楽器の表面は美しく磨き上げられていますが、その内部には製作者の刻印や修理跡、署名、長年の使用による損傷などが残っているものです。そんな普段は見えない楽器の内部を撮影した精巧な写真を、チェロ奏者のチャールズ・ブルックス氏が公開しています。
Probe lenses and focus stacking: the secrets to incredible photos taken inside instruments: Digital Photography Review
https://www.dpreview.com/photography/5400934096/probe-lenses-and-focus-stacking-the-secrets-to-incredible-photos-taken-inside-instruments
ブルックス氏は中国や
チリ、ブラジルなどの著名オーケストラと共演してきたというチェロ奏者です。音楽活動以外にも写真撮影を
趣味としていたそうで、音楽活動から一線を引いてからは、
カメラで楽器を撮影するようになりました。ブルックス氏は楽器の内部を撮影するという「Architecture of Music」という独自のプロジェクトをスタートしています。
ブルックス氏はニュージーランドに住んでいた頃、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行したことで、演奏活動を続けることができなくなりました。その時、多くの演奏家が楽器を修理に出していることに気づいたそうです。ブルックス氏はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会で撮影された楽器内部の写真をいくつか見たことがあったため、楽器内部を撮影する方法を見つけたいと考えるようになった模様。
以下はブルックス氏が撮影した2021年製のHenri Selmer Parisのサクソフォンの内部写真

そして、偶然にも光学メーカーのLAOWAからマクロ撮影に適したプローブレンズ(虫の目レンズ)がリリースされていたため、ブルックス氏はチェロの内部をこのレンズで撮影することに挑戦してみたそうです。
ブルックス氏はプローブレンズでの撮影について、「それほど難しくありませんでした。チェロの底にあるエンドピン部分を外せばプローブレンズを楽器内部に入れることも簡単です」と語っています。ブルックス氏は撮影したチェロの内部写真をReddit上に投稿したところ、大きな反響があったため、他の楽器の内部写真も撮影できないかと考えるようになったそうです。
しかし、LAOWAのプローブレンズはほとんどの楽器にとって大きすぎることに気付いたそう。そこで、ブルックス氏はヒートガンを使ってプローブレンズの防水ケースを溶かし、サイズを縮小することに成功。これによりピアノの内部を撮影することができたそうです。
以下は世界最高級の
グランドピアノであるファツィオリ製
グランドピアノの可動部品の奥深くを撮影した写真。この
グランドピアノは8000個以上の部品から手作りされており、パナ
ソニックのDC-S1RとLAOWAのプローブレンズで撮影されました。

ブルックス氏はストラディバリウスの内部を撮影したかったそうですが、
バイオリンの底部には5mmの穴しかないため、高解像度の撮影には適していない医療用
カメラ以外では内部を撮影するのが困難でした。
ブルックス氏は内視鏡などの医療用スコープを
カメラに取り付けるため、20〜30個のアダプタを購入。しかし、
カメラに取り付けることができても、センサーを一部覆ってしまい、撮影した写真の大部分が黒くなってしまうなどの問題に直面したそうです。そこで、ブルックス氏は複数のアダプターを重ねて取り付けるなどして、なんとか
バイオリンの内部写真を撮影することに成功します。
それでも複数のアダプターを介すことで画質は低下していくため、ブルックス氏は
カメラメーカーと協議するなどして試行錯誤を重ね、最終的にマイクロフォーサーズ規格のDC-G9M2にスコープを取り付けることにしたそうです。これによりスコープが崩れることなく高解像度の写真を撮影することができるようになりました。
それでもズーム倍率を最大にして写真を撮影すると、F250相当の明るさでの撮影となり、実質的にほとんど光がない状態になってしまったそうです。そこで、可能な限り最高出力のフ
ラッシュを複数使用しています。ただし、複数のフ
ラッシュを使用すると熱が発生します。古い楽器は特に熱に弱く、表面のニスが28度を超えないようにする必要があるため、都度楽器を冷やしながら撮影しているそうです。

ブルックス氏が初めて撮影した
バイオリン内部の写真が以下。撮影したのは19世紀に作られたホップフ・
バイオリンのレプリカ。この
バイオリンは製作以来、演奏はされているものの、修理や分解は一度も行われていません。

ブルックス氏は楽器内部でプローブレンズを時計のように回転させ、内部写真を大量に撮影し、これらを結合することで精密な内部写真を作成しています。ブルックス氏によると、同氏の楽器内部写真の中には100枚未満の写真を組み合わせたものはひとつもなく、多いものは1000枚以上の写真を組み合わせているとのことです。
超広角レンズで撮影したような写真を作成することで、被写体が小さくないと脳に錯覚させることができるとブルックス氏は言及。また、照明を巧みに利用することで太陽が降り注いでいるような構図を生み出し、何か大きな構造物の中の写真かのような錯覚を引き起こすことを意図しているそうです。