今夏の西東京大会で、試合前のシートノックから野太い声でチームメイトを鼓舞しながら、ノックの打球に勢いよく反応する動物的な"狂気"を漂わせていた選手がいた。
国士舘高校の遊撃手・清水武蔵(右投右打)だ。捕りさえすれば、まずアウト。一塁手のミットを突き抜けそうなほどの強烈な送球は、すでに高校生の領域を超えている。
清水を初めて見たのは、彼の1年秋。当時はセンターを守っていて、バックサード、バックホームの軌道がいつでもカットできる高さ......なんてものじゃない。腰の高さでグングン伸びて、捕球する選手が捕り損ねるほど。
その後、センターからサードにコンバートされ、今年の春は捕手として都大会に出場し、最後の夏がショート。肩が強くて、足も速くて、どこでもこなせるセンスの持ち主。それ以上にすばらしいのが野球への情熱だ。
「清水の野球に対する向き合い方はチームのなかでも飛び抜けていて、目立ちすぎるほど(笑)。1日でも早く、高いレベルの環境で野球をやらせたい選手です」
選手評はたいてい辛口の永田昌弘監督が感心したように話す。
鹿児島の中学を出て、「オレは野球で生きていくんだ」という志を胸に国士舘高校にやって来た。それだけにうまくなりたいという欲求は異常なほどと、永田監督は笑う。
観戦した試合で、清水は左中間に2本のホームランを放った。
「このチームを指導して25年ぐらいになるけど、バッターならナンバーワンじゃないかなぁ......」
リストの強さとスイングスピードの速さは間違いなくプロ仕様。「打たなきゃ!」「打ってやる!」といった気迫がやや空回りして、上体が突っ込んでしまうこともあったが、全国でもトップクラスの潜在能力と向上心は、これからの成長を間違いなくあと押ししてくれるだろう。
神奈川では、平塚学園の強肩捕手が評判だと聞いて見に行った。安達斗希はキャッチャーながらしなやかな腕の振りからきれいにバックスピンがかかった送球は、たしかに一級品に見えた。だが、それ以上に小さな体からダイナミックなプレーをする同じチームの背番号18の姿に目を奪われた。
身長169センチ、体重65キロの阿部和広(右投両打)はセンターを守っていて、この日はリードオフマンを務めた。
初球、もしくはファーストストライクから「パチン!」と対応して、鋭いライナー性の打球が外野を襲う。内野安打ほしさに合わせていくようなスイングではなく、フィニッシュでバットが背中を叩かんばかりの渾身のフルスイング。
そしてスイングしてから走り出すまでの敏捷性、大きなストライドでグイグイ地面を蹴っていく強靭なバネは、迫力十分。試合を見たこの日は5打席すべて出塁して、三塁打を含む4安打。とにかくグラウンドをところ狭しと駆け回る姿が印象的だった。
「あんなに一生懸命で前向きな選手はいない。タイプとしてウチは指名しにくいけど、どこかの球団に獲ってくれませんかとお願いしたいぐらいです」
そう語るスカウトもいる。
たしかにプレーを見てしまったら、そう思うのも無理はない。見るからに応援したくなるような、心身のパワーにあふれた選手だ。
この春のリーグ戦で155キロをマークして、リーグ新記録となる1試合19奪三振というド派手な記録を出したものだから、一躍その存在を知ることになったが、まだ全国の舞台で投げたことがないし、実際にピッチングを見た人も少ないはずだから、「隠し玉」という扱いでもいいだろう。
青森大・長谷川稜佑(右投右打)については、とにかく速いと聞いていたが、ピッチングを間近で見た時の第一印象は「いいスライダーを投げるなぁ」だった。
大谷翔平(エンゼルス)が花巻東高校時代に投げていたスライダーは、真っすぐと思った瞬間に真横に吹っ飛んでいくようなえげつない変化だったが、長谷川もそれに近い。
右打者のアウトコースを狙うと、曲がりすぎてなかなかストライクにならないと嘆き、今は体のほうから曲げてストライクゾーンに決める軌道を勉強中だという。
先輩に好投手が何人かいたので、3年間じっくり下地をつくり、足立学園(東京)時代に145キロをマークした「剛腕」の素質が、開花の兆しを見せてきた。
「性格的にもリリーフのほうがいいテンションでマウンドに上がれます」(長谷川)
あとは、3球で打者を追い込める精度の高さを身につけられるかどうかだ。そうすれば、試合終盤の1イニングを力でねじ伏せられるパワー系ピッチャーを求めるチームからの指名があるはずだ。
社会人の野手なら、NTT西日本の藤井健平(左投左打)も密かに注目している選手だ。大阪桐蔭→東海大→NTT西日本と名門で育ち、ルーキーイヤーだった昨年の都市対抗から堂々としたプレーを披露。
こういう選手は、ひっそりとプロ入りしたあとに大活躍して、「プレーはずっと見てきたのに......」とスカウトを悔しがらせるタイプである。
昨年のドラフトで阪神が6位で指名した中野拓夢(三菱自動車岡崎)や、2016年のDeNA9位・佐野恵太(明治大)がその典型だろう。
藤井のスピード溢れる走塁と、フェンス際の見事な捕球技術、さらに東海大時代から光っていた強肩は、今すぐプロに混じってもトップクラス。その日によって調子の波があったバッティングも、社会人に入ってから安定感が増し、飛距離、打球のスピードとも劇的にアップした。
左投左打の外野手となると、「ポジション的に潰しがきかない」と言う人がいるが、プロのレギュラー外野手を見ると、結構、藤井のような選手がいる。
ポジションは違うが、じつは何年か前に社会人で同じような選手を「隠し玉」として推したことがあった。それがNTT東日本からオリックスに進んだ福田周平である。スピード感、アグレッシブなプレースタイル、そして抜群の野球センス。ちなみに、福田も広陵(広島)から明治大、NTT東日本と、アマチュア野球の王道を歩いてきた選手だった。
今シーズン、オリックスの1番として優勝争いの原動力となっているが、藤井もどのチームに入っても見事にフィットしそうな気がする。
今回挙げた4人はバリバリの上位候補ではないが、こういう選手がチームにいると首脳陣としてはとてもありがたいのである。はたして、彼らの指名はあるのか。10月11日が待ちきれない。