インターネットに接続している端末がどの地域にあるのかを見分けるのに、IPアドレス等が使われます。アジア・太平洋地域を管轄する地域インターネットレジストリ・APNICの主任
科学者で、オーストラリアで初期の大学間インターネット構築に携わったジェフ・ヒューストン氏は、世界中に衛星
ネットワークを展開するStarlinkの接続端末に位置情報の不確実性があるとして、その問題点について言及しています。
ISP Column - September 2025
https://www.potaroo.net/ispcol/2025-09/starlinkgeo.html
APNICは各国経済圏内のインターネットサービスプロバイダー(ISP)
市場シェアを追跡できるか調査を進めており、その測定基準としてIPアドレスやGoogle
広告のインプレッションを用いた位置情報特定を行っているそうです。しかし、1人のユーザーが単一のISPに接続するというほぼあり得ない仮定を元に計測することになるため、その結果には疑義が生じるとのこと。
特に、あるISPが単一の地域あるいは国を管轄しているという前提は、Starlinkのような衛星サービスの存在で破綻するそうです。
Starlinkは自社割り当てのIPアドレスを用いて小売サービスを提供しているため、前述の測定方法でStarlinkの利用者がおおよそ特定できるそうです。ところが、ヒューストン氏らが推定人口3500万人、インターネット利用者1000万人のイエメンで測定したところ、ダントツの1位がStarlinkで、その利用者はおよそ620万人に上ることが判明。2位は政府所有の公衆電気通信公社で、利用者数は推定約340万人でした。
イエメンではかつてフーシ派がISPを独占しており、検閲があり低速な回線を回避するため、多くの国民が2024年から利用できるようになったStarlinkに飛びついたとされていますが、それでもあまりにも多い利用者数であり、疑わしいと言わざるを得ないそうです。

ヒューストン氏によると、このような推定値が出る理由の1つが、紅海における船舶の往来量だそうです。Starlinkの地理位置情報データはすべてのIPアドレスをいずれかの国にマッピングしようとするため、海上を航行中の船舶でStarlinkを利用している場合でも、陸地にマッピングされたIPアドレスが割り当てられます。その結果、イエメンのIPアドレスを拾っている可能性があるということです。ただ、海上の人々だけで1日約5万インプレッションが発生すると計算するのはやや無理があるため、唯一の要因ではないかもしれないといいます。
もう一つの可能性が、Starlinkの位置情報データが現実を反映していないという点です。Starlinkのサービス提供可能地域マップによれば、イエメン、
オマーン、
カタール、バーレーン、イスラエル、
ヨルダン、ソ
マリアでは国の運用承認を取得していて、サウジアラビア、エジプト、スーダン、
エリトリア、
エチオピアでは承認を得ていません。
こうした未承認の国では、Starlink再販業者が他国で取得したStarlinkを再頒布しているという報告が後を絶ちません。イエメンでも政府の承認前は違法なキットが取引されていたそうです。
SpaceXの衛星通信サービス「Starlink」のキットが違法に取引されていることが報告される - GIGAZINE

仮に事実であれば、サウジアラビアなど隣国のユーザーがイエメンで登録されたStarlinkを利用している可能性は十分にあるといいます。
イエメンと同様の国は多くあります。Starlinkの地理位置情報データに基づき割り当てられた
広告配信データは152カ国に及びますが、21の国でStarlinkが
広告配信量の10%以上を占めており、これはやや疑問が残る数字だとのことです。
ヒューストン氏は「いくつかの要因により、国内でのStarlink利用率が過大評価されている可能性が高く、その結果、国内ISP
市場の予測がゆがめられています。衛星サービスを利用したグローバルローミングサービスの普及は、IP位置情報とその役割に関する根本的な疑問を提起します。ユーザーの正確な物理的位置を指すのか?それとも誰かが地図上に引いた国境を指しているのか、この場合、海上の位置には新たな位置コードが必要か、そもそも『海上』の定義とは何か、空はどうなのかといった問題です。APNIC Labsでは、上記の国を参照するStarlinkの地理的位置データを上書きし、代わりにこの部分のStarlink地理的位置データに『未分類』の指定を割り当てることを決定しました」と述べました。