【「言葉」と「高さ」の壁】
――出国前には言葉に不安があったとのことですが、イタリアでの生活には慣れましたか?
「ばっちり......とは言えませんが、初めの頃よりはかなり慣れてきました。相手が言っていることは、何となく理解できるようにはなったかと。イタリア人選手に対してはできる限りイタリア語を、他国籍の選手には英語を使っています。
ですが、『こう伝えたいけれど、この言葉は違うんだろうな』と思ったり、うまく伝えられないから自分の中でぐっと留めたりすることがありますし、言われたことをそのまま受け入れることもあります。そこまでプレーに影響するわけではありませんが、伝えられないもどかしさは少しストレスを感じることもありますね。とはいえ、少しずつ語学力が上がっている実感はあります」
――世界の高さを少しでも体感したい、という思いで臨んだ海外挑戦。コンスタントに一試合2桁得点を挙げていますが、攻撃面での手応えはいかがでしょうか。
「シーズン序盤は、本調子でなくてもうまくできていた部分はありました。それは相手が私のデータを持っていなかったことが理由のひとつだと思います。試合を重ねるごとに、相手のブロックやディフェンスが修正された印象です。対応された部分もあり、ミスやブロックシャットが増えて苦しい時期はありましたが、そこでいかに点数を取るかが私の課題でした」
――どうやって乗り越えたんですか?
「まずは、ミスを恐れずにプレーすること。加えて、これは私だけでなくチーム全体にも監督から伝えられていることですが、特にハイセットに関しては相手ブロックを利用すること。それらにトライしていこう、と意識してプレーしてきました」
【日本代表の「まだまだ足りない部分」】
――今季のセリエAには、世界トップレベルの選手が揃っています。そこでプレーして実感することはありますか?
「イタリアでは、本当に多くのトップクラスの選手がプレーしています。代表シーズンでいつも対戦している顔ぶれもいて、ネット越しに『この選手は、日本代表として戦う際に抑えないといけない相手だ』と思うこともあります。どのチームにもいい選手がたくさんいるので、毎試合が刺激になっています。
日本代表で戦う時とはまた違った気持ちなんですが、そうした環境でプレーできるのは、今の代表では私しかいない。確実に成長のプラスになっています」
――日本代表に関しては、2024年度の大会スケジュールや登録メンバーが発表されましたね。
「今年はパリ五輪がありますし、合宿の予定も聞いているので意識する部分はあります。昨年のパリ五輪予選で出場権が獲れなかったので、今年のネーションズリーグではしっかりと結果を出さなければいけません。そこに向けて、心も体も準備していきたいです」
――パリ五輪予選では世界ランキング1位のトルコや、同3位のブラジルと競り合う場面もありました。振り返ってみていかがですか?
「いい試合、いいプレーはたくさんありましたし、強豪国相手にまったく勝てないというわけではなかったと思います。ですが、あらゆるプレー面でレベルアップさせることはもちろん、最後の、特に劣勢の場面でのメンタル面に関してはまだまだ足りないと感じました。相手チームのほうが、『勝つ』という気持ちをしっかり表現していましたから。そこは私自身も、チームとしても変わっていかなければいけません」
――石川選手は昨年度の日本代表で、ベンチに控えることもありましたね。
「そうですね。これまでは、チームにおける自分の役割もあって必ずしもコートに立っていたわけではありませんでした。ただ、こうしてイタリアでシーズンを過ごして、『やってきたことを日本代表で少しでも出したい』と思っています。ここでの経験があるからこそ、『やってやるぞ』という気持ちは強いです」
――先ほど課題と話していたメンタル面も、イタリアで強くなっていますか?
「ミスをしてしまったりすると『あぁ......』となる場面はありますが、切り替えられるようになりました。さらに、1点が決まった時の周囲の喜び方など、そうした"アグレッシブさ"は日本では経験できなかった。試合を重ねながら変われている、成長できている部分ですね」
――日本代表に合流するときには、どんな「石川真佑」になっていると思いますか?
「私が合流する時には、すでに合宿が始まっているはず。遅れて合流する分、やはり緊張もありますが、それ以上にしっかりと結果を出すために頑張りたい、という気持ちがあります。そのためには遠慮せずに、しっかりとコミュニケーションをとっていきたいです。バレーボールに対する姿勢や周りとの関わり方など、これまでと比べて少しでも成長したところを、多くの方々に感じてもらえるように取り組んでいきます」
――イタリア1年目のシーズンも佳境に入ります。代表活動も含めて、今後の意気込みを聞かせてください。
「もちろん今年最大の、最終の目標は『オリンピックでメダルを獲ること』です。その前に、出場の切符を獲るところからですが、ネーションズリーグで結果を出すことはオリンピック本番にもつながると思います。そこに向けて、気持ちづくりや準備をしっかりやっていかなければいけません。イタリアで経験してきたことを日本代表でも発揮できるように、今後の成長につなげられるように残りのシーズンを過ごしていこうと思います」
【プロフィール】
石川真佑(いしかわ・まゆ)
2000年5月14日生まれ、愛知県出身。イル・ビゾンテ・フィレンツェ所属。174?のアウトサイドヒッター。東レアローズ在籍時の2019年に、女子U20日本代表としてメキシコで開催された第20回U20世界選手権で優勝し、MVPを受賞。同年のアジア選手権(B代表)を経て、ワールドカップバレーでシニア代表デビューを果たす。以降、東京2020オリンピック、2022世界選手権ほか国際大会に出場。