この機会に連ドラにおける三谷作品をあらためて考えてみようと思ったが、『振り返れば奴がいる』は事実上のデビュー作であり、まだ持ち味を発揮したとは言いづらい。『古畑任三郎』は今作とは異なる1話完結の倒叙ミステリー。『総理と呼ばないで』と『合い言葉は勇気』は視聴者数が伸びず、『もしがく』と比べてもピンと来ない人が多い。
やはり『王様のレストラン』(フジ系、FODで配信中)が最も比較しやすく、多くの人々にわかりやすいだろう。同作を『もしがく』と比較しながらドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

『王様のレストラン』(C)フジ
テレビ/共同
テレビ○ドラマ版「三谷喜劇」とは何なのか
三谷幸喜の十八番と言えば、劇
作家らしいシチュエーションコメディであることは間違いないところ。「ワンシチュエーションで連ドラを成立させられる脚本家は三谷幸喜しかいない」と言われるほどであり、『王様のレストラン』がまさにそうだった。
ワンシチュエーションでなくても、限られた町やスポット、関連性のある複数箇所における人間模様を描いた作品も多く、『もしがく』もその1つ。そんな限定された空間での人間模様や悲喜こもごもが「三谷喜劇」「三谷ワールド」などと言われ、親しまれてきた。
限定されているのは空間だけではなく登場人物も同様。『王様のレストラン』は店で働く12人、『もしがく』は町で生きる25人の日常が描かれているが、両作に共通しているのは、登場人物のほとんどに短所や人間くさい言動があること。人間のおかしさ、ずるさ、哀しさなどを愛きょうたっぷりに表現した上で、紆余曲折を経て絆を深め、小さな奇跡を成し遂げる等身大のサクセスストーリーが感動を誘ってきた。
『王様のレストラン』で特に感動を誘った“小さな奇跡”は最終話。それは主人公のギャルソン・千石武(九代目松本幸四郎、現・二代目松本白鸚)でも、若きオーナー・原田禄郎(筒井道隆)でも、料理長・磯野しずか(山口智子)でもない、ある1人のレストランスタッフに訪れ、視聴者を笑い泣きさせるエンディングにつながった。
話題性を狙った「極端な設定」「驚がくの急展開」のような脚本家にとって都合のいい手法をほとんど使わないことも三谷脚本の共通点。『王様のレストラン』は飲食店における日常のハプニングや試練を積み重ねた作品であり、カスタマーハラスメント、経営状態の悪化によるリストラ、離れて住む従業員の息子が来店、気難しいVIPの来店、料理人の引き抜きなどのエピソードが描かれた。
『もしがく』も、
渋谷の劇場に出入りする人々が紆余曲折を経て絆を深め、小さな奇跡を成し遂げる物語であり、各話のエピソードは日常の小さなハプニングや試練が描かれていくのだろう。
ただ、『もしがく』はあえて『王様のレストラン』よりも過去の時代を選び、1984年のムードをベースにした若者群像劇というムードがある。「三谷自身が若者だったころを描く」というプロデュースは『王様のレストラン』などの三谷作品にはない独自色であり、これがどのように受け止められるのかまだわからない。
●ドラマにおける“三谷組”の最高峰
話題をキャストに移すと、『もしがく』は菅田、二階堂、神木、浜辺と令和を代表する若手主演俳優が集結。彼らを小林薫、坂東彌十郎、井上順、野間口徹、シルビア・グラブ、野添義弘、長野里美ら芝居巧者のベテランが支えるという図式が見られる。
一方、『王様のレストラン』は西村雅彦(現・西村まさ彦)、小野武彦、梶原善、白井晃ら “三谷組”の舞台系俳優を大量にキャスティング。彼らの扱いは、メインの九代目松本幸四郎、筒井道隆、山口智子、鈴木京香とほとんど同列に見えるほどだった。
そもそも三谷作品はキャストの数だけキャラクターの数があって、それぞれにセリフや見せ場が用意されている。さらにそんな「一見バラバラのキャラクターが、“ここぞ”という時にチームワークを発揮する」というエモーショナルな展開は、三谷組がそろう『王様のレストラン』が今なお最高レベルなのかもしれない。
そしてもう1つ、キャスティングにおける三谷作品の共通点は、主演俳優に与えられるハイプレッシャーな役柄。実際、『王様のレストラン』の九代目松本幸四郎は“伝説のギャルソン”、『もしがく』の
菅田将暉は俳優の彼に“劇団演出家”という難役を演じさせている。加えて三谷が「特定の俳優をイメージして脚本を書く“あて書き”をすることで彼らのプレッシャーを高め、スキルを引き出している」と言っていいだろう。
『王様のレストラン』が放送された1995年から30年が過ぎた今見直してみると、九代目松本幸四郎の一挙手一投足にあらためて引き込まれる。「千石武を演じられるのはこの人しか考えられない」と思わせる三谷のあて書きと松本の役作り。これだけ多くの登場人物にスポットを当てた作品でありながら、主演に選ばれた必然性を再確認させられる。
○放送終了後にファンが増えた奇跡
これまで個人的に『王様のレストラン』を解説する機会は何度かあったが、必ず盛り込んでいたのが、「放送当時は話題性も視聴率もそれほど高くなかった」こと。当時は「面白かったけど大好きとまではいかない」「他ドラマのほうを優先的に見ていた」という人が多く、熱烈なファンがいるわけでもなかった。
しかし、再放送が繰り返され、ジワジワとクチコミが広がり、その素晴らしさに気づいて声をあげる人が増えていった。連ドラは見れば見るほど飽きられ、年月が経過するほど時代に合わず共感を集めづらくなっていくものだが、『王様のレストラン』は例外。時を経て色あせるどころか、輝きを増す
宝石のような作品と言っていいのではないか。
これまで何度か三谷に話を聞く機会があり、そのたびに「民放の連ドラはもう書かないのですか?」と尋ねていた。すると三谷の返事は「ぜひやりたい」「特に理由がないのでオファーがあれば」などの前向きなものばかり。しかし、「けっきょく大河ドラマ以外はやらないな」と思わされていたが、ついに民放の連ドラに帰ってきた。
そんな
テレビの連ドラに強い思い入れを持つ三谷は、今後どんな作品を手がけていくのか。連ドラが正味45分×10〜11回で登場人物をじっくり描けるものであり続ける限り、どんな舞台とキャストを選んだとしても、『王様のレストラン』の系譜を継ぐような作品になっていくのだろう。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相に
フィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・
テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。
雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジ
テレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら