すべて上手くいっていた…26歳女性が患った統合失調症の体験を絵本に「ひとりの人間が病気になる過程を伝えたい」
統合失調症を患った26歳の体験
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■抱いていた精神疾患への偏見「自分が患って、それが間違いだと知った」
――Twitterに投稿された「統合失調症を患ったお話」には、「母が統合失調症でした。統合失調症を患った方の情報は読んだことがなかったので、母を改めて想いました」や「統合失調症の叔父さんのために私にもできることはないかと考えた」など、身近に統合失調症患者がいる方の反応が多く見られました。こういった反響に対してはどのように感じていますか?
【Himaco】患者さんのご家族の方から温かいご感想を頂いて、素直に嬉しかったです。100人に1人が患うこの病気。そのご家族の数はもっと多く、やっぱりすごく身近な病気なのだと感じました。「書いてくれてありがとう」という言葉が有り難かったです。
――「統合失調症を患ったお話」は絵本としても刊行されていますが、ご自身の体験を絵本にしようと思った経緯を教えてください。
【Himaco】私は病気を患う前、精神疾患に対して偏見がありました。「統合失調症にはなりたくない!」なんて思っていました。自分とは遠い世界にいるおかしな人がなる病気だとも…。でも、自分が病気を患って、それが間違いだということを知りました。赤ちゃんから続く“ひとりの人間”が、頭の中の調子を崩して病気を患った過程を伝えたくて、誰かに届く作品を作ろうと思い至り、絵本を書きました。
――職場の方に休職や病院へ行くことを薦められたそうですが、そのときはどういった気持ちでしたか?
【Himaco】休職を勧められたのは、頭が苦しくて、仕事も手につかず、なんだか“自分がすごく偉い人なのだ”という妄想があった頃です。「休職するのには診断書が必要だから、必ず病院に行ってください」と言われ、「じゃあそうしよう」と思った記憶があります。
――発症のきっかけとなった症状や出来事などはあったのでしょうか?
【Himaco】発症のきっかけとして明確なストレス源があったわけではなく、仕事も人間関係も上手くいっていました。ただ、発症した年の春頃から、今まで生きてきた中で辛かった記憶を昇華させようと、人生の振り返りをしていました。次第に睡眠時間を削るくらいそのことに熱中し、最終的に調子を崩しました。
■「自分は何も欠けていない」と思えるようになった 病気によって得た価値観の変化
――病院で統合失調症と診断されたときと診断される前とでは、ご自身の気持ちにどんな変化がありましたか?
【Himaco】統合失調症と伝えられたのは、病状が治まり、病識(自分が病気を患ったという認識)を持ってしばらくしてからなので、診断されたときは若干のショックと「やっぱりそうだよね」という思いがありました。自分がおかしな様子だったことを覚えていたので……。「統合失調症の人間」というラベリングを自分にせずに済んでホッとしました。私を私として扱ってくれた周囲のおかげだと思います。
――治療してからしばらくして、「頭の中は急激に冷静になっていきました。非現実的な妄想の熱は徐々に冷めてきて(中略)世界が元の色に戻っていきました」と、少しずつ体調が良くなっていく様子が書かれていましたが、そのときの心境はどのようなものだったのでしょうか?
【Himaco】夢から覚めたような、不思議な感覚でした。どこまでも膨らんで広がっていった頭の中が、昨日のように暴走できないというか。次第に、常識的な目線で状況を見られるようになりました。
――統合失調症を患っていた当時、支えになっていたものは?
【Himaco】患っていた当時(今も患っているので、陽性症状が出ていた当時)、生きる支えになっていたのは“自分が偉くなった”という妄想でした。そして母と弟の存在ですね。周りの人をことごとく敵だと思って被害妄想に苦しんでいましたが、母と弟は味方だという設定がありました……。
――統合失調症を患って、価値観の変化などはありましたか?
【Himaco】以前は、学生なら学校、社会人なら正社員で仕事…のようなライフステージにあった生き方をしなければ、自分が何か欠けているような思いがありました。病気を患い、どうしても無理ができなくなり、望んでいた生き方は難しくなりましたが、「自分は何も欠けていないのだ」と心から思えるようになりました。
■「社会と当事者がこの病を受け入れやすくなるきっかけとして役立ちたい」
――現在は障害者雇用で就労し、日商簿記2級合格に向けて勉強中とのことですが、将来への思いを教えてください。
【Himaco】将来への思いは、ぼちぼちと頑張りながら、ご機嫌に暮らすことです。
――今後、絵本を通しては、どんなことをやっていきたいですか?
【Himaco】適切な支援(繋がり)が大切な病だと思っています。病は何か悪いことをしたから患うものではありません。
作品が社会と当事者がこの病を受け入れやすくなるきっかけとして役立ちたいです。
――同じ病気を患っている方や読者に伝えたいことはありますか?
【Himaco】私の作品を読んでくださって、ありがとうございます。この絵本はあくまでも一個人の体験で、幸運だった部分も多いです。当事者が、今後さまざまな形で声を発信できるようになればいいなって思います。
――確かに、それは大事なことですね。
【Himaco】また、病を患っている人には性格・環境・症状などの多様性があること、病を患っている人は歴史ある人間であること、自分や家族が罹るかもしれない身近な病気であること。そういったことが誰かに届き、いい影響が広まりますよう祈っています。-
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