敵の術中にハマってしまった一戦だったと言える。
開始直後から一進一退の攻防が続いたなかで、45+2分にCKから藤尾翔太にヘッドで決められる。62分に途中出場の福田翔生が最終ラインの背後を取ってネットを揺らし、同点に追いついたが、83分、ロングボールのこぼれ球を拾われたところから最後はナ・サンホに決勝ゴールを奪われ、黒星を喫した。
失点シーンはセットプレーとロングボールという、まさに町田の十八番の形。試合前から予測できた展開のはずで、実際、上手く対応できた場面もあったが、ロングスローからチャンスを作られた点も含め、準備不足な面も散見された。
【動画】福田翔生が背後を取って今季4点目! そもそも湘南は、町田のようなパワーを前面に押し出してくるチームに真っ向勝負を挑めば、有利とは言えない。ロングボールを確実に跳ね返せるだけの高さと屈強さに秀でたCBよりも、ビルドアップに長けたタイプ、例えば鈴木淳之介や鈴木雄斗らを起用する頻度が高いため、最終ラインと中盤のコンパクトさを失えば、セカンドボールを回収できず、すぐに起点を作られてしまう。
空中戦を重視したメンバー選考ではないので、セットプレーやロングスローへの対応も得意としていない。ゆえに、湘南が町田を苦しめるには、高さに高さで対抗するのではなく、攻守で工夫が必要なのだ。
では、どんな工夫が必要なのか。ひとつは、最終ラインと中盤の距離感を緊密にして、こぼれ球を拾いやすくする方法がある。これは先述したとおり、実際に準備されていて、コンパクトな陣形を保てた前半はロングボールに苦しめられるシーンが少なかった。ただ、先制を許して0−1で迎えた後半は全体が前がかりになったため、前と後ろが間延びしてしまい、簡単に起点を作られてしまった。
攻撃面では、ボール保持率を高めるという策がある。自分たちで主導権を握れば、深い位置でのセットプレーやスローインの回数自体を減らせる。現に、町田戦には3−4−2−1の布陣で挑み、ダブルボ
ランチの茨田陽生と奥埜博亮で
ポゼッションを安定感させる狙いが見えた。
ダブルボ
ランチで時間を作る狙いがあるように見えたが、実際にはボ
ランチ間でのパス交換が少なく、ボールを握れていたとは言えないゲームだった。加えて、右ストッパーで先発した鈴木雄は「自分たちで丁寧にボールをつないで崩しにいくのが目的ではなかった」と明かしている。
では、湘南は町田戦にどんなプランで臨んだのか。また、どこに課題があったから苦戦を強いられたのか。チーム屈指の頭脳派である鈴木雄に質問をぶつけてみると、試合直後にもかかわらず、理路整然と語ってくれた。
「プランとして、まずは簡単にファウルをしないことだったり、コーナーやタッチに逃げないことがありましたが、結果、そうできなかった。様々な過程がありましたが、自陣での対応に問題があったことに加えて、押し込めていない点も課題なのかなと。
僕自身は、もう少しボ
ランチが落ちてきてボールを触れば、試合を落ち着かせられたのかなと感じていました。ただ、チームとしての狙いはボールを握ることではなく、背後を狙うこと。敵陣でプレーする回数を増やし、相手を押し込みたかった。
そういう意味では、僕が後ろで前を向いた時に、1トップと2シャドーの誰か1枚が落ちてきて、相手を引きつけ、空いたスペースに誰かが走る、といった動きは、僕が見ていた限りは少なかったと思う」
鈴木雄はこう続ける。
「町田からすれば、守りやすかったと思います。ルイス(・フェリッピ)にボールが入った時に、後ろ向きの彼を潰せばいいだけなので。何度かルイスが上手くボールをキープしてくれて前進できたし、ファウルをもらってくれる場面もあって、彼自身はすごく戦ってくれた。その反面、他の選手も含めて、もっと相手に嫌がられること(背後への動き)をやれていれば、もっと押し込めたはずですし、相手のセットプレーやロングスローも減らせたはずです。
背後を狙うという意味でも、もう少しボ
ランチを経由する回数を増やしたほうが良いのかなと。僕が前を向いた時に、背後にスペースがあった場面は少なくなかったし、多分、ボ
ランチから見えてる景色も僕と近いはずです。また、中を効果的に使えば、サイドも空いてくるので。
ただ、前線の動き出しは、今日はちょっと少なかったのかなと。僕からは、そう見えてしまいました」
最優先は背後。チームの狙いは前半から共有されていたが、前線の動きと後ろの準備のタイミングが噛み合わず、好機を作れなかった。ただ、敵の背後を取る動きに長ける福田が入ると、ワンプレー目でゴールが生まれた。このシーンが、湘南の狙いと課題を表していると言えるだろう。
「翔生のゴールは、まさに今日、チームとして狙っていたことがでました。相手が嫌がるのはあれだと思いますし、背後への動きであれだけ簡単にゴールが取れてしまう。もちろん、翔生のスピードあってこそなので、個のクオリティと言われればそうかもしれませんが、他の選手でも動き自体は増やせるのかなと」
改善すべきは2点。ひとつは前と後ろの意思疎通だ。CBやボ
ランチがルックアップした時に、前線の選手が適切に走り出せるか。チームとしての狙いが共有されていても、ピッチ上の選手たちの動きがチグハグなら、プランは成立しない。
もうひとつはアタッカーが背後を狙う意識だ。L・フェリッピや
鈴木章斗、根本凌らは、ポストプレーに意識がいくあまり、背後へのランが減っている側面もある。チーム戦術を実現させるためにも、また彼らの得点数の増加のためにも、背走の回数と質は高めたいところだろう。
鈴木雄の指摘は的確だ。あとは、彼自身のプレーも含めて、全体で改善できるか。山口智監督が度々重視してきた「チームのつながり」が、改めて重要性を増している。
取材・文●岩澤凪冴(サッカーダイジェスト編集部)