ひとつずつ夢を追いかけて、叶えて、そして――20歳・楠木ともりが秘める無限の可能性

高校在学中に事務所オーディションで特別賞を受賞し、声優としての道を歩み始めた楠木ともり。初めて受けたスタジオオーディションで主役を勝ち取り、その後もアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(レン/小比類巻 香蓮役)、スマホゲーム『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル ALL STARS』(優木せつ菜役)などに出演している。

一方で、公式YouTubeチャンネルでは自ら作詞・作曲した楽曲を披露し、高いクオリティでファンを驚かせている。そんな彼女がこの夏、シングル『ハミダシモノ』でメジャーデビュー。

弱冠20歳。オリエンタルラジオのラジオ番組に出演した際には、頭の回転も速くしっかりした物腰から、「こじるり(小島瑠璃子)に初めて会ったときを思い出す」と評された。たしかにインタビューでも、投げかけた質問に対して丁寧に、かつ理路整然とした答えを返してくれ、聡明さが伝わってくる。

スターのポテンシャルを秘めた逸材は、一体、天から何物を与えられているのか。その生い立ちから現在までをたどった。

撮影/アライテツヤ 取材・文/江尻亜由子

正義感が強く、負けず嫌い。中学では生徒会長も務めていた

まずは、楠木さんがどんなお子さんだったのか、聞かせてください。
とにかく曲がったことが嫌いな正義感の強い子だったと、両親からは聞いていて。私の記憶でも、いたずらをするような子は苦手でした。「許せない!」って、いつも怒っていたイメージがありますね。学校行事は大好きで、積極的に参加するタイプでした。
勉強やスポーツは得意でした?
勉強は、中学生くらいまでは得意なほうで、先生からもある程度の評価はいただいてたと思うんですけど(笑)、スポーツは全般できなくて、いつも体育の時間が憂鬱でした。
3歳からピアノも習っていたそうですが、小さい頃の夢は何でしたか?
あまり明確にはなかったんですが、美術系の教室にも通っていたので、親には「イラストレーターとかになりそうだね」と言われていました。音楽は、聴いたり歌ったりすることは好きだったんですけど、ピアノがそんなに……好きではなくて(苦笑)。
(笑)。子ども時代は、ピアノの練習が嫌になることもありますよね。
そうなんですよ!(笑)私、手が小さいので指が届かなくて、ピアノの練習はけっこう憂鬱でした。絵を描いたりするほうが好きでしたね。
中学生になってからは、何か変化はありましたか?
中学校へ上がるまでに、英語以外の習い事はやめてしまって。どちらかというと勉強にシフトチェンジしていました。性格はあんまり変わらず、クラスで仕切っているようなタイプで、生徒会長もやりました。

ただ中学では、あんまり友達とうまくいかないこともあって。小学校のときは、「人前に立つのは名誉なこと」みたいに感じていたんですが、中学になってからはちょっと恥ずかしいというか、なるべく目立ちたくないな…と思っていました(笑)。
友達とうまくいかなかったというのは、具体的にはどのようなことだったのでしょう…?
いじめられた、とまで言うと大げさに聞こえてしまうのかもしれませんが、いわゆる、誰がやってるかわからない嫌がらせ…物を隠されたり、陰口を言われているのを知ったり。「人前に立つと目立つから、こういうことを言われるのかな」みたいに感じて、それであんまり人前に立ちたくないって思うようになりましたね。
そんな中で生徒会長になった経緯というのは?
先生に「やらない?」と言われたので。1年のときに生徒会で書記をやっていたんですが、そのあとも継続して、結果的に生徒会長になった、という感じですね。
目立つのは嫌だなあという気持ちもありつつ、生徒会長としてのお仕事に最後まで取り組まれていたんですね。
そうですね。負けず嫌いなので、それで自分を曲げるのも悔しいなって(笑)。間違ったことをしているわけじゃないし、先生方も応援してくださっていたのでその期待にも応えたくて。それに、1回決めたことはやり遂げないと、って思っていたんです。

あとは、卒業間際に合唱コンクールがあったんですが、私は吹奏楽部に所属していて楽譜が読めたので“仕切る側”だったんです。そのときにやっと「ありがとう」って言ってもらえて。だからすごく清々しい気持ちで卒業できました。

トラブルに悩んだ時期、アニメに出会って救われた

アニメを好きになったのは中2の頃、親しいお友達が勧めてくれたのがキッカケだとか。
私には5歳上の姉がいて、それまでは好きなものや部活など、姉から影響を受けることが多かったんです。年齢は離れているけど、通っている中学も高校も一緒で、姉も生徒会長だったんです。

あるとき、親戚から「すごくお姉ちゃんの影響を受けているのね」って言われて。たぶん、何の気なしにさらっと言ったことだと思うんですが、私は「自分の意思がない」って言われたような気がして。「姉から教わったけど、私は私の意思で好きなんだ」と思っていたのに、周りから見ると姉をマネしているようにしか見えないんだなって、悔しく感じたんです。

それで、私にしか見つけられないものって何だろうって、ずっと探している中で出会ったのがアニメ。やっと少し、自分の個性を見つけられた気がしました。でも、無理やり「好きにならなきゃ」と思ったわけではなく、スッと好きになった感じですね。
とくに印象深い作品は?
『東京ミュウミュウ』です。放送は私が2歳のときでしたが、オープニング映像だけはすごく覚えていたんです。母に久しぶりに「覚えてる?」って映像を見せられたとき、「うわ、何だっけこれ!?」って思い出して、そこから観返したのが始まりです。

そこから『こばと。』の再放送を観て、(主人公を演じた)花澤香菜さんのまっすぐな演技や歌声、声質のかわいらしさに、すごくときめいてしまって。アニメにハマって、そこから初めて声優っていうお仕事が気になり始めて…ということで、その2作品は自分にとってのターニングポイントでした。

フラストレーションを抱えていちばん大変だった時期にアニメに出会えたのは、救いだったなと思います。
声優になるために、何かやっていたことなどはありますか?
とくに変わったことはしてなかったんですが、(アニメを勧めてくれた)友達も声優志望だったんです。ネットに、5分程度のフリー台本がいっぱいあるので、お互い気になる作品を印刷して、学校帰り、周りに人がいないことを確認してから(笑)、読みながら帰ったりしていました。それで、読みながら「なんだか恥ずかしいね」とか言ったりして……(照)。
すごくキラキラしていて素敵ですねぇ。
はい! 楽しかったです、すごく(噛みしめるように)。

高校時代は、友達との関係をいちばん楽しむことができた

高校時代はどんなタイプでした?
中学で友達とのわだかまりがすごく嫌になってしまったので、受験をがんばって、高校では、前に立つことを完全に放棄していましたね(笑)。自分と同じ思いをした子も多くて、誰かが目立っても悪く言ったりする子はいませんでした。

高校では軽音部だったんですが、みんな本番を観に来てくれたり、応援してくれたり。いちばん友達との関係を楽しんでいたし、すごくのびのびと、いろんなことに挑戦できた時期でした。
軽音部では何の楽器を?
基本的にはボーカルなんですけど、たまにキーボードを。ただアニソンとボカロ(VOCALOID)のカバーをやるバンドだったので、キーボードが難しくて(笑)。歌いながらやるもんじゃないな!と思って、途中からめちゃめちゃうまい子にサポートに入ってもらいました。
そういう活動をしながらも、声優になりたい!という想いは変わらず?
そうですね。むしろ強くなっていたと思います。現実を知らなかったのもあると思うんですが、「高校のうちに絶対デビューする」っていうのが目標で。デビューできなかったとしても、何かしら行動には移したいと思っていたので、親にも「私、声優になりたいんだ」と話していました。
ご両親はどんな反応をされてました?
うーん、可もなく不可もなく、というか(笑)。うちの両親は「安定した職に就いてほしい」と思うようなタイプなので、応援はしてくれていたんですが「とりあえず勉強して、高校は卒業して」って言われていたので、独学を続けつつがんばっていました。

ただ、頭ごなしに「ダメ!」っていう感じではなくて「やってみたいなら、やってみればいいんじゃない?」とオーディション資料を見つけてきてくれたりとか。「好きなことはやらせてあげたいけど、心配」っていう気持ちだったと思います。
そんな積極的に!
私が「このアニメ面白いんだよ」って言ったら、観てくれたり。かなり理解のある両親ですね。
お友達の反応はいかがでしたか?
中学時代に一緒に声優を目指していた子は引っ越してしまったんです。だいぶ遠くに行ってしまったから、高校時代は全然会えなくて…。逆に今、お仕事を始めてから連絡をまた取り始めました。

高校の友達はみんな、驚きもせず応援してくれていました。「有名になったらサイン書いて!」みたいな(笑)。
声も素敵で歌も上手だとお友達も知っていたから、「きっと夢を叶えるはずだ!」と思っていたのかも。
うーん、どうですかね…? 歌はみんな褒めてくれていたんですけど、声のお芝居は聞かせたことがなかったので、単純にみんな優しかったんだと思います(笑)。人の夢を応援しよう!っていう優しい子たちだったんだなと。

事務所オーディション(ソニー・ミュージックアーティスツ主催の『アニストテレス』)のファイナルが、公開オーディションだったんです。そのときもみんなで観に来てくれたり、前日にメッセージカードを集めたアルバムをくれたり、すっごく優しかったです!

オーディションを勝ち抜くも、複雑な気持ちに…

オーディションについてのお話も聞かせてください。楠木さんは、声優ではなく歌手志望で受けたんですよね。
このオーディションの前に、優勝したら会社のCMナレーションができますよ、といった優勝特典つきのイベントがあったんです。でも、そのときは予選すら通過できなかったので、「やっぱり演技経験がないと無理なんだな…」と思っていて。

それでもアニメには関わりたいので、「歌ならどうだ!?」と、今度は本気で歌手を目指して『アニストテレス』に応募したんです。でも審査のときには「私、歌手志望で出してますけど、声優もがっつりやりたいんです!」とも話していました。
どんな審査だったのでしょうか?
審査段階によって、自分で演目を選ぶときもあれば、課題を渡されるときもありました。課題は既存の映画作品だったので、それをチェックして「あぁ、こういう言い回しをしているんだ。でもモノマネになるのはダメだもんなあ」と考えながら練習していきました。

自分で演目を選べるほうは、〈物語〉シリーズで花澤香菜さんが演じられた千石撫子が感情的になるシーンをやらせていただきました。
歌の審査もあったんですよね。どんな準備をしましたか?
軽音部のバンドメンバーに歌がすごくうまい子がいて、たくさん協力してくれました。カラオケに行っても、その子は一切歌わないんですよ。私が歌うのをひたすら聴いて、「ここがこうだったよ」「ここは苦しいなら、裏声に切り替えちゃえば?」とアドバイスをしてくれる。フリータイムで数時間も付き合ってくれて、それがいちばん大きかったかもしれないです。
名プロデューサーですね!
ホントに! もう恩人ですね。その子がいなかったら、今の私はいない気がする。今も仲良しで、すごく大切な友達です。
オーディション本番での手応えはいかがでしたか?
最初に事務所に呼ばれたときは、1グループで10数人とか20数人くらいいたのかな? 会議室……まさにここ(この日の取材場所)が会場だった気がするんですけど(笑)、審査員としてソニーの方が20人くらいいたから、合計30〜40人くらいに囲まれて歌ったり演技したりっていう。
それは緊張しますね…!
もう、怖かったですね。ただ、すごく負けず嫌いなので「一緒に受けてる子たちは全員ライバルだ!」って思って、心の中で勝手にバチバチしてました。いっぱいいっぱいだったので、場にのまれないように「絶対に負けないし、絶対に私のほうが上だから!!」って、自分に言い聞かせるしかなくて(笑)。

2次審査は課題があったんですが、そのときはひとりでした。というのも、その日は文化祭だったんですよ。だから先生に「きょうオーディションなので、行ってきます!」と言って学校を出てきて。たぶん最後くらいの順番で、他の方に会うこともありませんでした。
そうやって審査を勝ち抜き、ファイナルに進出。お友達が見ている中で、歌や演技の審査が行われたんですね。
歌唱審査で課題曲のピアノ演奏をしてくださった多田三洋さんが、今もボイトレの先生をやってくださったり、ライブなどでご一緒させていただいたりしていて、オーディションで生まれた縁が今にまでつながっているのは、素敵なことだなと思っています。

ただ審査の出来栄えは、すごく緊張していて、正直あんまり覚えてないんです。人生で2度目のオーディションだったので、今考えると、よく耐えられたなって(笑)。今はもう無理かもしれない。当時のほうが強かったかもしれないですね。
では、「合格」を知らされたときの気持ちはどうでした?
公開審査後にお客さんの前で発表されるんですが、私の目標は、もちろんグランプリだったんです。でもその前に、特別賞で名前を呼ばれてしまったんです。だから「あ、呼ばれた!」っていう喜びと、「今なの? グランプリじゃないの!?」っていう気持ちで、すっごく複雑だったのを覚えています。

呼ばれたときは泣いちゃったんですけど、うれしいのか悲しいのか、自分でもわからなくて。「何が起きたんだ」みたいな混乱もありましたし。なので、一概に「めちゃめちゃうれしかった!」とは言えないです。悔しかった気持ちもありました。
それだけ本気で臨んでいた、ということですよね。でも、自分の名前が絶対に呼ばれる!という自信はあった?
自信があったわけではないんですけど、審査をくぐり抜けてきたので「ここまで来たら、名前を呼ばれないと帰れない!」って思って。ファイナルは、家族も見に来ていたんですよ。だから「これで呼ばれないのは恥ずかしい、呼ばれなきゃいけない」って自分にプレッシャーをかけていました。
そんな中で、特別賞として無事に名前を呼ばれて。
友達がすごく喜んでくれました。私は「でもグランプリじゃなかった…」って思っていたけど(笑)。というのも、特別賞も事務所に所属できるのかが、そのときはわかっていなかったんです。だから、「これは事務所に入れるの? それとも、褒められただけ?」って(笑)。もやもやした感じでしたね。
それが「うれしい」に変わったのは?
オーディションの翌日、教室に入ったら、私の席にプレゼントの箱が山積みになっていて。
お友達が……! それはうれしいですね…!!
今思い出しても泣きそうなんですけど(と、じんわり涙ぐむ)、友達がみんなで「おめでとう!!」って言ってくれたのが本当にうれしかったです。本当にいい友達を持ったなって、めちゃくちゃ思います。

今もライブに来てくれたり、私からは何も言ってないのに「今回の『ハミダシモノ』、めっちゃいいね!」と連絡をくれたり。本当に優しい友達です。

いきなりの主演作品。心はボキボキに折れました

では、事務所に入ってからのお話を。驚いたのが、初のスタジオオーディションで『メルヘン・メドヘン』の主演を射止められたということで。ご自身では当時のことをどのように思っていましたか?
うちの事務所は当時、講師の先生がいなかったので、先輩の様子を見ながら自分で学んで、時間があれば「(お芝居を)録ってみる?」っていう感じで、録っても送ってもらえる保証はなかったんですよね。

それで『メルヘン・メドヘン』の声を録ってみたら、初めてマネージャーさんに「これ、いいね」って言ってもらえて、私はそれで満足しちゃってたんです。「あ、やっと少しだけ認めてもらえたかも」って思いました。そうしたら数日後に「スタジオに呼ばれました」と言われて、「おっとっとっと!?」って(笑)。
そのテープを送られたことすら知らなかったんですね。
はい。まず、スタジオオーディションって何だ!?っていう状態で、「そういうのがあるんですか…?」っていうところから始まりました(笑)。当日もガッチガチで、「業界の人がいっぱいいる…」みたいな気持ちで。

アフレコブースには高さの違うマイクが4本立っていて、本当は自分の高さに合うところに入って、スタジオの方に微調整してもらうんです。でも私は、「自分でやるのかな?」って勝手にいじり、挙げ句にマイクを倒し……。「勝手にいじらないでください」って怒られ、「すみません!!(涙)」って……(苦笑)。その時点で落ちたと思っていたので、逆にリラックスできたのかもしれません。
その後も『ガンゲイル・オンライン』で主演を務めたり、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の一員としてパフォーマンスをしたりと、デビューから3年あまりでものすごく濃密な経験をされていますよね。振り返って、挫けそうになったこともありましたか?
それはもう、しょっちゅうです。というのも、独学であることが私のコンプレックスで。指導を受けたことがないので正解がわからないし、言ってしまえば、自分が下手なのかどうかすらもわからない状態からのスタートでした。

初めてアフレコしたときも、お芝居より、ボールド(セリフのタイミングを示すための印)を追いかけるのに必死で。全然うまくできないなと思っていたところに、放送後の、みなさんからの反応があるわけじゃないですか。そこで、なかなか厳しいご意見をたくさんいただいて。かなり絶望しましたね。改めて「自分って下手なんだな」って思い知らされて、心はボキボキに折れました。
そんなときは、どうやって乗り越えていたんですか?
うーん……正直、乗り越えられていなかったと思います。時が解決してくれるのを待つ、というか。ただ家族や友達に話したりして、いっぱいいっぱいにはならないようにしていました。
でも、すぐに次の週の放送や収録が来ますよね。
そうなんですよ。また下手って言われるのがわかっていながら放送を待つこの気持ち、いつまで続くんだろう…って、ずっと思っていました。

『メルヘン・メドヘン』はほとんどが女性キャラクターなので、言ってみれば“先生”がたくさんいる現場で。みなさんの演技を聴きながら、「どういう声の出し方をしているんだろう」「アフレコ中は台本ではなくどこを見ているんだろう」とか、収録中にアンテナを必死に立てていました。
でも、そのおかげで少しずつうまくできるようになったな、という実感も?
そのときはなかったです(笑)。本当にただ手当たり次第、できることをやろうっていう気持ちでした。

ただ『ガンゲイル・オンライン』でも本当に素晴らしい先輩方に恵まれたので、無茶な相談にも親身に乗ってくださいました。放送されたとき、演技や声をたくさんの方に褒めていただけて、そこでやっと、気持ち的にも安定したというか。

やっとみなさんの耳に馴染むくらいにはなれたんだな、と思えてからは少し楽になって。鎖から解放された感じです。お芝居が楽しいっていう気持ちが戻ってきましたね。
先輩の言葉で心に残っているものはありますか?
ずっとエム役の興津(和幸)さんが相談に乗ってくださったんですが、興津さんのアドバイスはすごく論理的で、「ここはこう読めば、こういうふうに聴こえるよ」とか、初心者の私にはすごくわかりやすかったです。

いちばん大きかったのが、私は「ここって合ってますか?」っていう聞き方をしてしまうことが多かったんですけど、「楠木さんは座長で、座長は空気を作るものだから、正解とか不正解とかないよ。のびのびやってごらん」って言ってくださったんです。

そこで「正解を求めなくていいんだ。自分らしくやっていいんだ」と気付けました。同時に周りの先輩方は、私が自由にやっても作品がまとまるように演じてくださってるんだなっていうことも感じられて。すごく大きなひと言でした。

「アイス食べたいな」が始まり。『眺めの空』誕生秘話

では、音楽活動についても伺います。8月19日、シングル『ハミダシモノ』でついにメジャーデビューということですが、自分がメジャーデビューすると聞いたときの気持ちは?
マネージャーさんが冗談言ってるんだと思って、「ドッキリかな?」って(笑)。タイアップ(自身も出演するアニメ『魔王学院の不適合者』のエンティングテーマ)もつくと知って、「そんな素敵なものを最初から担当させていただけるのか」と信じられませんでした。

声優を始めてからも、「20歳くらいでアーティストデビューできたら、それほど幸せなことはないな」と考えていたタイミングだったので、夢みたいでした、本当に。
「アーティスト・楠木ともり」としてどんな音楽を作っていきたいか、スタッフの方々ともお話しましたか?
基本的に私は、明るい曲を普段あんまり聴かないんです。元気がないときに音楽を聴くことが多いので、元気すぎると「ま、眩しい…!」「『がんばろう』って言わないでー!」ってなっちゃう(笑)。どちらかというと一緒に「つらいよね」って寄り添ってくれるような、暗めの曲が好きなんですよね。それで私も、寄り添う曲を作りたいなと思っていました。

普段溜め込んでいるものをわーっと吐き出して、気持ちを安定させるために曲を書いていた部分もあって。心の内側に抱えているようなことを曲にしていけたらいいなと思ったし、それによって誰かが元気になるキッカケになれればいいなと思っていました。
YouTubeでメジャーデビュー前の自作曲を発表されていたのを聴きましたが、クオリティの高さに驚きました…! 初めて作詞や作曲をしたのはいつ頃ですか?
高校の軽音部でオリジナル曲をやることになったとき、1回だけ趣味の範囲で作りかけたことはあったんですけど、きちんと初めて作詞作曲したのは、今回もカップリングに入っている『眺めの空』が最初です。
そうなんですね…! まさか最初からこんな楽曲を作れるなんて…と思ってしまいました(笑)。
ふふっ。多田さん主催のアコースティックライブに、ずっとカバー曲で参加させていただいてたんですけど、「自分の曲を作ってみたいんです」と伝えたら、「どんどんやってみてください」って言っていただけたので。たしかその日のうちに作って、その日のうちに送りました。
スゴい…! 楽曲はどういうふうに作っているんですか?
鼻歌です(笑)。詞先で最初に歌詞を書いてから、鼻歌でメロディをつけて。ピアノを習っていたから自分のメロディを楽譜に起こすことはできるので、それを多田さんに見せて、「コードをつけてください!」と編曲をお願いしていました。
編曲のイメージも、ご自身で伝えているんですか?
そうですね。多田さんが基盤は作ってくださって、その後は一緒にやりながら、「ここは希望を持たせられるようメジャーコードにいきたいです」とか、「ここのリズムは歌詞とリンクさせたいので、1つひとつコードを変えたいです」とか。多田さんがそれを的確に読み取り、素晴らしいコードをつけてくださって。
歌詞を書くときはどのような環境ですか?
とくに決めていないんですけど、基本的に静かな場所がいいので、自分の部屋です。鼻歌を歌いながらボイスメモでメロディを録って、歌詞もスマホのメモに書いちゃうので、携帯を握ってゴロゴロしながら作っています(笑)。

『眺めの空』のときは、好きな写真家の方の作品を見たりとか。あと、じつはこの曲、アイスを食べながら作っていて(笑)。
楽曲のイメージと作り方にギャップがありますね(笑)。
なんか、アイスのことを曲にしたかったんですよ。アイス食べたいなと思いながら書いていたら「歌詞、意外に書けるな」って(笑)。なので、歌詞の中にも「アイスクリーム」って出てくるんです。
初めて『眺めの空』を送ったとき、多田さんはどういう反応でした?
まず、その日に送ったから「えっ、早くない!?」と驚かれました(笑)。あとは私がコードの勉強とかをしてこなかったので、いわゆる常識にとらわれないメロディだったみたいで。「すごく個性的だし、キャッチーだし、本当に初めてなの?」って、褒めていただいた記憶があります。

「君」と「僕」が誰なのか、みなさんに想像してほしい

では、今回の表題曲『ハミダシモノ』についても伺います。作曲は重永亮介さんですが、歌詞のテーマはどのように決められたのでしょう。
歌詞は、アニメ(『魔王学院の不適合者』)の原作小説を読んで考えました。とにかくキャラクター1人ひとりが強くて魅力的なので、どのキャラクターにも重ねられる、いろんな魅力が出る歌詞にしたいなって真っ先に思ったんです。そこで、じゃあ「強さ」をテーマにしよう、と。

「強さ」といっても、戦う強さだけじゃなくて、誰かのために自分を犠牲にするのも強さだし、自分の意思を強く持つこともまた強さだし、いろいろあるなと思って。そのひとつひとつが本当に尊いものなので、それを曲で表現できたらいいなと最初に思いました。
とくに印象に残っているフレーズは?
Bメロの最後…サビの前に「君の強さは僕が知っている」っていう歌詞があるんですけど、ここがいちばんのキーポイントになっている歌詞です。他は独白っぽいというか、自分の中の感情を描いてるんですが、このサビ前のフレーズだけ、自分以外の第三者が出てきます。

「君」と「僕」が誰なのか、みなさんの想像がふくらんだらいいなって。より聞いてくださる方との距離感を縮められる部分になっているかなと思います。
3曲目の『ロマンロン』は、「まだ僕の夢はヒミツ」という歌詞のところでリズムが変わったりと、細かいテクニックもふんだんに盛り込まれています。これも、鼻歌で作っているんですよね?
もう、全部鼻歌です(笑)。ただ脳内にはあるんですよ、じつは。「ここはこういうドラムのリズムなんだよな」みたいな。でも自分では形にできないから、多田さんにお願いしています。
でも最初から全部、メロディラインも含めて脳内で聴こえているんですね。
ほぼほぼこんな感じかな、こういう曲にしたいな、っていうのは明確にあります。
「大人になっても夢を追いかけ続けるには覚悟が必要。その覚悟を肯定したい」という気持ちから作った楽曲だそうですが、楠木さんにとって「追いかけ続けたい夢」とは?
うーん。現状は夢を必死に追いかける一方で、実現もさせてもらっているところなので。今の状態が続いたらいいなっていうのは、すごく思います。
では、声優やアーティストとして「こうありたい」と考えている理想像や目標を教えてください。
ファンのみなさんとの距離が、あまり離れすぎるのは好きではないというか。物理的な距離ではなく心の部分で、演技とか歌で、何かしらみなさんに影響を与えられたらいいなって思っています。身近な存在でいられるように、というところは意識していきたいです。
4曲目の『僕の見る世界、君の見る世界』は、1〜3曲目と比べると、とても爽やかな楽曲に感じました。重永さんとの共作ですが、どのようなイメージを伝えたのでしょう?
「疾走感のある、爽やかなロックがいいんです」と話をしながら、イメージに近い楽曲を直接聴いていただきました。「ここのドラムの感じが好きなんです」とか、「こういうリズムにしたいんです」とか、細かい部分も多田さんに伝えるときと同様にお伝えして。

この曲はいつもと手順が違って、メロディもその場でつけました。いつもだったら詞先で、そこからメロディを考えてコードなんですけど、この曲は歌詞にコードをつけてもらったところに、私が鼻歌を乗せてメロディをつけたんです。

私が普段考えるコード進行とは違うので、新鮮な感じに聴こえるのはたぶんそこが理由だと思います。重永さんの素晴らしさと、自分らしさも出しつつっていうバランスがすごく取れた曲だなと思います。

スイッチを入れないと、きちんとできない人間なんです(笑)

楠木さんの楽曲は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会などで見せていたかわいらしさとはガラッとイメージが変わりますよね。突き刺さるような歌声と相まって、余計に心を掴まれる感じがあって。
ホントですか、うれしいー!!
ご自身名義での活動では、カッコいい系の楽曲を歌いたいという気持ちが強いですか?
自分の声質が強いことは知っているし、歌い方もあまりおしとやかではないので(笑)、長所を最大限発揮できるのは激しい曲かな、というくらいの認識ですね。いろんな歌い方ができるようになったら、幅広い曲に挑戦していきたいです。
楽曲を聴いたり、こうしてお話したりしていると、楠木さんは20歳という年齢から受けるイメージよりも遥かに思慮深くて、しっかりされている印象を受けます。オリラジさんのラジオ番組に出演したときも、「こじるりさんを思い出す」と言われてましたよね。
そう言っていただいて……うれしいです(照)。
昔から、「大人びているね、落ち着いているね」と言われることは多かったですか?
うーん…、場合によるかなと思います。「やるときはやる人だよね」みたいには言われていた気がします。常に大人びているとかじゃなくて、ふざけているときは年相応だし、でもちゃんとやろうってなったらスイッチを切り替えられる人だね、みたいな。
ご自身でもその通りだなと思います?
スイッチを入れないと、自分はきちんとできない人間だってわかっているので(笑)。やるときはちゃんとやろうって意図的なところもあると思います。だから、家に帰ったら全然こんなんじゃないんです(笑)。

ともりるをもっと知りたい! 「一問一答」コーナー

さっそく迷う!(笑)えーっと、よく座右の銘に挙げているのは、「いいことしてれば、いいことある」です。
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』。

映画にもなった作品ですけど、その原作本が好きなんです。
冬です。暑いのが苦手っていうのもあるんですが、誕生日とかクリスマスとかお正月とかがあって楽しい気持ちになるので。

冬って…よくないですか?(笑)冬の匂いというか、ちょっとすーっとする感じが好きなんです。
うーん、猫。気まぐれというか、猫ってひとつに集中すると、自分の世界に入っちゃうじゃないですか。でもそれ以外のときはだらーっとしてる感じが、自分っぽいなって思います。
「えー」って、めっちゃ言っちゃう(笑)。「えー」とか「なんか」って前置きしないとしゃべれないんです(笑)。
性格でもいいのであれば、自分を強く持っているところかなと思います。
筋トレです。腹筋だけをひたすらやっていました!
難しい…!! でも、やっぱり母が作る肉じゃががいいですね。
楠木ともり(くすのき・ともり)
1999年12月22日生まれ。東京都出身。A型。2016年、ソニー・ミュージックアーティスツ主催のオーディション企画「アニストテレス」第5回で特別賞を受賞し、2017年に声優デビュー。2018年にアニメ『メルヘン・メドヘン』で初主演。主な出演作に『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』、スマホゲーム『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル ALL STARS』など。2019年、第13回声優アワードにて新人女優賞を受賞。現在はアニメ『デカダンス』、『魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』、『遊☆戯☆王SEVENS』に出演中。8月19日、『ハミダシモノ』でソロメジャーデビューを果たす。

CD情報

1st EP『ハミダシモノ』
2020年8月19日(水)リリース!
配信中:https://kusunokitomori.lnk.to/Hamidashimono

左上から初回生産限定盤A、初回生産限定盤B、期間生産限定盤、通常盤

初回生産限定盤A[CD+BD]
¥2,400(税抜)
初回生産限定盤B[CD+フォトブック 24p+三方背ケース]
¥2,400(税抜)
期間生産限定盤[CD+DVD]
¥1,600(税抜)
通常盤[CD]
¥1,500(税抜)

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、楠木ともりさんのサイン入りポラを抽選で2名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2020年8月19日(水)12:15〜8月25日(火)12:15
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月26日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月26日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月29日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
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