AppleがiPhoneなどで提供しているアプリのダウンロードサービス「
App Store」において、有料アプリに課せられる高額な手数料が物議を醸しています。
App Storeが抱える問題点について、元Apple社員のアナリストであるベン・トンプソン氏が語っています。
Apple, Epic, and the
App Store - Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2020/apple-epic-and-the-app-store/
Apple: Steve Jobs introduces the
App Store (2008 video) | Philip Elmer‑DeWitt
https://www.ped30.com/2020/08/17/apple-steve-jobs-app-store-video/
Appleは自社製のデバイスにmacOSやiOSといった独自のOSを搭載して販売することで利益を上げてきました。また、iPhoneやiPadでは
App Storeからのみアプリをインストールできるため、デバイス上で実行できるのはAppleによって認可されたアプリに限られます。トンプソン氏はAppleにおけるアプリの扱いについて、「バリューチェーンの観点から見れば、Appleはハードウェアとソフトウェアを統合してアプリをコントロールしているとも言えます」とコメント。
ハードウェアとソフトウェアを統合するという戦略は、Appleに大きな利益をもたらすだけでなくユーザーにとっても利益をもたらしました。
App StoreにはAppleが認可したアプリだけが登録されていることから、ユーザーは「アプリによってスマートフォンが壊されたり、ウイルスに感染したりすることはない」という安心を得ることができたとのこと。
また、「
App Storeが登場して間もない頃は、開発者にとっても
App Storeの存在は有益なものでした」とトンプソン氏は当時を振り返っています。開発者は
App Storeにアプリを登録することで、自分でウェブサイトを作るなどしてアプリを宣伝・配信する必要がなくなり、PCよりもスマートフォンのほうが市場が大きくなると予測されたことから利益を得やすくなりました。
App StoreのシステムはiTunesと同じ構造であったため、
App StoreもiTunesと同じ「支払処理が前払いのみ」という決済処理が採用されていました。iTunesでは0.99ドル(約100円)のコンテンツが購入された際のクレジットカード処理料金をカバーできる金額を徴収するため、すべての購入に対して30%の手数料が課せられていました。
App Storeにも同じ手数料が適用され、Appleがクレジットカード不要のiTunesカードなどによるアプリ内購入システムを導入した後も同じ手数料の割合が維持されています。
多くの開発者が
App Storeに対して感じていた不満は「持続可能なビジネス構築の難しさ」と「ユーザーとの関係性の欠如」だったとトンプソン氏は指摘。初期の
App Storeでは定期購入などのサブスクリプション方式を使用できず、アプリ内課金の無いアプリは定期的な収入を望めませんでした。また、開発者は
App Storeに投稿された苦情に直接答えられず、ユーザーに返金する手段もありませんでした。原因は
App Storeが取引のみを目的としたアプリであり、ユーザーとの関係性や収益向上のために作られたものではなかったためです。
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10年以上前から存在していた
App Storeの問題点が大きくなってきたことについて、トンプソン氏は「スティーブ・ジョブズも
App Storeの問題点を把握していました。しかしジョブズがCEOだった頃のAppleは巨大な企業ではなかったこともあり、
App Storeに対する開発者の不満は大きなものではなく、ユーザーからも支持を集めていました。
App Storeをめぐる問題の多くは、Appleが
App Storeが登場した2008年の頃よりもはるかに大きな企業になったことに起因するものです」と分析しています。
また、Amazonが「Kindleはすべてのプラットフォームで利用可能である」と宣伝した後、AppleはAmazonに対してアプリ内での本の販売を禁止したことも問題の1つとのこと。NetflixやSpotifyなど、アプリ内でコンテンツを購入するアプリに対してもAppleは販売を禁止しています。「Appleによるユーザー管理の徹底は誰の役にも立っていません。ユーザーはAppleのデバイスからNetflixやSpotifyの新たなコンテンツ購入ができないことに混乱し、満足度の低下につながります。さらには、ユーザーがアプリから離れてしまう可能性もあります」とトンプソン氏は主張しました。
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さらに、本当に損をしているのはAppleの30%という手数料が痛手になる、自社の宣伝だけではユーザーに認知してもらえないような小規模な開発者であるともトンプソン氏は主張。Appleによるアプリ内課金システムと長年維持されてきた手数料に不満を持つ開発者は多く、メール管理アプリ「HEY」を開発したBasecampはアプリ内課金システムを回避しようとしてAppleと対立しました。
App Storeを介さずに有料サービスを提供して削除されそうになっていたメールアプリが「抜け道の模索」を開始 - GIGAZINE
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「
App Storeは、少なくとも登場した当初は『どんなに小さな開発者でも、地球上のすべてのiPhoneに手を伸ばすことができる』というジョブズの約束に見合った素晴らしいサービスでした。残念なことに、2020年においては
App Storeでアプリを配信することはほとんどの小規模開発者にとって重荷となっています」とトンプソン氏はコメント。実際に「
App Storeのアプリ審査はユーザーの利益になっていない」と訴える開発者も現れています。
「
App Storeのアプリ審査はユーザーの利益になっていない」とティム・クックCEOに訴えるメールが話題に - GIGAZINE
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by YunHo LEE
App Storeでゲーム「
フォートナイト」を配信していたEpic Gamesもまた、Appleと対立している企業の1つです。Epic Gamesは「
フォートナイト」が規約違反で
App Storeから削除されたことを受け、Appleを相手に訴訟を起こしています。
「
フォートナイト」開発元のEpic GamesがAppleを提訴 - GIGAZINE
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2社の対立についてトンプソン氏は「Epic Gamesによる訴訟でAppleは失うものが多くなりそうですが、最もあり得る結果はAppleの勝利です。私が望む結果は、Appleが独自OSにおけるアプリのインストールをコントロールし続けることです。私はPCのオープン性を大切にしていますが、iPhoneは技術に詳しくない人にとって頼りになるデバイスでもあります」とコメントしています。
一方でトンプソン氏は「一部の製品や体験について、
App Store以外での購入を許可するべきです」とも意見しました。今後の予測についてトンプソン氏は「短期的には
App Storeの売上が減少する可能性もありますが、Appleは開発者を獲得するために、より良い製品を構築するようになるでしょう。結局のところ、アプリ内購入と30%の手数料を維持するという2つの面で、Appleの開発コストを圧迫する可能性のあるビジネスを閉め出すことは、誰にとっても利益を増やす以上のメリットが少なくなってしまいます」と語っています。