宇宙開発が進むにつれて「月や
火星に人類のコロニーを築く」という計画が現実味を帯びていますが、根本的な疑問として「人類は
宇宙を植民地にするべきなのか?」というものがあります。この疑問について5人の専門家に尋ねた結果を、学術系
メディアのThe Conversationがまとめています。
Should humans colonise space? We asked 5 experts
https://theconversation.com/should-humans-colonise-space-we-asked-5-experts-267436

◆カーステン・バンクス氏(スウィンバーン工科大学の天体物理学者)の答え:ノー
バンクス氏は「人類は
宇宙を植民地にするべきなのか?」という質問について、そもそも「植民地にする」という言葉に問題があると指摘。「colonisation(植民地化)」という言葉は、そこに住んでいた人々に関係なくある場所に定住し、政治的支配を確立するという意味です。これには重い
歴史的意味合いがあり、オーストラリアではヨーロッパ人の植民地化により、アボリジニや島しょ部の先住民に今なお残る深刻な影響が及んでいます。
こうした背景を踏まえ、バンクス氏は「人類の
宇宙への旅と地球外に人類の拠点を築く可能性について、私は今も非常に興奮しています。しかし、この追求が潜在的な生命を犠牲にして行われるべきだとは考えていません。もし地球外生命体が存在するならば、その自律性を尊重することは倫理的義務であるだけでなく、そのような生命を責任を持って誠実に研究する能力を保全・保護するためにも不可欠です」と述べました。
◆
アリス・ゴーマン氏(フリンダース大学の
宇宙考古学准教授)の答え:ノー
ゴーマン氏は、
資本主義システムにおいて現在の
宇宙が「搾取の対象になる資源」として扱われており、これはかつての植民地主義
モデルにおける先住民の土地と重なるもので、持続可能な考えではないと指摘。人々は
宇宙を「生命が存在しない死んだ環境」と見なしがちですが、たとえ生命がいなくても惑星や衛星は動的な環境であり、それを乱すべきではないと主張しています。
一方で、人類は
宇宙を目指すべきではないというわけではなく、環境を単なる資源ではなく対等なパートナーと見なす「model of co-participation(共参加
モデル)」を適用することで、人類は
宇宙の繁栄を考えつつ進出可能だとのこと。ゴーマン氏は、「人類が
宇宙を植民地化するのではなく、共住するための準備が整うには、根本的な
考え方の転換が必要です」と述べました。

◆サラ・ウェッブ氏(スウィンバーン工科大学の天体物理学者)の答え:イエス
ウェッブ氏は
天文学者として人類の未来を
宇宙の時間スケールで考えた場合、40億〜50億年後には太陽は死に、地球もそれとともに滅びることは間違いないと指摘。そう考えると、人類が生き残るためには地球外で生活することが必要不可欠といえます。
しかし、この未来はすぐに訪れるものではないため、記事作成時点では
宇宙を
科学的研究や基礎研究に利用するべきだとのこと。たとえば国際
宇宙ステーション(ISS)のような軌道上の施設は、生物がどのように
宇宙に適応するのかを理解する上で重要なデータを提供し、将来の
宇宙進出ミッションの基礎を築く役に立ちます。
ウェッブ氏は、「私が生きているうちに、人類初の
火星に到達した人物を見ることになるでしょう。それは開拓者ではなく
科学者です。地球は今後数百年、いや数千年にわたって、私たちの最良の住居であり続けます。私たちの焦点は、地球を理解して保護することに置かれるべきであり、
宇宙探査は極めて長期的な未来への準備として活用されるべきです」と主張しました。

◆ベン・ブランブル氏(オーストラリア国立大学の哲学者)の答え:ノー
ブランブル氏は、人類を脅かす脅威からのバックアップとして月や
火星に植民地を築くことは、人類を救うよりも危機にさらす可能性が高いと指摘しています。こうした植民地活動は説明責任のない強大な権力を少数の個人や企業に集中させ、「巨大な物体を動かして環境を再構築する」というミッションに用いられる技術が、意図的であろうと偶発的であろうと悪用されるリスクが生じるとのこと。
地球外への植民地建設が政府間の対立を激化させ、地球における紛争のリスクを軽減するどころか高める可能性もあります。SFの話のように思われるかもしれませんが、月や
火星に築いた植民地が地球そのものに対して敵対的になる可能性もあります。
加えて、真に自立した
火星コロニーを建造するには数世紀かかるとみられますが、そもそも人類がコロニー完成まで生き残るには、記事作成時点で地球を苦しめている脅威を解決する必要があります。
火星を居住可能にできるほどの技術が手に入れば、それを使用して地球環境を改善するのも簡単だろうというのがブランブル氏の考えです。
ブランブル氏は、「人類が生き残って繁栄するための最善の望みは、この惑星を放棄するのではなく再生することに知恵を集中させることです。それは
宇宙探査機や人工衛星、望遠鏡を用いて
宇宙の理解を深めつつ、植民地化を試みない形で
宇宙における刺激的な
科学を継続することと両立できます」と述べました。

◆アート・コッタレル氏(オーストラリア国立大学の政治学者)の答え:ノー
コッタレル氏は、
宇宙を植民地化するという議論は「搾取」や「帝国建設」といった、植民地主義的なストーリーとアイデアを呼び起こすものだと指摘。こうした論理は先住民から財産を奪い、現代に至るまで不平等を固定化させ続けていると批判しています。
1967年に発効した
宇宙条約(月その他の天体を含む
宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)では、天体を含む
宇宙空間の探査および利用は「すべての国の利益のために」「国際法に従って」全人類が自由に行うことができると定められています。これは、
マスク氏が掲げる「
火星に自立した都市を築きたい」といった願望とは相いれないもので、
アメリカや中国が月面基地建設を巡って繰り広げる「
宇宙開発競争」も
宇宙条約のビジョンと一致しないとのこと。
コッタレル氏は、「私たちは気候変動の加速や地政学的な分断、貧困の増加などを経験しています。
宇宙の植民地化は、これらの危機と原因を地球外へ拡大させるリスクを伴います。そうするのではなく、
宇宙の『淡く青い点』である私たちの惑星において、これらの課題に集団で立ち向かう手助けとなる可能性を探究するべきです」と主張しました。