本記事は『60歳からの知っておくべき経済学』の一部を再編集してお送りする。
◆「国債」の仕組み
緊縮増税派は、国債の発行により借金が膨らみすぎて、財政が危機的だと主張しているが、事実ではない。それを理解するためにも、まずは国債について解説しておこう。
「国債とは何か?」と聞かれれば、多くの人が「国の借金」とか「政府の借金」と答えるだろう。あながち間違いではないが、借金=悪というイメージから「国債の発行は減らすべきだ」と主張する人もいる。
しかし、個人の借金とは異なり、政府の借金はむしろ必要な場合がある。それを理解するには、政府を企業に例えてみるといい。
◆「国債」は国家運営に不可欠な存在
一部の企業は「借金ゼロ」をアピールしているが、通常は事業を拡大するために融資を受けて、設備や人材などの投資に充てる。それによって、新規プロジェクトや取引が増えていき、企業は成長していくのだ。企業の設備投資は、国の景気動向を示す大切な指標の一つで、もし設備投資が減少しているなら、それは経済が低迷する兆候といえる。
同様に、国債も国家運営に不可欠な資金だ。政府の主な収入源は、税収(所得税、法人税、消費税など)だが、予算不足の際は国債を発行してその分を補う。
国が発行した国債は、銀行や信用金庫、証券会社などの民間金融機関が買い取る。例えば、国の必要な予算が10兆円不足していた場合、一気にその額を調達するのは難しいため、毎週国債を発行して1年かけて調達していく。
国債の取引は財務省が行い、民間金融機関に「利率」「発行額」「償還期限」の情報を伝えて、入札で売買が行われる。これらの国債はその後、民間金融機関から日銀が時価で買い取る流れとなる。
◆政府と日銀の役割
ここで押さえておきたいのは、政府と日銀は親会社と子会社の関係性であるという点だ。政府は、日銀に対して55%出資しており、日銀法により役員任命権と予算認可権を握っている。
政府には目標の独立性、日銀には手段の独立性がそれぞれある。つまり、経済政策の舵取りは政府が行い、その方針に沿って日銀は通貨発行などの実務を行う。このように政府と中央銀行を一体として「統合政府」とみる視点が重要だ。
日銀は国内で唯一お金を発行できる銀行だが、無制限に刷ることはできない。個人が何も受け取らずに対価を支払わないのと同じように、日銀も国債を受け取ってからお金を発行する。そのため、日銀が発行したお金の量と、購入した国債の量はほぼ同じになる。
金融政策の本質は「お金を多く発行するかどうか」であり、お金を増やすことで物価が上がりインフレが生じる。これが貨幣数量理論と呼ばれるものだ。
◆政府と日銀は「親会社」と「子会社」の関係
日銀が大量に国債を買い、それに応じてお金を発行し、金融機関を通じて市場に供給することで、景気を刺激して底上げできる。これが量的緩和で、アベノミクスではこのアプローチにより景気回復の手がかりをつかんだ。
もし日銀が全ての国債を持つようになれば、金融機関から国債がなくなり、財政の問題も解決する。なぜなら、政府の子会社である日銀が国債を全て持つということは、財政の負担がゼロになることを意味するからだ。
現状、それが実現していないのは、国債を保有している民間金融機関が積極的にそれをお金に換えようとしないからだ。詳しくは第5章で解説するが、国債は利回りのいい金融商品なので、金融機関も手放したがらない。