中央アジア南西部に位置するトルクメニスタンは「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれる独裁国家であり、国民のインターネットアクセスが厳しく制限されています。そんなトルクメニスタン当局は、厳しいインターネットアクセスの制限を「高額なVPNサービスを販売するビジネス」に変えていると、匿名通信システム「Tor」プロジェクトの公式ブログで解説されています。
Corruption and Control: How Turkmenistan turned internet censorship into a business | The Tor Project
https://blog.torproject.org/Corruption-Control-Turkmenistan-internet-censorship-business/

一般的にTorを含む現代の検閲回避システムは、「インターネットの大部分をブロックすると損害が大きすぎるため、検閲側もインターネットの一部しかブロックできない」という考えに基づいています。しかし、トルクメニスタンでは付随的な損害を顧みることなく、検閲側がインターネットの大部分を公然とブロックしているとのこと。
Torプロジェクトはトルクメニスタンのインターネット検閲について考える前に、トルクメニスタンという国の現状を理解することが大事だと指摘しています。トルクメニスタンは旧ソビエト連邦の構成国のひとつであり、人口は約600万人。1991年に独立して以降、抑圧的な全体主義政権による独裁体制が敷かれています。国境なき記者団による2025年の
報道の自由度
ランキングでは、180カ国中174位であり、政府全体に腐敗がまん延しているそうで、インターネットの普及率も世界最低水準です。
綿花畑での児童労働や女性の服装規定といった人権侵害も組織的に行われていますが、政府の強権的な取り締まりを恐れ、国内で起きていることについて発信する活動家も多くありません。トルコに住んでいた活動家兼ブロガーがトルクメニスタンへ強制送還されたり、世界的な人権賞であるマーティン・エナルズ賞の授与式のためにスイスへ渡航しようとしたジャーナリストのソルタン・アキロワ氏が、当局に毒殺されかけたりする事件も起きています。

トルクメニスタンは国家の誕生以来、インターネットが常に制限されてきたとのこと。同国の通信セクターは国家自体あるいは支配階級に関係する人々によって所有されており、2013年に可決された報道検閲を禁止する法案も形式上のものに過ぎず、YouTube・
Facebook・
Instagram・
WhatsApp・
TikTok・Discord・Signal・TelegramといったSNSやメッセージングサービスはいずれもブロックされています。こうしたインターネットの遮断は、トルクメニスタンの年間GDPの8%に相当する損害をもたらしているとのこと。
トルクメニスタンの国内からインターネットの検閲状況を測定するのは困難ですが、現地でのテストに依存しない方法を用いた2022年の調査では、18万3000件を超える
ブロッキングルールと12万2000件以上のドメイン検閲が存在することが確認されました。
トルクメニスタンのニュースについて報じるTurkmen.newsは2023年、インターネット検閲を担当するトルクメニスタンのサイバー
セキュリティ局の職員が、副業として有料のVPNサービスやIPアドレスのブロック解除サービスを提供していると報じました。
Torプロジェクトは公式ブログで、「彼らはインターネット弾圧から利益を得ていただけでなく、需要を生み出していたのです」「つまり、Torをブロックしたのは国家安全保障やイデオロギーの問題だけではなく、サイバー
セキュリティ部門自身にとって収益性の高いニッチ
市場を創出するためだったのです。アクセスをブロックした人々こそが、そのアクセス権を売り戻していたのです」と述べています。

2024年半ばには数カ月間にわたってインターネット検閲が緩和され、大規模なIPアドレスのブロックが解除されたほか、Torを含む検閲回避サービスへのアクセスも可能となりました。しかし、「インターネット恩赦」と呼ばれたこの状態も長くは続かず、同年12月には再びインターネット検閲が復活しました。
そして2025年4月までに、当局によるグレーのVPNビジネスが復活したことが確認されました。VPNキーは月額約50ドル(約7300円)で販売されており、より安価な週単位のプランも提供されていたものの、音楽や動画のストリーミングサービスは利用できない場合が多かったとのこと。さらに、月額2000ドル(約29万円)ですべてのフィルターが解除されるというサービスもあったと報じられています。
Torプロジェクトは、「他国で『サイバー
セキュリティ』と称されるものは、トルクメニスタンでは正反対です。利益を生む不正行為を維持するため、意図的にインターネット接続を妨害しているのです。これは単なる検閲の話ではありません。検閲官が密売人となる、国家主導の恐喝です。サイバー
セキュリティ局の役人たちは監視と統制の手段を用いて、すでに強権的な政府の支配下にある国民からお金を搾り取る汚職スキームを運営しています」と主張しました。