かねてより大人たちにとって“銀座でフレンチ”は特別な体験だったが、新しき胎動を感じられるのもやはり、この街なのだ。
1.この街らしからぬ静寂の導線に、かつてない高まりを覚える
『アマラントス』

エントランスからダイニングへと向かう廊下は、どこか近未来的な雰囲気に包まれ、美食への期待がふくらむ。序盤から、銀座らしいラグジュアリーな高揚感がゲストを包む
銀座の中央通り界隈の街路灯には女性を美しく見せるランプが使われていることは有名だが、訪れるだけでとびきり華やかなオーラを纏うことができる銀座のフレンチといえば『アマラントス』だ。

アマランサスの花をイメージしたオールドバカラのプレートが空間のいたるところに配されている。柔らかで優美な輝きは、料理の見目麗しさにも通ずるのだ。空間デザインは国内外で活躍する森田恭通氏が手掛けたと聞けば、その華麗さに納得がいく
ミラーを用いたフューチャリスティックな廊下の先に広がるダイニングは、オールドバカラのプレートが煌めき、植物モチーフのデザインが随所にちりばめられている。
美しさに目を奪われ、その味に銀座の今を思い知る

愛らしい盛り付けの「カナッペ」。コンテチーズを詰めたシュー、レモンビネガーの風味を添えたホタテのマリネ、プラムのジュレでコーティングしたフォアグラなど。内容は時季によって異なる
オーナーシェフの宮粼慎太郎さんの美的センスは、7皿で構成されるコースにも存分に発揮される。パティシエからキャリアをスタートし、繊細な技を生かした料理は見事のひと言。
古典とモダンの融合をテーマのひとつに掲げ、フランス料理の普遍性を極めながら華やかな皿に仕立てる。

「オマールブルーとズッキーニ」。薄くスライスしたズッキーニやオマールエビの
ミキュイの旨みと
香りが重なり合う。美しいソースのあしらいに、思わず心が躍る。いずれも¥33,000のコースから
シェフの真骨頂である精緻な技術に魅せられるアミューズや冷前菜が続き、ソース使いの巧みさに思わずうなる。
柔らかな酸をしのばせるのも得意技のひとつで、銀座での夢見心地な時間が永く続くことを願わずにいられない。

2.和の品格とフランス料理の融合。この驚きこそが銀座フレンチの最先端
『現代茶寮 銀座凮月堂』

シェフの静かな情熱ともてなしの心が伝わる空間はアートギャラリーのような静謐さ。調理風景を間近に見られるカウンターで、美食の時間に身を委ねたい
銀座には浪漫という言葉がよく似合う。そうした街の個性とイメージを育んできたのは、間違いなく老舗の存在が大きい。
『現代茶寮 銀座凮月堂』の歴史を紐解くと、前身の米津凮月堂が150年も前に銀座でいち早くフランス料理の店を手掛けたことに始まる。
温故知新の心のもとに先駆者の思いの“受け継ぎ手”となったのは、平成生まれの槙 紫音さんだ。
フランス料理業界では“若手”であるが、その歩みは逞しく、徹底的に古典にフォーカスした料理には食べ手の心を震わせるほどの凄みがある。
伝統的な技法をエレガントに再現。老舗の看板に偽りなし
風と月のモチーフに彩られた空間で供されるのは、ベテランシェフも思わず舌を巻くであろうクラシックの頂のような料理だ。

「青森県産 銀の鴨 ソースサルミ」。胸肉は皮を乾燥させてからローストに、ももは火入れの技術が光るコンフィで。異なる調理法で肉の旨みを引き出し、部位の個性が存分に生かされている
青森県産の銀の鴨を部位ごとに異なる調理法で。

「ラカン産 小鳩と美唄の蝦夷鹿のパイ包み」。小鳩と蝦夷鹿のジュ、赤ワインを煮詰めたボルドレーズソースでいただく、豊かな味わいの逸品
美しい断面にも技術の高さがうかがえるパイ包みは鹿とフォアグラ、鳩の野性と品が共存した味わいを濃厚なボルドレーズソースが抱きとめており、そのハーモニーに言葉を失う。

シェフとともに店をもり立てる
ソムリエの中山陽弘さんと、月に1回はワインを試飲しながらベストマリアージュを探求。ヴィンテージワインを中心としたワインペアリングは¥15,000〜
料理の味の芯部を捉えたワインペアリングもとてつもなく緻密。

「〇△□」と名付けられた旬果は“銀座凮月堂”の
歴史へのオマージュでもある。
沖縄県・波照間の黒糖でつくる黒蜜と、愛知県・西尾の
抹茶を使った「
抹茶ラテ」(¥1,870)と一緒に。料理はすべて¥27,600のディナーコースから
浪漫の街に、新しいフランス料理の歴史が刻まれる。

3.雑居ビルの鉄扉。港区的なロジックがこの街では新鮮
『0711 GiNZA BiSTRO』

銀座一華やかな高級クラブ街から一本入った、金春通りにたたずむ古い雑居ビルの3階。エレベーターはなく、階段を上ると現れる扉に、ひっそりと店名が刻まれている
夜が早い銀座では、ディナータイムを逃すと納得のいくレストラン探しは難しい。そんなこの街に、深夜でもフレンチが味わえる店が誕生した。
『0711 GiNZA BiSTRO』は、誰もが知る名店がひしめく場所にありながらも、モードな雰囲気をまとい、気負わず使える。だからこそ「銀座フレンチ」のデビューにうってつけというわけ。

しっとりした暗めの照明がムードを醸す
古びた雑居ビルの中に潜む隠れ家の扉を開けば、スタイリッシュなカウンターが広がる。
そのギャップも、デートを盛り上げる仕掛けのひとつだ。

「静岡 紅富士の
スモーク ディルのヴィネグレット」¥2,400〜。富士山の湧き水で育てた、清らかな鱒を自家
スモークした、人気メニュー。月に1度はメニューが替わる
料理はモダンなプレゼンテーションながら、クラシックなソースを大切にするなど、軸足はしっかり地についている。
シェフの下山尚紀さんは中華料理やスペイン料理の経験もあり、ジャンルを飛び越えた技法も柔軟に料理に取り入れる。
実はこの場所、元は老舗のふぐ料理店。そこに縁があった仲間で新たに店を立ち上げたという異色の成り立ちだ。そのストーリーを明かせば、ディナーの会話もほどよく弾みがつく。

フランスのナチュラルワイン中心にそろえる。リストはないので、ボトルは
ソムリエと
相談して選びたい
夜更けのバーを思わせるムーディな照明の下で、フレンチを味わう。そんな時間によく似合う一軒だ。

4.ペントハウスに潜む深夜フレンチは覚えておくだけで価値がある
『CACHETTE Chez T. et. Y』

家の階段を思わせる導線の先にフロアが広がる
銀座のど真ん中で、看板のないレストラン『CACHETTE Chez T. et. Y』へ。それだけでも気分は上がるが、さらにゲストを驚かせるのは、ドアを開ける代わりに押すインターホン。
まるで秘密の扉をノックするような非日常感が、この日のディナーに心地良い刺激を加えてくれる。

ブルーのイスが印象的な空間も、どこか友人宅に招かれたようなリラックスしたムードを醸し出す。キッチン前の席はシェフとの会話が弾む特等席だ
一歩足を踏み入れると、広がるのはまるで誰かの家のような空間。そして階段の先に現れるのが、オープンキッチンのレストラン。
実はビルオーナーの住居だったと聞けば、このユニークな造りにも納得がいく。
カウンターで腕を振るうのは、フランスでも修業を積んだシェフの田辺晴樹さん。ここではあえてフレンチの枠にとらわれず、ゲストの好みに寄り添いたいという。
「会話も料理のスパイスだと思うんです」と、ゲストと交わす会話から好みを引き出したり、グラスに注がれたワインに合わせて付け合わせを替えたり。ときには「これが食べたい」というわがままにも応えてくれる。

リヨンで修業したシェフの思い出の料理が「サラダ リヨネーズ」¥2,380。
ポーチドエッグをカラフルにアレンジしている。

「備前牛のロティ」(¥4,980)はカラフルなペーストを添えて、味変を楽しませる。
季節のタルトが楽しく夜を締める

季節のフルーツを使った
デザートが人気。この日は、長野パープルとシャインマスカットのタルト。生地も手作りで、中にはカスタードクリームやクレームダマンドを入れ、マスカットのリキュール・ミスティアをきかせている
そんな温かなホスピタリティに包まれれば、初めてでもまるでいきつけのような心地良さ。
気付けば、連れた相手の笑顔もおのずと引き出してくれる。
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