成さんはすぐに上京を決意。インターネットで「ホスト」「初めて」と検索し、上位に出てきた歌舞伎町のホストクラブに入店した。
どうせやるならトップを目指したい。成さんは、売れるために1部(夕方から夜の営業)と2部(朝から昼の営業)の両方に出勤。睡眠は合間の時間に2時間×2回に分けてとり、それ以外は、お客さんにひたすら電話やLINEで営業の連絡をした。
「周りからは『働き過ぎじゃないか』と心配されましたが、野球部の過酷な練習に比べたら正直、全然余裕でしたね。それに、これくらい働かなきゃ売れないだろうとも思いました」
◆夢は「地元で母とカフェ経営をすること」
時にはお客さんからきつく当たられたり、お客さんの指名を取り合う同僚とギスギスしたりすることもあったが、野球部の監督から言われた「理不尽が人を成長させる」という言葉を胸に、成さんは出勤し続けた。
「入店して4カ月くらい経ったときに、初めて高額のシャンパン(150万円)を入れてもらいました。これを機に勢いがつき、その店舗では安定してナンバー1を獲れるようになりました」
1店舗目では1年半ほど働いたが、「もっと上を目指したい」と、歌舞伎町にあるホストクラブの中でもトップクラスの知名度を誇る大型店「TOP DANDY」に移籍。2023年度には年間で約2億8千万円を売り上げ、グループ全体で売上ナンバー1を記録した。
「売上や指名が多くなった理由の一つは、礼儀作法やマナー、丁寧な話し方などを徹底したからです。僕を指名してくれるお客さんの中で20代は少なく、ほとんどがお金や精神的に余裕のある同世代や、年上の方が多いです。後者のお客さんに喜んでもらえるよう、品のある接客を心がけています」
今後の目標は、2024年度もナンバー1を獲ることと、母親の夢を叶えることだ。
「母子家庭で大変な中、僕たちきょうだいを育て上げてくれた母に恩返ししたいんです。前にふと、母が『カフェをやってみたい』と言っていたことがあったので、いつか地元で一緒にカフェ経営ができたらと考えています。実現させるためには、ホストしてもっともっと売れたいですね。それが今のモチベーションです」
元教師ならではの教養のあるコミュニケーションが武器でもある成さん。教育現場と夜の歌舞伎町、対極な世界で培った人間力は唯一無二ともいえる。カフェオーナーになる夢も“叶える可能性”が高いはずだ。
<取材・文/橋本 岬>
【橋本 岬】
IT企業の広報兼フリーライター。元レースクイーン。よく書くテーマはキャリアや女性の働き方など。好きなお酒はレモンサワーです