「冬の移籍は必要ない」
レアル・マドリードのジネディーヌ・ジダン監督は、フロントにそうクギを刺しているという。欧州3連覇を果たした指揮官は誰よりも勝負の機微を知るが、クラブ内に波風が立つのを何よりも嫌う。シーズン途中で加わった選手が適応する難しさを心得ている。その点、戦力外選手の放出でさえも、基本はシーズンが終わってからだ。
それほどに、冬の移籍はデリケートなのだろう。
実際、過去の例を見ても、冬の移籍で獲得した選手が、そのシーズンに救世主的な働きをする確率は低い。かつては冬にも大型補強が多く発生したが、昨今は限定的になった。ギャンブル的要素が強いからだ。
たとえばバルセロナは、ルイス・スアレス(アトレティコ・マドリード)の代役として、2019年はケヴィン・プリンス・ボアテング(モンツァ)、2020年はマルティン・ブライスワイトというFWを冬に獲得しているが、ほとんど貢献できず、もはや散財に近かった。切羽詰まって補強しても、効果は望み薄だ。2018年1月には、フィリペ・コウチーニョを1億6000万ユーロ(約200億円)という天文学的な移籍金を支払って獲得したが、今や市場価値は3分の1以下と言われ、クラブの屋台骨をぐらつかせるほどだ。
昨シーズン、リーガ・エスパニョーラで一番高価な"冬の買い物"をしたクラブは、エスパニョールだった。なんと4000万ユーロ(約52億円)以上を強化に費やしたが、結局は2部に転落した。レアル・マドリード下部組織育ちのストライカー、ラウール・デ・トマスだけでクラブ史上最高額の2000万ユーロ(約24億円)を支払ったものの、4得点と残留には不十分な働きだった。
なぜ冬の移籍は失敗例が多いのか?
冬の移籍市場で動くクラブの多くは、その時点で何らかの理由によって不調に陥っている。それを解消するために補強が必要となるのだが、有力な選手を獲得するのは難しい。そこで、他のクラブで放出リストにある選手になるわけだが、彼らはそのクラブでうまくいっていないことが前提としてある。端的に言えば、「プレーできていない」などの問題を抱えている。久保と同じタイミングでバルサからヘタフェに移籍することになったMFカルレス・アレニャも、今シーズンはほぼ出場機会がなかった。
必然的に、冬の移籍は博奕となる。移籍する選手も一か八か。試合勘の問題もある。にもかかわらず、低迷するチームを牽引しなければならないのだ。
特にテクニカル系の選手が本領を発揮するのは至難の業と言える。コンビネーションを使って崩すのが持ち味だけに、まずは周囲の信頼を勝ち取る必要があるが、時間は限られている。即効で結果を出せないと、脆さの方が目立ってしまい、すぐに戦犯として扱われる。ベテラン選手は実績でその猶予を伸ばせるが、若手はさらに難しい。
単純にインテンシティをチームにもたらす老練な選手は、いくらか成功の見込みはつく。リーガでの象徴的な成功例は、エドガー・ダービッツだろう。2004年1月、当時、下位でくすぶっていたバルサに加入するや、守備のインテンシティや勝利のメンタリティをもたらした。たった半年の在籍だったにもかかわらず、経験豊かな力強いプレーでチームに浮力を与え、順位を劇的に上昇させ、黄金時代の下地を作ったのだ。
しかし、こうした例は珍しい。
「ヘタフェは久保シフトで4−4−2を捨て、4−3−3を採用か。4−4−2だとしても、3番目のアタッカーとして起用されるのではないか」
スペインメディアの間で、久保はそこまで期待を寄せられている。確かに、守備陣を打ち崩すだけの攻撃力はあるし、勝負を決められるかもしれない。アレニャをインサイドハーフに、左にマルク・ククレジャ、右に久保と、バルサ育ちの面子で戦う姿は、心を浮き立たせるものがある。
◆久保建英はヘタフェでフィットするか。柴崎を見切った指揮官の戦術は
しかし、たった一度の失敗で、その流れは逆さになるだろう。手のひら返しは強烈である。上位争いしつつ、ヨーロッパリーグでも決勝トーナメントに進出していたビジャレアルで踏ん張っていたほうが、むしろ計算は立ったかもしれない。
ボルダラス・ヘタフェで久保は成功できるか?
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はウェブ上でアンケートを取ったが、77%が「イエス」と答えている。