止まらない
物価高騰の波は、青果
市場にも押し寄せている。
円安による物流コストの増加や天候不順が常態化し、ジャガイモやニンジンは、平年の1.5倍ほどの価格で推移している。一汁一“菜”、日本食の根幹に関わる死活問題が起こるなか、破格の値段で野菜を売りさばく「激安青果店」が下町を中心に急増しているという。
その正体を探るべく、記者は現地へ向かった。東京スカイツリーを間近に仰ぐ、墨田区向島。下町情緒あふれるこの街の国道沿いに、噂の「やすマート」はある。
住所を頼りにたどり着いた古びたビルの1階。そこに見えたのはなぜか理髪店の看板。破れたビニールのひさしを尻目に戸惑いながら中を覗くと、店内にはところ狭しと野菜が積まれていた。
◆地域相場の半額!DIY感満載の店内
「昨日の“泥ネギ”おいしかった?」と先客の初老女性に話しかけるのは、ネパール人店主、サンジェイ氏(31歳)。客が途切れたタイミングで聞けば、昨秋オープンしたばかりだという。10年前、学生として来日し、コンビニや工場勤めを経てこの店を始めた。
店内に陳列棚はなく、野菜は段ボール
箱やカゴに入ったまま。値札は段ボールの切れ端に手書きされており、時折、誤字があるのもご愛嬌だ。そしてなにより目を引くのは価格の安さ。この日は大根99円、ニンジン2本で100円。キャベツは163円と、駅前のスーパーの半値ほどだった。
記者が驚いていると「こないだ店の前の棚をぜんぶ小松菜にして10円で売ってたヨ、300パックすぐ売れちゃった!」とサンジェイ氏は子供のようにニコニコ笑う。この地域では当たり前なのか、取材中、野菜でいっぱいのカゴを抱えた日本人の買い物客が何度も通り過ぎていった。
◆下町に
外国人の住民が急増した結果…
同じく向島に店を構え、創業120年を誇る老舗青果店「八百七」の代表・中村宗平氏は、下町の青果店の変化について、次のように語る。
「ここ一帯は昔からの住人が多い住宅地ですが、この10年で中国やネパール、ブラジルなど
外国人の住民が急増しました。中国人オーナーの青果店も目立ちますね」
近隣住民である
外国人たちは、彼ら独自の食文化ゆえに、日本人以上に安値へのこだわりが強いと語る。
「
サラダなら『
見た目』は重要ですが、炒め物や
カレーなど、彼らが得意とする料理は、その調理工程ゆえに味がよければ『
見た目』はさほど問題にならないんです。だから少しでも安いものが好まれる。用途が違うので『求める基準』も変わるのでしょう」(中村氏)
◆
外国人経営の「激安青果店」が増えた背景
また、消費経済
アナリストの渡辺広明氏は、
外国人経営の「激安青果店」が増えた背景をこう分析する。
「彼らの多くは、かつて
市場で袋詰めや荷下ろしの仕事をしていた経験者。現場で目利きや仕入れのノウハウを習得して独立しています。日本人は手を出さないような薄利多売のビジネスですが、なかには5〜10店舗経営する者も。彼らは同胞のつながりが強く、“チーム”で動くことで商機を見いだしているのです」
業態として青果店が好まれるのにも理由がある。
「肉や魚は、高性能な保冷庫など設備
投資が必須ですが、青果店は極端な話、商品を並べる台さえあればできる。居抜きで小規模な広さの物件を引き継げば、内装や什器の工事費も抑えられます。野菜の生育は天候に左右されるため、大手チェーンが得意とする仕入れ規模と年間計画の掛け算で成り立つスケールメリットが利きづらい。新興事業者が参入する余地があるんです」