日本勢の大活躍がつづくミラノ・コルティナ五輪。大会6日目(実質8日目)は本格的に競技が開始して以降では初めて、日本勢にメダルがない日となりました。そのなかで特に惜しかったのがフリースタイルスキー女子モーグル。この種目の決勝に進んだ日本の冨日向子さんは、何と3位銅メダルと同スコアを記録しながら、タイの場合はターン点が上の選手を上位に取るというタイブレークの仕組みによって4位となり、紙どころかラップ1枚くらいの差で惜しくもメダルを逃していたのです。
この種目を解説していたのが女子モーグルの第一人者であった上村愛子さんだったことで、その惜しさ、悔しさ、やり切れなさは何倍にも増幅されました。バンクーバー五輪で4位となったあとに漏らした「なんでこんな一段一段なんだろう」の言葉が甦る深夜の日本。長野五輪の7位に始まり、6位・5位・4位・4位とずっとメダルのすぐそばにいて一度もメダルに届かなかった上村さんの伝統が、まさかこんな形で新たな世代につながれるとは。ほんと、なんで、こんな、あとたった一段が届かないんでしょうね…!
試技を繰り返しながらじょじょに参加選手の人数を絞り込んでいくモーグル。冨さんは予選を1回目5位でラクラクと通過し、20人で争った決勝1回目(準決勝に相当)も79.42点の高得点で3位通過。8人に絞り込まれて行なう決勝に日本勢では唯一進出を果たしていました。迎えた決勝2回目では、決勝1回目の順位とは逆順に、冨さんは最後から3人目で試技に臨みます。ここまでのスコアは持ち越さず、一本勝負の決勝戦。自分が滑った時点でトップに出ればメダルは確定するという状況でのスタートでした。
冨さんが滑る時点でトップに出るには82.30点、メダル圏内の暫定3位に入るには77.61点が必要でした。滑り出した冨さん、構成は決勝1回目と同じです。タイムは控えめながらも丁寧なターンと、コーク720をグラブを入れながら2本決める雄大なエア、その滑りはまさに日本の伝統というか、上村愛子さんを彷彿とさせるというか、日本のモーグルといった滑りでした。出たスコアは78.00点!
この時点で暫定3位に飛び込むこのスコアがこれほど心に引っ掛かりを残し、4年後まで保存されるのかと思うと、何度も映像を見返さずにはいられませんでした。何とこのスコア、暫定2位にいるフランスのペリーヌ・ラフォンさんとまったく同スコアだったのです。モーグルでは同スコアの場合、ターン点が多いほうが上位にくる仕組み。ターン点ではラフォンさんが46.2点、冨さんが46.0点とわずか0.2点冨さんが負けていました。そのわずかな差でわかれた暫定2位と暫定3位が、最終的に銅メダルと4位にわかれるだなんて。
冨さんの滑り、どこが悪いということはまったくありません。いい滑りでした。ただ、比較で言うと、決勝1回目のほうがよかったというのはその通りだと思います。タイムはわずかに落ち、エアでは特に第2エアの着地の部分で後傾になるところが目立ちました。ターンはもはや素人目には何がどうよくて何がどう違うのか見分けられないレベルですが、ジャッジ5人が大筋で決勝2回目のほうを低く見ていますので、全体的に決勝1回目より低調だったというのは妥当な採点なのでしょう。惜しむらくは、それが「全体的」でさえなかったら…。
どこでもよかった。
どの要素でもよかった。
ターンで勝たなくてもあと0.01点どこかであればそれでよかった。
あと0.1秒早くゴールしていれば、それで銅だった。
あと少しエアでいい採点になっていれば、それで銅だった。たとえば、ひとりは8.0と評価し、ひとりは7.9と評価した第2エアが両者とも8.0の評価であれば、それで銅だった。
ターンであと0.1点評価してくれたり、ミスを見逃してくれれば、それで銅だった。
上村愛子さんはこの結果に「この4位は私も経験のない4位でした」と語りましたが、それぐらい惜しい4位でした。上村愛子さんの5度の挑戦のどれよりもメダルに肉薄した、逆に言えば何が悪かったのか何が差だったのかと明確に決め切れないくらいの、そんな4位でした。惜しかった…!
↓ジャッジがほかの人だったら銅だったかもしれないくらいの4位!
ただ、本当に惜しいのはその通りですが、それは巡り合わせも含めてのものでもあります。予選、決勝1回目(準決勝)、圧倒的な滑りを見せていた前回金のジャカラ・アンソニーさんが決勝では大きなミスをして最下位となっていましたので、ジャカラさんがもう一度試技をやり直したら冨さんは4位ではなく5位に押し出されていたと思います。その場合、メダルに必要なスコアは80.77点であり、悔い悔やむほどの小さな差ではなかったでしょう。しっかり差があるメダル逸になっていたはず。
メダルを獲るに値するには80点台に乗せるというのが目安で、全員参加の予選1回目でも上位3人は80点台を記録していました。今大会で本当に実力だけで3番に入ろうと思うなら、80点台が必要だったのだろうと思います。そして、そのスコアには今大会ベストランだった準決勝のスコアでも届いてはいません。なので、日本で見守る観衆としても、あまりに惜しい惜しいと過去だけに囚われるのはふさわしくないのかなと思います。
結局モーグルはターンです。かつては「タイム25%、エア25%、ターン50%」と配分されていたスコアも、現在は「タイム20%、エア20%、ターン60%」とよりターンを重視するように微調整されています。タイムやエアは順位と必ずしも一致しませんが、ターン点はこの決勝でも上から下へと多い順にキッチリ並んでいます。ターンで勝った人が上にくる、モーグルはそういう競技です。
その意味では丁寧さだけでなく、果敢に攻めてコブを制すること。その結果としてタイムも速くなること。ときとして、それが大きなミスにつながって最下位に沈むことがあったとしても、攻め抜くこと。それがモーグルという採点競技に勝つ大原則なのだと思います。そして、僕が思うには、それが上村愛子さんの「なんで」の部分だったと思うのです。もしも1998年に戻れたら、「あなたはこれから合計5回メダルに挑戦し、5回メダルに肉薄します」「その歩みも本当に素晴らしいけれど、もしも一番の望みがメダルなら、4回捨ててもいいと思う」「4回捨てても1回金メダルが獲れたらそれでいい、そんなあなたが今度は見てみたい」と差し出がましく口出ししてしまう気がするのですが、ジャカラ・アンソニーさんのミスを見ると余計にそんなことを思うのです。王者でもミスをする。ミスをするほどの滑りをするから王者になれる。そんなことを。
なので、冨さん的にはもとよりそうかもしれませんが、ここはもうスッキリと気持ちを切り替えていただき、日本からの4年に一度だけモーグル見る人たちの惜しいだの判定がどうだこうだだのといった繰り言には耳を貸さず、4年後に向けて大きく強くなってもらえたらいいなと思います。個人的にもこの4位によって「次こそは」という思いが強まりましたし、上村愛子さんのぶんまでメダルを獲ってほしいと、物語のバトンを冨さんに託したような気持ちにもなっています。冨さんが使ったコーク720、あの技を僕が知ったのは上村さんを通じてでした。あの技でメダルを獲ってくれたら、報われずに消えた想いたちも、嬉しくなるんじゃないかなと思いますので。
そんな4年後を見据えつつ、「それはそれ、これはこれ」「獲れれば別に何でもいい」「私が勝たなくても相手が勝手に負けてくれればそれでもいい」という現実も同時に見据えまして、残るデュアルモーグルで今度はメダルをつかんでもらえたらいいなと思います。上村さんの時代にもデュアルモーグルがあったら、チャンス倍増でさすがに1個くらいメダル獲れたと思うんですよね。相手が勝手に負けることもあると思いますし。新たな世代は倍増したチャンスをありがたく活かしちゃってください!
先人たちの奮闘の歴史が「モーグルの採用種目増やそうか」につながった今!
スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム
フモフモ編集長
さまざまなジャンルのスポーツを"お茶の間"目線で語る人気のコラム