この本には「婚約しているのに元恋人と会ってキスをした男性と、彼を許せない女性」で修羅場になっている男女が、二人の共通の友人の介入によって、「どうしてそういうことをしてしまったのか、その真意を知ったうえで自分はどうしたいのか」が整理されていく話が出てくる。
実際にこんなことが起きれば当事者は感情的になって建設的な話し合いをするのは難しいが、ワンクッション置いた人間が間に入って整理していくとこんなふうに解決されていくんだ……!と驚いた。もちろんフィクションではあるが、誰にでも転用できる方法である。
その後出てくる「『挨拶もできない常識のないママ友』にイライラしている女性」の整理の仕方も見事だった。
昨今は「揉めた人間とは距離を取って、そのまま縁を切る」というコミュニケーションが一般的である。時代や価値観によってその考え方の是非は別れるし、自分もそうしたことはあるが、こういう方法で「揉めた相手とのもつれた感情のほぐし方」があることを知ったのは大きな発見だった。他人との関係に疲弊したとき、折に触れて読み返したい本である。
評者/伊野尾宏之
1974年、東京都生まれ。伊野尾書店店長。よく読むジャンルはノンフィクション。人の心を揺さぶるものをいつも探しています。趣味はプロレス観戦、プロ野球観戦、銭湯めぐり
―[書店員の書評]―