23分の失点シーンは4バックのオーストラリアが後ろ3枚で回したところに、4-1-4-1の中国は1トップのエウケソンに加えて、インサイドハーフの10番チャン・シージャーが前に出てプレッシャーをかけに行った。そこにFWのアダム・タガートが中盤の底まで下がって後ろから縦パスを引き出したところに、もう一人のインサイドハーフであるジン・ジンダオが食い付き、アンカーのウー・シーと縦に距離が生じる。
その後ろに構える最終ラインが乱れると、タガートから戻しのボールを受けたセンターバックのハリー・サウターが、センターバックのギャップを突くアワー・メイビルにロングパス。1対1のシュートはGKイェン・ジュンリンが弾くも、前に戻っていたタガートがこぼれ球を拾い、浮き球のクロス。これをメイビルが押し込んだ。これでより攻撃的に行かざるを得なくなった中国だが、守備面の不安定さをさらに露呈させる形で失点を重ねることになった。結果は0-3だった。
そのパフォーマンスだけを見たら、国内で1週間、さらに試合が行なわれたカタールに入ってからの1週間で何を準備してきたのかということになる。オーストラリアは2日しか練習ができなかったのだから、なおさらだ。しかし、そのまま日本戦も低調なパフォーマンスになると見るのはやや早計だろう。1つは中国が同じカタール、しかもハリファ国際スタジアムで引き続き戦えること、もう1つは日本とオーストラリアのスタイルの違いだ。
オーストラリアはグラハム・アーノルド監督がいわゆるポジショナルプレーをベースに、幅を意識しながら立ち位置を変えてくる。まさに先制点のシーンは3トップ中央のタガートが中盤に引き、代わりにウイングのメイビルが中央に移動、左サイドバックのアジズ・ベヒッチがウイングの位置まで上がっていた。こうした変形をいくつも持っており、中国は4-1-4-1を流れの中で動かさざるを得ずに、結果としてスペースを与えてしまっていたのだ。
森保ジャパンも立ち上げ時より全体の立ち位置を意識したスタンスを取って入るものの、オーストラリアほど流動的なメカニズムがはっきりしている訳ではなく、基本は近い距離間でのコンビネーションとシンプルな突破の組み合わせで攻撃が成り立っている。おそらく中国側はオーストラリア戦ほど混乱することなく、日本の攻撃に対してマッチアップを作っていけるはずだ。
そこを日本はスピードやアイデアで上回って行く必要がある。100%の状態でぶつかり合えば、総合的に日本が優位に立てるはずだが、全く移動なしで調整できる中国と、日本からの長い移動、さらに検査による待機を強いられている日本では、どちらにコンディションの利があるかは明白だ。日本もオマーン戦より良くなることは間違いないが、相対的に中国にアドバンテージがあるのは間違いないだろう。
【PHOTO】追加招集のオナイウ阿道も合流!ドーハでトレーニングを行なう日本代表! 気になるのは中国のリ・ティエ監督が、オーストラリア戦に出なかったアラン、アロイージオという帰化組のアタッカー二枚を日本戦に起用してくるかどうかだ。オーストラリア戦ではFWエウケソンとDFティアス・ブラウニングという二人の帰化選手が先発起用された。広州恒大(現在の広州FC)や上海上港(現在の上海開港)で活躍してきたストライカーのエウケソンは2019年に中国代表デビュー。現在は不動のエースの地位を確立している。オーストラリア戦は前線で孤立気味だったが、常に危険なポジションを取っており、一本良いパスが通れば決めきる怖さがある。
英国生まれながら中国にルーツがあるセンターバックのブラウニングも同年に帰化し、2020年に初招集を受けて主力に定着。デュエルの強いユ・ターパオとセンターバックのコンビを組み、守備面でリーダーシップを発揮している様子が見られる。中国がチーム強化のために進めている帰化政策はここまで身を結んでいないのが実情だが、もし日本に負けたら後がなくなってくる状況で、アランとアロイージオを起用してくる可能性は十分にある。
アランは欧州時代にはザルツブルクなどで活躍し、2014−15シーズンにはオーストリア1部とヨーロッパリーグで得点王をダブル受賞したこともある大型ストライカー。ブラジルの名門サンパウロなどで活躍したアロイージオも強力なストライカーで、良い位置でボールを持てば、組織的に崩せないディフェンスを強引に突破して決めきる能力を備えている。
攻撃面だけを考えるなら、エウケソンとアロイージオの2トップ、左サイドハーフにアラン、右サイドにスペイン1部のエスパニョールに所属するウー・レイを配置するのが、日本にとって脅威度が増す。その分、サイドの守備が心許なくなるので、攻守のバランスを考えている様子のリ・ティエ監督の策としては、アランをスタメンに加えて、勝負所でアロイージオを投入してくる流れか。
オーストラリアが中国に取れたアドバンテージを日本がそのまま取れると考えるのは危険だ。いずれにしても、この試合を落としたほうが本大会出場をかけた戦いで遅れを取る形になり、監督の去就も取り沙汰される可能性が高い。引き分けに終わったとしても、両国にとって“痛み分け”となるだけに、お尻に火がついた同士の緊迫した試合になることは間違いない。
取材・文●河治良幸