たった1人で創業でき、開業資金も要らず、資格も必須ではないコンサル業は参入障壁が低いのが特徴です。それだけに、玉石混交といえますが、現在、「石」がどんどん振るい落とされており、「本物」と「もどき」がシビアに選別されている状態といえます。
――後藤さんはリポートに、コンサル業は現在、「政策系」と「戦略系」、「士業などの専門系」と多様化していると指摘しますが、具体的にはどういうことですか。
後藤さん 「政策系」とは大手シンクタンクなどを中心に、政府や自治体などの官庁に経済政策や景気対策などの公共政策を立案、進言するところです。
「戦略系」とは主に企業相手に、経営戦略の相談に乗ったり、コストカットやマーケティング対策をアドバイスしたり、M&A(企業の吸収合併)を進めたりと、経営全般にかかわるところです。
「士業などの専門系」とは、公認会計士、弁護士、税理士、中小企業診断士などの「士業」が専門知識を生かして独立し、新たにコンサル会社を始めるところです。たとえば今、コンサル業界に盛んに進出しているのが、公認会計士が集まる監査法人です。
本業の監査事業が、企業の不正事件が相次いで厳格化されたため、顧客を増やそうとM&A仲介や、ファイナンシャルアドバイザリーなどの新規事業を始めるところが増えています。
また、弁護士が法律の知識を生かし、情報セキュリティーの会社を作ったり、中小企業診断士が人脈を生かして事業継承の相手を探す事業を起こしたり、税理士が株式の移動など税務コンサル業を始めたりと、さまざまです。
最近は、不動産投資、IT、医療、ヘルスケア、人材育成なども増え、どんどん細分化されています。
コロナで苦しんだ企業が「経営のプロ」を頼らない皮肉
――しかし、いくら成長業界とはいえ、市場規模のパイには限りがあるでしょう。専門的知識を生かして参入してもうまくいくのでしょうか。
後藤さん そのとおりです。コロナの直撃が業界に大変化をもたらしました。コンサル会社は基本的に企業からの依頼が中心です。コロナ禍によって多くの中小・零細企業が経営悪化に苦しみましたが、皮肉なことに、そうした企業はコンサル会社に相談に行かず、政府や自治体の各種支援制度に依存する道を選んだのです。
つまり、コロナの大波の中で、本来なら企業が苦境に直面し、依頼が増えるはずの時期に、多くのコンサル会社が受注を失い、売り上げが激減する羽目になったわけです。その過程で二極化が進みました。
たとえば、マーケティングに特化していた会社は、企業の販売活動そのものが激減したため市場調査の仕事がこなくなります。イベント企画、プロデュースに特化した会社も、自粛で人を集めることができません。一方、在宅ワークやオンライン事業が増えたため、IT技術やDXが得意な会社は売り上げを大きく伸ばしました。
――経営悪化する企業が増える時期に、逆に企業を救うはずの「経営のプロ」がバタバタ倒れるのは、確かに皮肉な事態ですね。
後藤さん どうも世界経済が大変化する時期には、コンサル業界には同じことが起きるようです。【図表】の倒産の推移グラフを見てください。2008年と2009年に前回のピークが来ていますが、これは2008年9月、米国の有力投資銀行のリーマンブラザーズが破綻し、世界的な株価下落、金融危機、同時不況につながった「リーマンショック」の時期と重なります。
今回もコロナが引き金ですが、倒産116件の主要原因の8割は「販売不振による売上減」です。企業に販売促進策やコスト削減策をアドバイスする「経営のプロ」としては、一番恥ずかしい原因と言えるでしょう。
鮮烈な生き残り競争が激化、二極化が拡大する
――典型的な倒産のケースを紹介してください。
後藤さん 関東地方のA社。経営者は、企業で研修を担当していた経験を生かし、コロナの数年間に独立。研修専門のコンサル会社を起業、実績を積んでいました。しかし、コロナによって企業の研修が激減。コロナが落ち着いてきても業績が回復しませんでした。
九州地方のB社。経営者は自分自身も飲食店を経営。店を新規オープンした経験を生かし、飲食店専門の経営相談に乗り、特に新規オープンのアドバイスを得意分野にしていました。ところが、コロナの自粛により飲食店の新規オープンが激減。破綻に追い込まれました。
――これからのコンサル業界はどうなると思いますか。
後藤さん コンサル会社の鮮烈な生き残り競争がさらに進み、二極化の格差が広がるでしょう。ライバルが多くひしめく中で、これといった得意分野のないところは淘汰されていくでしょう。
今後は、いかに専門知識を獲得し、優秀な人材を確保できるかにかかっていると思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)