話題になっているのは、Appleの次期CEO問題だ。現CEOの
ティム・クックは60代に入り、引退のタイミングを意識していると見られている。11月には英紙フィナンシャル・タイムズもAppleの取締役会が後任人事に着手したとの関係者の話を報じている。
公式な発表はないが、早ければ’26年にもトップ交代が行われる見込みで、「次は誰か?」という議論がすでにメディア上で盛り上がっている。
興味深いのは「これは単なる世代交代の話ではない」ということだ。AI時代に、Appleは誰に舵を任せるのか。この一点に、投資家もテック業界も神経を尖らせている。
◆■AI時代は「クックとは別の役割」が必要?
ティム・クックへの評価は極めて高い。
「オペレーション面では歴代最高のCEO」
「サプライチェーンをここまで完成させた経営者はいない」
「株主にとっては理想的すぎる存在だった」
カリスマ的経営者だった
スティーブ・ジョブズの後継者としてAppleを世界最高の企業のひとつとして成長し続けた手腕は称賛を浴びている。
ただ、こうした称賛とセットで、必ず出てくるのが次の一言だ。
「でも、AI時代でも同じタイプが最適とは限らない」
「Appleはまだ“AIで世界をどう変えるか”という物語を描けていない」
誰もクックを全面的に否定しているわけではない。ただAI全盛期の時代を迎えるにあたって「次は違う役割が必要なのではないか」という不安が語られている。
◆■「ジョブズでも替えが効いた」は本当か?
2011年、
スティーブ・ジョブズが亡くなったとき、世界中が本気でこう思った。
--Appleは、もう終わるんじゃないか?
だが結果は真逆だった。
ティム・クック体制の約15年で、Appleの売上は約4倍、株価は10倍以上に成長した。
数年前、ふと見たテレビ番組で、お笑い芸人のカズレーザーさんがこんな発言をしていた。
「ジョブズでも替えがいるんだったら大丈夫ですよ」
これは、「ジョブズだって替えが効いた。だからあなたの代わりもきっとどこかにはいる。だから『自分がなんとかしなきゃ!』と気負いすぎてメンタルを病んでしまうなんてもったいない。もっと気楽に生きよう」という、カズレーザーさんからの優しいメッセージだった。まじめに頑張りすぎてしまう多くの日本人に救いになったはずだ。
ただし、ここで一つ注意したい。
ジョブズは“替えが利いた”わけではないと思う。
◆■ジョブズとクックは同じCEOでも別の仕事をしていた
この議論を理解するには、ジョブズと
ティム・クックを「どちらが上か」で比べないことが重要だと思う。
ジョブズは、明確にファウンダー(創業者)だった。iPhoneやMacのように、世界にまだ存在しない体験を形にし、「それが欲しい」と思わせることが仕事だった。
一方、
ティム・クックはオペレーター(運営者)だ。サプライチェーンを徹底的に最適化し、品質と利益率を安定させ、巨大な組織を壊さずに回し続けた。
ジョブズは「何を作るか」を決めた人。クックは「それをどう拡大していくか」を極めた人。
どちらも不可欠だった。ただ役割が違った。
この話はマイクロソフトの歴史を引き合いに出すとさらに理解を深められると思う。
ビル・ゲイツはマイクロソフトを創業して一世を風靡した。その時点では「WindowsとOfficeを押さえれば世界を制する」という明確な勝ち筋を持っていた。
だが2010年前後、状況が変わる。スマートフォンでは後れを取り、クラウドでも他社に先行された。
社内では「Windowsを中心にすべきか」で部署同士が対立し、「自分の部署が勝てばいい」という空気が強まり、会社全体としてどこへ向かうのかが見えなくなった。これが、マイクロソフトの“低迷”の正体だったと言われている。