「そして、人間の血を吸う蚊はメスのみです。オスは花の蜜や樹液などを吸うので人間に害はないのですが、メスは産卵に必要な栄養を摂取する必要があるため、人間を始めとした哺乳類や鳥類などの血を求めます。7~9月が増殖期にあたるため、この時期に蚊に刺される被害が多いというわけです」(同)
蚊が活発に活動できる気温は22~30度。ところが、昨年は7月から8月にかけて気温35度を超える日が続出。あまりの猛暑に蚊の増殖期がずれ込んだのだとか。
「人間は暑ければ汗をかくなどして体温調整ができますが、蚊はそれが難しい。だから昨年は真夏を避けるように、6月と9~11月の2度、増殖期がやってきて、この時期に多くの人の血を吸いました。
一方で、猛暑になるとその日光でボウフラの生育地の水たまりが蒸発してしまうため、蚊の発生数が減ると一般的に考えられています。降水量の多さと酷暑すぎない気温、この2つが蚊の大量発生の条件というわけです」(同)
今年も世界各地で拡大中のデング熱。日本は大丈夫?
蚊の話題で忘れてはいけないのが、蚊が媒介するウイルスによって発症する「デング熱」だ。
日本でも、2014年に国内感染が70年ぶりに確認され、結局、感染場所と推定された代々木公園などがある都内を中心に、全国160人以上の感染者を出した。その後、国内では流行にいたっていないが、世界各地では今年も猛威を振るっており、決して対岸の火事とはいえない。
「デングウイルスは50~70%の割合で不顕性感染(感染しても発症しない状態)で終わるとみられていますが、その状態で海外から渡航してきた人がヒトスジシマカなどデングウイルスを媒介する国内の蚊に血を吸われ、その蚊が別の人を刺すことでウイルスは広がってしまうのです」(同)
デング熱に感染すると、おもに発熱や発疹、嘔吐などの症状が続くそうだ。過去に感染したことがあるというフィリピン在住の30代男性はその体験をこう振り返る。
「今までかかった病気のなかで断トツで辛かった。最初に頭痛と関節痛がきて、その段階ではただの風邪だと思ったけど、すぐに熱が39度まで上がって緊急入院です。
その後は4日間にわたって高熱が続き、吐き気もあって数日は何も食べられなかった。1週間後に退院したものの、だるさは退院後1ヶ月は続いて……。もう二度とかかりたくないな」
感染すると最悪の場合、死に至ることもあるデング熱。世界保健機関(WHO)によると、2023年には世界でおよそ500万人以上のデング熱患者と、5000人以上のデング熱関連死が報告されている。
東南アジア産、ネッタイシマカの脅威
デング熱を運んでくるのは感染した人間だけでないと谷川氏。
「厄介なのが東南アジアなどの熱帯地域に生息して、デングウイルスの主たる媒介蚊である『ネッタイシマカ』。飛行機に紛れこむため、ほぼ毎年のように成田空港をはじめとする国際空港で見つかっています。
ネッタイシマカは日本に生息する蚊よりも嗜好性が高くて積極的に血を吸うのが特徴で、国内のヒトスジシマカよりもデング熱をはじめとした感染症を媒介しやすく、ウイルスの感染を広める可能性も高いんです」
ネッタイシマカは熱帯地域のような高い気温でないと生きていけず、日本では定着しないとされているが、脅威であることに変わりはない。しかも、このネッタイシマカ、近年、新たな特性も発見されたという。
「ネッタイシマカの中には、殺虫剤に対して抵抗性をもつ個体がいることも確認されています。
インバウンドが増加の一途をたどる日本にも、ネッタイシマカが侵入するかもしれません。そして、殺虫剤もきかないとなれば、今年の夏はデング熱が流行することも十分に考えられるのです」
デング熱への対策は?
「一般の家庭でできるものだと、ボウフラはコップ1杯の水でも増殖するので、ベランダなど自宅の周りに水が溜まりそうな置き物はできるだけ置かない。そして、窓を開ける際は必ず網戸を閉めること。
外出の際は虫除けスプレーを散布して、長袖などを着て露出部分をなるべく減らすのも有効かと思います」
蚊の恐ろしさの真骨頂は刺されたかゆみではなく、病気を媒介すること。これを再認識して、今夏を迎えるべきだろう。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班