そのためには「中村俊輔」という看板を一度、完全に下して、真っ白になった状態から出直す必要がある。本人も覚悟を決めている。
「ゼロからだと。自分の感覚を1回捨てる必要があるし、経験が邪魔することもあるから。全部空にして始める。結局、サッカーは人と人。信頼関係とか人間性の方が戦術より勝るのを見てきたから。ボードはあくまでボード。いろいろな角度でいろいろな人から吸収出来ればいい」と語気を強めた。
中村ほどの高度なキャリアを持つ人間から見れば、知識や察知力が低かったり、技術レベルの低い人間のことをすぐには理解できないかもしれない。そんな選手にかみ砕いて説明し、向上を促すというのは、まさに信頼関係がなければできないことなのだ。
彼自身も横浜FMの若手時代に寄り添ってくれたハビエル・アスカルゴルタ監督やオズワルド・アルディレス監督、セルティック時代のゴードン・ストラカン監督など数々の指揮官から薫陶を受け、世界で名を馳せるまでに至った。スピードや屈強なフィジカルに頼らず、頭と高度な技術で生き抜いてきた中村だからこそ、育てられる選手がきっといる。そんな逸材を表舞台に押し上げ、勝てるチームを作ること…。彼には大きなタスクが課せられるのだ。
四方田、大木両監督も「ああいう特長のある、お客さんの呼べる選手はなかなか出てこない。それをどう育てていくのか。日本サッカー界全体の課題だと思います」と口を揃えていた。その高い壁に向かって突き進む中村の第2の人生が今から楽しみだ。
取材・文=元川悦子