田房永子の新刊『喫茶 行動と人格』は、そういった揉めごとに対して感情的に処理するのではなく、「どうしてそういうことが起きてしまったのか」「自分はどういう解決方法を望んでいるのか」と整理するためのメソッドを書いたコミックだ。フィクションとしてストーリー仕立てになっているが、主題になっているのは“なぜ揉めてしまうのか”を回避するための実践的なアプローチのやり方である。
サラリーマンの尾形があるとき、「喫茶 行動と人格」という不思議な店名の喫茶店に入ってコーヒーを飲んでいると、店内の一角で一組のカップルが何やら揉めている。
女性の方が「私はあの食器棚がもっと使いやすくなる方法があるんじゃないかって言ってるだけでしょ! その方法を一緒に話したいだけなの!! なのにあなたはさっきから!! 『そんなことわざわざ考えなくてもフツーはわかる』とか『できないのはどうかしてる』とか!! どうしてそんなにひどいことばかり言うの!?」と連れの男性に怒っている。
それに対して男性は「『ひどいこと』というのはキミがそう受け取っただけのことだよね」「あの棚はデザイン性ばかりで機能性が低いのは一目瞭然。わかって買ったんだから使うしかない」と冷たく言い返している。
その後二人が少し落ち着き、店を出ると、突然店内にいた従業員とカウンターにいた客が一斉に「案件ですね」と店を閉めてしまう。従業員は店内のホワイトボードに「あげ足とり男vsキーキー女」と書き、その下に二人が発言していた言葉を順番に書き出していく。そこに常連客が「こんなことも言っていた」と付け加える。
次に、従業員と常連客は揉めごとひとつひとつの発言を“行動”と“人格”の二つに分類していく。「『どうすれば棚が使いやすくなるか』は『行動』ですね」「『キミの自己責任』は『人格』!!」「『フツーはできる』も『人格』だよね」。そうやってカップルの一つ一つの発言を「行動について話したこと」「人格について話したこと」を整理すると、従業員と常連客はそれぞれ「あの二人はどうして揉めていたのか、あの男の人、女の人の発言の根っこにあるものは何か」について自分の見解を述べていく。
二人の発言をひも解いていくと「揉めごとの裏側にある深層心理、発言から見える関係性、そのうえで本当は何を言ってほしかったのか、どう聞くべきだったのか」といったことが少しずつ見えてくる。店内の一角でその様子をずっと傍観していた尾形は「そうか、ここは客の話(=主に揉めごと)をあれやこれやと考察する店なんだ」と気がつく。
この漫画は「喫茶 行動と人格」で交わされる、いろんな「揉めている話」を取り上げ、当事者がどう処理すべきなのか検証する作品である。
著者の田房永子は、異常な過干渉を強いる母親との生育体験、そして別離までを描いた漫画『母がしんどい』でデビューした。その後も親との関係に悩む人たちの話を書いた『なぜ親はうるさいのか』、子供を授かって育てる中で感じた自分の考えの変化などを書いた『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』、怒りやすい自分の性格を直したいと奮闘、模索する『キレる私をやめたい』など数々の著作を出しているが、どの作品にも共通するのは「他人とのコミュニケーションの模索」である。そうやって取り組んできた「他者と適切なコミュニケーションを取るためには」というテーマがこの作品に帰結しているように思える。