さんは「生きて帰ってこれてよかった」だそうです!さて、この大会のなかで、中継で解説の方が言っていた話を通じて気づかされたことがあります。このハーフパイプやビッグエアでは選手たちの仲睦まじさが中継でもよくわかりますが、それを僕は単に普段から一緒にいるから、みんなで頑張っているから、仲がいいから、みたいな表層で捉えていました。しかし、実はその奥には恐怖に打ち勝つための連帯があるのだというのです。
冬の雪山、コンクリートのように固めた雪面、そこでビルの3階・4階にも相当する高さを跳び、ときに頭から雪面に叩きつけられる過酷なスポーツは、選手たちにとってもやはり怖いのであると。そこに自分ひとりで挑むのはとてもとても怖いのであると。試合はまだしも練習ではその恐怖と戦う自分を支えてくれるものも後押ししてくれるものもありません。それでもその恐怖に打ち勝っていけるのは、そこに仲間がいるからなのであると。
彼らはライバルではあるけれど、自分の挑戦を見届けてくれる観測者でもあり、その視線があるからこそ恐怖を乗り越えて飛び込んでいけるのだと。あいつが見ている。俺もやってやる。あいつすごいことをやったぞ。俺も負けられない。そうやって互いの挑戦を見守り、讃え合うことが選手たちの孤独を埋め、恐怖に打ち勝つ後押しとなり、限界を超えていくことができるのであると。だから、たとえ勝負に負けることがあったとしても、偉大な挑戦には惜しみない賛辞を贈るのです。誰かの挑戦が、次の自分の挑戦につながっていくから。そんな「情けは人のためならず」みたいな視点を得たのです。
今大会の平野歩夢さんの挑戦は、もしかしたら大変危険なものだったかもしれません。勝ち目の薄いものだったかもしれません。しかし、この挑戦は本人だけのものではなく、ミラノ・コルティナ五輪にいる選手たち、世界のスノーボーダーたち、そしていつかボードに乗る子どもたち、そういったすべての仲間たちに勇気を伝える連帯だったのかなと思うのです。「歩夢は負けなかったじゃないか、だから俺だって」と誰かを奮い立たせるような。前回大会の激闘が「あれを超えなければ」という思いを世界に広めて、今日この素晴らしい戦いに至ったように、また新たな勇気を広めるものになったと思うのです。
前日の女子ハーフパイプでも最後に金をつかんだのは、1本目でリップに激突し頭から落ちる大転倒となっていた韓国のチェ・ガオンさんでした。一時は棄権という情報まで流れたチェ・ガオンさんが2本目に登場したとき、再びの転倒となるも会場からは惜しみない拍手が送られました。それだけでも十二分に勇敢な挑戦であったのに、何と最後の3本目で900を3本成功させる圧巻のフルメイクを見せるだなんて。90.25点はその日唯一の90点台でした。あの転倒から金で終わる未来を見せてくれたこと、それはチェ・ガオンさんがすごいという話であると同時に、スノーボーダーはすごい、人間はすごい、そんな勇気を広げるものだったと思います。
世のなかにはさまざまな競技があり、それぞれの哲学があります。決勝に限っては1本1採用というモーグルのような完成度を重んじる競技もあれば、3本2採用のビッグエアや3本1採用のハーフパイプのように失敗があることを前提として限界を超える究極の1本を求める競技もあります。そういう挑戦に重きを置いた哲学のなかで、平野歩夢さんをはじめ選手たちの挑戦は勝負の結果を超えて意義あるものだったと思います。そこに挑める機会があるならば、恐れずに挑む。そんな勇気を伝え、そんな勇気を讃える、それこそがこの競技の価値感なのだと高らかに示すような。
いいな、と思います。
すごいことに挑んだ人が、すごいことに挑んだねって、讃えられる世界は。
勝者とか敗者である前に、全員が挑戦者。
敵はライバルではなく「限界」。
ライバルは敵ではなく「同志」。
結果もさることながら、とても清々しい挑戦たちでした!
「限界に挑め、挑まねば何も得られない」と言っているルール、イイですね!
スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム
フモフモ編集長
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