精緻な人物画や壮大な風景画、神秘的な宗教画など、「美しい絵」は多くの人にその素晴らしさが理解できます。しかし一方で、造形が破壊されたり美的センスから外れたりした「醜さ」に重点を置いた絵も、美しい絵と同じくらい高い評価を受けることが多くあります。そのような「醜い絵」のどのような点に人気があるのか、オンラインのアートメディアであるArtsyが解説しています。
Why “Ugly” Paintings Are So Popular | Artsy
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-ugly-paintings-popular
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Artsyのライターであるアヤンナ・ドジャー氏によると、「美の概念」は古典芸術から近世に至るまで西洋美術史の中心的な教義でしたが、20世紀以降多くの芸術家がより破壊的で挑戦的な、ゆがんだスタイルの制作を模索するようになったそうです。新しいスタイルの
絵画は、多くの場合で不快だったり不自然だったりする色遣いや、造形のゆがんだ人物、不安を引き起こす主題で特徴付けられ、ドジャー氏はこれを「美的挑発に重点を置いた、美しさよりも醜さに重点を置いた
絵画」と表現しています。
「醜い絵」がどのようなものかについて、ドジャー氏はニューヨークを拠点とするギャラリーのNahmad Contemporaryが2023年6月から8月まで行っている「UGLY PAINTING(醜い絵)」と題された展示を例に挙げています。「UGLY PAINTING」の展示には、リタ・アッカーマン氏による影のある人々が茶色や赤、黄色や黒のうずまきで不定型な体の塊を作り出す「Dos and Donts Nurses (United)」や、若い女性と豚の死体が並んで水面に横たわるコナー・マリー氏の「Pork」など、グロテスクなスタイルの筆致や造形で不気味な雰囲気を感じさせる
絵画が含まれています。
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展示に関するプレスリリースでは、「『UGLY PAINTING』とは、グロテスクで派手な、あるいは醜悪な筆致や表現、構成、色彩のスタイルを意図的に使用して、特異なビジョンを形成するフィギュラティヴ・アートを指しています。美しく装飾的で、礼儀正しく、保守的で過度に写実的なものではなく、大胆で、対決的で、自信に満ちた
絵画です」と説明しています。Nahmad Contemporaryによると、醜さは力強く感動的であり、崇高なものでもありますが、西洋美術の規範で重んじられている価値観を拒否して慣例を破っていたり、単に非常にグロテスクだったりする理由で、不快なものと見なされるケースが多くなっていたとのこと。
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また、アメリカの現代アートに焦点を当てた月刊誌であるArt in Americaで上級編集者を務めたレイチェル・ウェッツラー氏は、「悪い絵と醜い絵はよく混同されます。しかし、絵が醜いと言うのは、それが悪いということではありません。悪い絵は、不注意や性急さ、何かを無視する姿勢を通して制作されています。一方で、醜い絵は選択であり、スタイルとコントロールの問題。ひどい絵はたくさんありますが、醜い絵はほとんどありません」と述べています。
ニューヨークで現代美術を専門に扱う博物館のNEW Museumは1978年に、色の使い方が平たんだったり子どもの落書きを想定させるスタイルだったりする「悪い絵」をコンセプトにした「Bad Painting」という展覧会を開催しています。「UGLY PAINTING」の共同企画管理者であるディーン・キシック氏は「悪い
絵画という概念はもはや意味がありません。ほとんどの現代
絵画は、何らかの形で慣例や従来の好みを破っており、そのためほとんどの現代
絵画が『Bad Painting』の展示に適合するでしょう」と語っています。
キシック氏もウェッツラー氏と同様に「悪い絵」と「醜い絵」を明確に区別する必要があると述べており、その理由として、「
絵画に関する醜さの考えは依然として残っています。美しさとは、社会全体と複雑な関係を持っているものであり、芸術における美という概念は芸術に対する保守主義、エリート主義、反動的な考えと関連付けられる可能性があります。したがって、醜い絵にはどこか慰めとなるものがあり、私たちがどのように感じているか、私たちが今生きている時代についてどのように正直に語ることができるかを明らかにします」と「醜い絵」の魅力について説明しています。
また、キシック氏によると、「UGLY PAINTING」の展示に関する反応は全体的に好意的で、不快感を訴えてきた人は1人もいなかったとのこと。展示の中には「醜い絵」を意図して描かれたものだけではなく、構成や色使いが大胆で挑戦的な結果ゆがんだ造形になった作品もあるため、「一見醜く見える絵の中にも美しさがあることを示唆し、観客に自分の好みを再考させる」という点も「醜い絵」の魅力の1つだとキシック氏は指摘しています。
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キシック氏は「特に今この現代こそ醜い
絵画が好まれています」と語っています。アーティストの作品が作品を制作している時の経験を反映しているならば、作品の美学は今まさに直面している現実と一致すると考えられます。「簡単に言えば、私たちは醜い時代に生きているのです。醜い
絵画は、この醜さと向き合い、そこに美しさを見つける方法を私たちに提供してくれます」とキシック氏は述べています。