
日本は諸外国と比べ、起業家を志す人が少ないと言われている。
そんな中、2023年、徳島・神山町に、日本初の“起業家を育成する”高専が開校した。
その名も「神山まるごと高専」。学校のコンセプトは「モノをつくる力で、コトを起こす」で、全寮制・実質無償で学べる私立の高専だ。
入試倍率が約10倍という狭き門を突破した、志の高い15歳の学生たちが全国から集結。
この中から起業家は誕生するのか、神山での5年間で学生たちは何を学び、どんな人生を選択するのか。そして、学生を支援する企業や経営者、スタッフが「未来への投資」に込めた思いとは。日本に起業家を育む土壌を耕そうと奮闘する、前代未聞の試みを追った。
【動画】「起業家高専」に密着!1期生のリアルな葛藤学費は実質無償。「若き起業家」を育てる異次元の教育

四国山地の大自然に抱かれた徳島・神山町(人口約4600人)。神山町は2005年、いち早くデジタル化にかじを切り、光ファイバー網を整備。
ネット環境が整うと、都会の企業15社のサテライトオフィスが集結。仕事と人の流れが生まれ、“奇跡の田舎”と呼ばれている。
そんな環境の中に、経済界が注目する「神山まるごと高専」がある。

日本全国から集まった学生の数は約125人。理事長で「Sansan」社長の寺田親弘さんは、「起業家の育成に特化して、必要なスキルや精神性も学べる。社会を変えていってほしい、それが起業家」と話す。
日本初の起業家を育てることを目的とした5年制の高等専門学校。入学試験の面接では、「社会を自ら変えたい」という思いも問われた。
選ばれた精鋭たちは、5年間でテクノロジーとデザインを専門的に学び、新しいものを生み出す力を育んでいく。

現役の経営者を招いた講義も定期的に行われ、学生たちには「モノをつくる力で、コトを起こす」ことが期待されているが、すでに自らテーマを持ち、成果を出している学生も。

3年生の藤原雪愛(ゆきな)さん(島根県出身)は、中学時代から「ウズラの有精卵をニワトリの卵の殻の中で人工的に孵化させる」というユニークな研究を続けている。孵化はすでに成功し、共同研究を持ちかける大学も。
「人間でも育つような子宮のカプセルを外部で作ったり…もしかしたら将来的にはできるかもしれない」。藤原さんは、いつか人間の不妊治療につながればと考えている。

1年生の3人組は、脳波でモノを動かす研究をしており、手足がまひしても考えるだけでモノを動かせる可能性を探っている。
「AIと同じように、脳波にもはやりが来ると思う。その時には一番乗りになりたい」(埼玉県出身 関根 彗(すい)さん)。
学費は実質無償で、“起業家を育てる”という理念に賛同した11の企業が10億円ずつ拠出。
「セコム」(東京・渋谷区)もその一つで、学びの機会を提供し、学生のアイデアを共に育てている。
「学生の囲い込みや青田買いではない。若い人の価値観が未来をつくる。それを信じて応援するしかないと思う」(「セコム」沙魚川久史さん)。
“アプリの子” が挑む地域貢献と、「ビジネス化の壁」

10月5日、「神山まるごと高専」の文化祭の準備が始まった。
起業家を目指す学生にとって大事な発表の場、町の人たちも巻き込んで大勢の客を呼び込もうとしている。

文化祭の運営にアプリを活用することが決まり、その開発に手を挙げたのが3年生で岡山県出身の中本慧思(さとし)さん。彼には実績があり、アプリの力で学生寮の暮らしを一変させた。
「テクノロジー×デザインを一番実践してくれている。寮生の未来、生活を変えてくれた」(寮長)。

慧思さんが開発したアプリの名前は「DOME(ドーム)」で、学校や寮への届け出を簡単にした。
例えば外出したい場合、日付や行き先を登録し、あわせて欠食届も出しておけば食事の無駄が出ない。さらにこのアプリを開くと、共用の洗濯機や自転車の使用状況も一目で分かる。

「DOME」は学内コンテストで最優秀賞を獲得。慧思さんはご褒美として、去年の夏にITベンチャーの聖地、カリフォルニアのシリコンバレーに派遣され、起業への思いを一層強くした。
今回文化祭用に開発するアプリは、起業への足がかりだと考えている慧思さん。
目玉の一つが店舗決済のキャッシュレスだが、「作り始めた頃から、決済の機能には納得していない」と話す。納得いくものを作りたいが、文化祭までは3週間を切っていた。
お金が絡むため決してミスは許されないが、慧思さんは納得のいく品質で文化祭に間に合わせることができるのか――。
「起業家を育成する」。仕掛け人の寺田親弘さんと、神山に移住したスタッフたちの思い
「神山まるごと高専」には教員を含め40人のスタッフがおり、その多くが神山町に移住してきた。

神奈川県から引っ越してきたクリエイティブディレクターの村山ザミット海優さんは、以前、大手広告会社に勤務し、「ドバイ万博」では日本館をプロデュース。
その後「神山まるごと高専」のイベントを手がけたことを機にヘッドハンティングされ、教育の現場に飛び込んだ。開校から3年、学生たちに寄り添い続けている。
「彼らにとっては、何十年もこの先生きていくうちの5年。入学して5年後に答えが出なくても、その先に実っていく原点がここにあったと言える5年間であってほしい」。

数日後の夜、村山さんと慧思さんは町の高齢者が集うカラオケ同好会に顔を出し、アプリの使い勝手を試してもらう。
慧思さんは、AIを活用して “若き日の顔”をよみがえらせる仕掛けを用意。つかみはOKで早速アプリの登録してもらうが、10人ほどの登録が1時間たっても終わらず、慧思さんにとっては思わぬ誤算に。これまで自力でアプリを開発してきたが、大きな壁に直面した。

一方、慧思さんと同じ1期生、3年生の中には、進路について悩む人が増えていた。先輩がいないため、将来をイメージできないのだ。
「正直、就職か進学か悩んでいる。ここに入ってドリーマーじゃなくなった」と話す井上 明(めい)さん(京都府出身)も1期生。自分が本当に起業家になりたいのか、迷いを感じ始めていた。
「1期生は特色のある人が多いから、仁瑚(にこ)はデザイン、慧思はテクノロジーとか…3人で見たときに、私は特色がない」(井上さん)。

町の小さな居酒屋は、スタッフの情報交換の場。この日の村山さんと大西栄樹さんの話題は、1期生が抱える不安について。
「今悩んでいるところから次の一歩になる部分を引き出せるのか、結構考える。どういう言葉を投げるべきなのか」「“起業家を育てる”という思いでみんな集まって来ているけど、学生を前にすると“起業しようよ”というのは自分でも怖さがある。背中を押してしまう怖さ。でも、学生たちが見ている未来にワクワクしたいと思う自分は大事」。

1期生やスタッフがさまざまな思いを抱える中、迎えた10月25日、文化祭当日。
慧思さんは前日まで、アプリの修正に追われていた。
そして開場30分前、慧思さんは想定外のトラブルに見舞われる。果たして何が起きたのか――。
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