スイス・ジュネーブ大学の研究チームが、1kHzの高出力パルスレーザーを使って自然発生した
落雷を誘導することに成功したと発表しました。この研究プロジェクトは20年以上にわたって進められてきたもので、実験結果はレーザーによる気象制御が可能であることを実証するものです。
Laser-guided lightning | Nature Photonics
https://doi.org/10.1038/s41566-022-01139-zThis rapid-fire laser diverts lightning strikes
https://doi.org/10.1038/d41586-023-00080-7
Scientists steer lightning bolts with lasers for the first time | Physics | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2023/jan/16/scientists-steer-lightning-bolts-with-lasers-for-the-first-time
雷は、大気中で氷の粒同士がぶつかり合って、大規模な電荷分離が起こった際に発生する放電現象です。そこで高出力のレーザーを空気中に発射すると、導電性の高いプラズマが発生するため、レーザーの軌跡に雷を誘導する「レーザー誘雷」が可能になります。
雷は電線事故や山火事の原因になることから、雷を制御できるレーザー誘雷の技術は1970年代から研究されています。しかし、実験設備内で発生させた極小規模な雷に対するレーザー誘雷の実証はこれまでにも報告されていましたが、実際に自然発生した雷をレーザーで制御した成功例はありませんでした。
ジュネーブ大学の物理学者であるジャン・ピエール・ウォルフ氏は20年以上にわたってレーザー誘雷の研究を行っており、スイスにある標高2500mのセンティス山山頂で実験を行っています。このセンティス山には1年に100回以上も
落雷する電波塔があるため、自然発生した雷をレーザーで制御できるかの実験にぴったりというわけです。
![](https://image.news.livedoor.com/newsimage/stf/9/8/980c7_88_f178768047d5e48c50a52fd2bc1121d5.jpg)
今回の実験で使われたのはパルス周波数1kHz、すなわち毎秒1000発で発射される500mJ・波長1030nmの高出力パルスレーザーです。研究チームによると、これまで実験で使われたパルスレーザーの周波数はせいぜい数Hz程度だったそうですが、今回は200万ユーロ(約2億8000万円)もする高出力レーザー発射装置をセンティス山山頂の電波塔横に設置することで、1000Hzの高出力パルスレーザーを発射することができたとのこと。
![](https://image.news.livedoor.com/newsimage/stf/c/3/c3b0a_88_6d20acdc62df4bd831aff354000bc64e.png)
研究チームは10週間以上の観測の中で、合計6時間の雷雨を経験し、そのうち4回の
落雷を確認したとのこと。以下の写真は、実際に雷を高出力パルスレーザーで電波塔に誘導できた瞬間。
![](https://image.news.livedoor.com/newsimage/stf/c/8/c8f10_88_9aacc68703a491a05b873ee44ec64b96.png)
この技術を応用することで、重要な施設を
落雷から守ったり、山火事が起こらないように安全な場所に
落雷を誘導したりすることが可能になります。今回の実験で自然発生した雷をレーザーで誘導することに成功はしましたが、あくまでも巨大で高価なレーザー設備によるもの。研究チームは、このレーザー誘雷システムをより安価で小型なものとすることで実用的な技術とすることを今後の課題としています。