まず、少子高齢化によって若者の間で
タクシー運転手になりたいという人が減っていること。歩合制のところが多く、不安定な職業ですからね。もうひとつは、ベテラン運転手がどんどん定年退職をして辞めていること。
また、コロナ禍で外出が減り、客が急減したため解雇した運転手が戻らなかったことも大きいです。
――以前、バスの運転手不足の問題を取材した時に、賃金が低いことと、クレーマー客から「運転が荒っぽい」と文句を言われたりする「カスタマーズハラスメント」を受けることが大きいと聞きました。
飯島大介さん タクシー運転手の場合は、お客を自分で選べますから、「カスタマーズハラスメント」の問題は少ないでしょう。また、賃金もバスの運転手よりはいいと思います。
ただ、同業のライバル会社が優秀な運転手を好条件で引き抜くことが盛んに行われていますから、人手不足が深刻な会社とそうでない会社の差が大きくなっています。
――倒産した各タクシー会社を信用機関調査などで調べると、たとえば名古屋市の「毎日タクシー」は「お迎え料金無料」のサービスを展開していました。盛岡市の岩手中央タクシーは介護タクシーや、子育て支援タクシー、運転代行とさまざまなサービスに挑戦していました。
大阪市の関西中央グループ8社は、大阪で初めて「55割(ゴーゴー割)」サービスを導入したところです。5000円を超えた運賃を5割引にする仕組みで、終電後の遠距離客などが獲得していました。それぞれ懸命に努力してきたのに報われないわけですね。
飯島大介さん 特に地方では、タクシー業界の中堅や上位企業の経営破綻が相次いでいます。全体的にお客の数が減っていますから、さまざまなサービスの工夫をしても客の単価が低くなり、燃料費や人件費を稼ぎ出すことが難しくなっているのが現状です。
――そんななか、ライドシェアが一部で始まりました。リポートでも問いを投げかけていますが、「ライバルとなる競争相手」、つまり敵になるのか。それとも「共存共栄のパートナー」、つまり味方になるのか、どう思いますか。
飯島大介さん ライドシェアは、まだ観光地などの一部のエリアで始まったばかりなので、どこまで普及するのか、見極めは難しいと思います。ライドシェアはシロウトのドライバーが乗客を運ぶので、スタート時は近距離が基本になります。
たとえば現在、成田国際空港での白タクが問題になっています。空港から都市部までの長距離客を白タクに取られては、タクシー会社は困ります。長距離客こそ、儲けの源泉だからです。しかし、タクシー会社は利益の薄い短距離客も含めて、バラツキのあるすべての客に対応しなければなりません。
もし、短距離客をライドシェアが受け持ってくれれば、タクシー会社は儲けの多い長距離客に集中することができます。お互いに補完し合ってウインウインの関係になれます。
――なるほど。それが「共存共栄のパートナー」ですね。では、敵である「ライバルとなる競争相手」では、どんなケースが考えられますか。
飯島大介さん ライドシェア側が、シロウトの副業に甘んじるのをやめて、「もっと儲けたい」と長距離路線に参入してくるケースです。ライドシェアのほうが運賃は安いですから、立場が逆転して脅威になります。
また、ライドシェアが事故や事件を起こした時のイメージダウンも心配です。プロとしての教育を受けていないシロウトが一般人を運ぶわけですが、管理はタクシー会社が行ないます。ドライバーの安全教育をどうするのか、事故の際の責任をどうするのか、しっかり決めないまま見切り発車してしまいました。
安全性の確保はタクシー会社の責任になりますから、業界には懸念の声が高まっています。
業界の「二極化」が進み、淘汰される会社が出てくる
――今後、タクシー業界はどうなるでしょうか。倒産がもっと増えるのか、それとも持ち直していくのか。
飯島大介さん 正直、何とも言えません。ドライバー不足が解消しないなか、中東情勢がさらに悪化して原油高になることが心配です。
その一方で、国内の景気は回復基調にあり、インバウンドも増えているし、タクシーの初乗り運賃も上がり、収入増が期待できます。
これからは、運転手にいい条件を出せるところと、出せないところの二極化がどんどん進み、淘汰される会社が多く出るでしょう。今後に注視したいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)