人気ハンバーグ店の「白米食べ放題」に暗雲…

2024年9月にオープンした人気の飲食店「君のハンバーグを食べたい」(東京・渋谷)。
店の看板メニューはジューシーな手ごねハンバーグで、一緒に食べるのは釜で炊き上げた白米。店では毎朝、選りすぐりの銘柄米を精米している。
実はこの店、こだわりの白米が食べ放放題なのだ。
去年から続くコメの高騰で、仕入れ価格は約2倍に。それでもこの店は30円値上げしただけで、なんとか白米の食べ放題を続けてきた。しかし、一向に下がる気配のない仕入れ値に、担当者は頭を抱えている。

3月以降、政府が備蓄米を放出したことで、一度は下落したコメの価格。しかし再び上昇し、新米が出回った今も、コメの平均店頭価格は5キロ4208円(10月20〜26日)と、高止まりが続いている。
街の人に話を聞くと、「高い。備蓄米を買うしかない」「もう少し安くなってもらわないと。最近お米を食べなくなった」との声が。
当たり前のようにおいしいコメを食べられる…そんな小さな幸せを、どうすれば守っていけるのか。
“安く大量に”常識破りのコメ作りに挑む異端児

山あいに田園風景が広がる鳥取市。この地で農業を営む村田 仁さん(77)は、会社を定年退職してから16年、先祖から受け継いだ土地でコメ作りを続けてきた。
しかし村田さんは、「自分の田んぼだと言っても、体力的にあと何年できるか分からない」と話す。
全国のコメ農家の平均年齢は71.1歳で、高齢化にともない離農者も増えている。
村田さんには子どもがいるが、跡を継がせることは考えておらず、「特に農業は大変だと思う。今の状態では先行きがない」と話す。

村田さんは3年前、これまで耕していた田んぼの大半を農業法人「トゥリーアンドノーフ」(鳥取市)の徳本修一さん(49)に託した。徳本さんはコメの値上がりに異議を唱え、日本のコメ作りに革命を起こそうとしている人物だ。
徳本さんがコメ作りを始めたのは6年前。毎年農地を広げていき、今や約100ヘクタール、東京ドーム21個分を管理している。
「米価は1〜2年すごく高いと騒がれているが、ずっと安かった。ほとんどの農家が利益を出していなかったし、赤字でもやっていた。高齢化でやめていく人が増えて、そういう田んぼをうちが預かって、面積が急拡大している状況」。

実は徳本さん、かなり変わった方法でコメ作りをしている。
徳本さんが3年前に始めたのが、水を張らず、乾いた田んぼに種を直接まく新たなコメ作り。暑さに強い品種「きぬむすめ」の種をまいていく。

「節水型乾田直播」と呼ばれる栽培方法だが、水田に苗を植える重労働がなく、稲を刈り取るまでに必要な水は7、8回、土を湿らせる程度。大幅に節水できる。
「苗作りから田植えをするのはものすごく労力がかかるので、うちはそこを全部すっ飛ばしてじかにまく。圧倒的に時短になる。田植えと比較すると、投下労働時間もコストも3分の1ぐらいになる」。
今年、徳本さんは、「節水型乾田直播」で500枚の田んぼのうち60枚で試験栽培することに。
「最終的なゴールは、収量も品質も落とさず、食べておいしいコメ。このコメができたら、さらにイノベーションが進むと思う」。

5月5日。徳本さんと近所の農家たちは、地域の田んぼに水を引くため、水路掃除を始めた。農家の高齢化が進むなか、若い徳本さんへの期待は増すばかり。「我々は非常に助かっている。彼が入らずに昔ながらのやり方でやっていたら、この辺はみんな耕作放棄地になっていたのではないか。私が動けなくなったら、彼に全部任せるしかない」と話す農家の人も。
徳本さんも、地域の将来に不安を感じていた。5年前、約85万⼈いたコメ農家は、2040年には約30万⼈に減少するという予測もある。(出所:全国米穀販売事業共済共同連合)。

しかし、種をまいてから1カ月たった5月22日、徳本さんは深刻なトラブルに見舞われる。種から芽が出ているのは約1割で、あちこちの田んぼで発芽不良が続出していた。
このままでは、今年の収穫は壊滅的だ。

徳本さんが調べた結果、種に問題があることが発覚。新しい種をまき直すことを決断した。
水田に苗を植えるのとは全く違う「節水型乾田直播」は、種の発芽率が収穫量に直結する。
1日でも早くまき直さなければ、生育にも大きな影響が…作業は連日、夜遅くまで続いた。

7月10日、種をまき直してから約1カ月半が経過。田んぼでは、苗が元気に育っていた。最悪の事態を回避し、まずはひと安心だ。
地元、鳥取で生まれ育ち、10代はバンド活動に明け暮れた徳本さん。「まさか自分が農業をやるとは。歌手でスーパースターになろうと思っていた」と話す。
しかし、23歳で上京するも現実は甘くなく、歌手になる夢を諦め、30歳でIT企業の営業マンに転身。持ち前のトーク力で売り上げの7割を一人でたたき出し、取締役に昇進した。
当時はヒルズ族が集う六本木でバラ色の日々を送っていたが、2008年のリーマン・ショックが人生の転機となる。
「自分たちと関係ないところで経済バブルが弾けたことによって、なんでここまで俺らの仕事が影響を受けるんだと。もっと地に足がついた、実態のあるゼロから1を生み出せる仕事をしたいと思った」。

2009年、徳本さんは家族と鳥取にUターンし、有機野菜のネット通販を開始。さらに畑を借りて自ら有機野菜の栽培にも乗り出すが、ことごとく失敗してしまう。
「ずっと赤字で3年くらい全く野菜が作れなかった。地域からも『徳本っていうのは、最初は威勢が良かったけど、何も物ができない』と言われ、顧客の信頼も失った。ずっと畑で謝っていた」。

数多くの失敗を経験し、最新のテクノロジーを駆使した“科学的な農業”にたどり着いた徳本さん。
今では人工衛星を使ったシステムを導入し、効率化を図ることで、約100ヘクタールの田んぼをわずか3人で管理している。さらに、点在する田んぼを集約できれば、もっとコストを下げられるという。
「日本も低コストのコメ作りはできるはずだが、今までできなかった。農家が多すぎた。(農地が)細分化されて、みんなが手間暇かけているが、どんどんそのシステムが崩れてきて、さらに離農が進む。でもこれって、本当に悪いことなのか?
我々のところに農地が集積すれば、低コストで安定供給できるので、消費者も適正価格でコメが買える。農家がこういう発言をするとみんな怒ると思うが、こういう話をしていかないとダメ」(徳本さん)。

7月9日。「節水型乾田直播」で栽培している埼玉・杉戸町の田んぼに、小泉進次郎農林水産大臣(当時)の姿が。コメの生産性が大幅に上がると聞きつけ、田んぼの視察にやって来たのだ。その現場にいた徳本さんも、小泉大臣に直接メリットを説明した。

すると、徳本さんと小泉大臣は意気投合。なんとユーチューブで小泉大臣と対談することが決まった。そしてこの後、当時の政府は、半世紀も続いてきたコメ政策を大転換し、「コメ増産」に舵を切ることに。しかし、10月に高市新政権が発足し、再びコメ政策に急展開が…。
安くておいしいコメは本当に作れるのか。
そしてそんな徳本さんを、さらなる試練が襲う――。

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