【画像】歌舞伎町で各グループが協定を結んだ外販の禁止行為の一部『ルポ 風俗の誕生』より一部抜粋、再構成してお届けする。
「ホストの大半は何かしら相談できるヤクザと付き合いがある」
夜の世界で商売をすることは、一般的にはヤクザとの共生を意味する。彼らの存在を避けての台頭など不可能とされている。
ホストクラブや外販は、どうか。歌舞伎町を根城とするヤクザ組織幹部と藤田智也(編集部注:仮名/40歳。今は別の仕事についているが、長きにわたり外販を生業にしてきた)が語った言葉からひもとく。
まずはホストクラブだ。ヤクザ組織の幹部の男は「オーナーとの付き合いもあれば個人レベルの付き合いもある」というホストクラブ業界の特異性を説明するなかで、店単位どころか「個々にケツ持ち関係が交わされている場合が多い」と明かすのだった。
ケツ持ちとは、トラブルや問題を解決するために、後ろ盾となってくれる存在や、その行為を指すヤクザ業界用語である。要は用心棒だ。
歌舞伎町で夜の商売をするためには、彼らに認めてもらうことが不可欠で、みかじめ料と呼ばれる用心棒代を払う必要がある。
店は組織Aのヤクザが面倒を見ているが、ホストB(個人)は組織Cのヤクザが、ホストD(個人)は組織Eのヤクザが面倒を見ている。そうしてヤクザとホスト業界は深い関係にあるので店の売り上げからの分配金は組織Aのヤクザに納められるが、ホストBのケツ持ち代は組織Cのヤクザへ、ホストDのケツ持ち代は組織Eのヤクザへといった具合に、複雑に入り組んでいるというのだ。
納める金額はヤクザ個々の裁量によるが、相場は「店なら10万以上、個人なら3万ぐらい」と話すヤクザ組織の幹部の男に、いったいどれほどのホストがヤクザとケツ持ち関係にあるのかと問うと、驚きの数字を明かした。
「ホストに限って言えば他の業種より個々人の付き合いが色濃い。そうだな、カスリ(=みかじめ料)の関係ではなく付き合いのある人間で計算すれば9割は間違いない。ホストの大半は何かしら相談できるヤクザと付き合いがある」
なかには経営に現役のヤクザが入り込んでいたり、兄弟分の盃を交わしたりといったこともあったという。
さらに「裏で資金提供を受けるが、表向きは関係を隠すといった“フロント企業”の場合もある」と付言した。“ヤクザが育つ街”といわれるここ歌舞伎町では、そうしていまも数千人規模のヤクザがメシを食っているという。
「ヤクザなしでは外販はできない」
となれば、次は外販とヤクザの関わりだ。ヤクザ組織の幹部の男が言うように、ホストの9割がヤクザと関係があるならば、外販はどうか。藤田に解説してもらおう。
「もちろんケツ(持ち)がついています。というか、真っ当な商売であればケツなどいらないでしょうが、そもそも違法なのでケツなしでは歌舞伎町で商売できません。裏カジノやスカウトなどの非合法商売と同じく、ヤクザのお墨つきをもらい“やらせてもらっている”という構図です」
--それは決まった組織なのか。
「外販をケツ持ちするのは、組織Aと組織Cのヤクザに大別されます。組織Aは主に外販、組織Cはスカウトのケツ持ちをメインに外販も、というイメージです」
--組織としてケツ持ちしているのか、個人なのか。
「組織ではなく、その組織のなかの特定の誰か。ヤクザは、組としてではなく各々個人でシノギをしているからです」
--立てる場所の範囲、つまり“シマ割り”は?
「あります。例えば、ある外販グループは『歌舞伎町の花道通りから職安通りまで』といった具合に、ケツ持ちのヤクザから決められます。ただし、範囲が広いのでときにバッティングします。なので、外販グループ同士で忖度し合って立つなどして棲み分けしている感じです」
--みかじめ料はいくらぐらいか。
「グループによっても違いますが、ウチはひとりにつき月3万円です。加えて春秋は“倍付け”の6万円。春秋はヤクザがシノギにしている高校野球とプロ野球の賭博に付き合う、というのがその理由です。この野球賭博に関しては、実際にはグループのボスが取りまとめていて、僕ら末端はカネを出すだけでした。
当たれば、本来なら配当があるんでしょうが、もらえたためしがありません。なので配当については気にもとめていませんでした。ちなみに、“盆暮れ”が倍付けというグループもあります。盆暮れは稼げるからです。なかにはヤクザにガジられているグループもあり、売り上げの30%を上納しています。こうしてケツ持ちのヤクザによって決められたルールがそれぞれあります。もちろん僕ら外販はノーとは言えず、それに従うしかありません」
--つまりケツ持ちなしで外販はできない。
「そうです。ケツがいない外販のことを『モグリ』と呼び、モグリを見つけたらみんなで攫いヤクザの事務所に放り投げるという慣例がありました。ごく稀にいるんですよ、知ってか知らずか、ここ(歌舞伎町)でルールを無視して外販をする、舐め腐ったヤツが」
--ヤクザと外販はケツ持ち関係だけなのか。
「少ないですが元や現役のヤクザで外販をやってる人もいます。外販だけをシノギにしているのか、単にシノギのひとつなのかはわかりませんが」
そんなの当然なんだ、と藤田は話す。ここ歌舞伎町で違法な商売をすることにおいては、やはりヤクザなしではできないといわざるを得ない。
クスリの密売だけが異様に映る外販のルール
「もちろん、他にも細かいルールがありますよ」
こう言って、藤田が教えてくれた、歌舞伎町で各グループが協定を結んだ外販の禁止行為は次のとおり--。
・差し--女の子への声かけに際し、横からインターセプトする形で割り込むことの禁止。
・被せ--外販が女の子と話している際に、別の外販が「俺のほうが安い店を紹介できる」からと割り込むことを禁止。
・他の外販を出し抜くため、初回分の料金を女の子に渡し、店に女の子をタダで紹介してボーナス・バックだけを懐に入れることを禁止。
・店舗の前で女の子の「出待ち」をする際に、当該店舗があるビルの敷地内に立ち入ることを禁止。
ちなみに--。
・シャブや大麻の密売など、ヤクザの許可なく外販以外の商売をすることの禁止(ヤクザのシノギを邪魔することになるため)。
・店の名前、バック、女の子の人数などの売り上げ報告は隠語を使う。
・逮捕された際、ケツ持ち(ヤクザ)の存在をウタわない。
以上が、藤田が属していたグループ独自のものを交えた外販のルールだ。
どれも常識の範囲内だと思えるなか、クスリの密売だけが異様に映る。
「そうでもないですよ。過去に大麻を栽培して売ってたヤツがいて大問題になったことがありました。なかにはいるんですよ、歌舞伎町でルールを犯すこと、その意味すらわかってないヤツが」
藤田によれば、結末は「ヤクザにバレて拉致監禁」。いまも男は行方不明らしい。
文/高木瑞穂
ルポ 風俗の誕生
高木 瑞穂

2025/12/24
1,980円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4909979957
戦慄のベストセラー『売春島』著者の
話題の連載が待望の単行本化!
あのサービスやモノを生み出した当事者の証言から
島民が語る「売春島」のその後まで…
「男の夢」の起源を巡る旅
気鋭のノンフィクションライターの「ライフワーク」を集大成!
現代日本に普及した「男の風俗文化」の歴史に迫る
風俗ルポ、といってもよくある体験記ではない。
風俗業態の数あるモノやジャンルについて、
その「はじまり」から「現在」までを歩き、
ときには資料で補いながら綴ったものだ。
きっかけは「売春島」取材だった。
三重県志摩市の沖に浮かぶ渡鹿野島、
通称「売春島」の成り立ちを調べていて、
はじまりを探る楽しさに気づいた。
それは驚きの連続だった。
そこには当事者しか知らない事実と計算、
そして戦いがあったのだ。(「はじめに」より)