思いを素直に伝えれば、周りのことも幸せにできる。北村匠海が一歩前に進んだ瞬間

「僕も理央と同じように、自分の気持ちをなかなか人に話せませんでした」

咲坂伊緒のマンガを原作とする実写映画『思い、思われ、ふり、ふられ』。その登場人物で、親同士の再婚により、義理の姉となった朱里に言えない思いを抱える高校生・山本理央のパーソナリティが、演じる北村匠海に重なった。

多忙な役者業の傍らで、ダンスロックバンド・DISH//のフロントマンとしての顔も併せ持つ北村は、今年3月、アーティストたちの一発撮り歌唱を見せるYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で、人気シンガーソングライター・あいみょん作の『猫』を披露。心揺さぶる歌声で3,000万回以上の総再生回数を叩き出した。

一気に注目を集めた彼だが、インタビューでは、昔からずっと思いを人に伝えられない少年だったと明かす。しかし、新型コロナウイルスによる自粛期間を経て、そんな自分が変わりつつある。「思いは素直に伝えたほうがいい。それって、大事なことだと思います」。

“表現者”北村匠海は今、大きなターニングポイントを迎えているのかもしれない。

撮影/祭貴義道 取材・文/木口すず 制作/iD inc.

共演3作目の美波ちゃんは、わかり合える“戦友”です

映画『思い、思われ、ふり、ふられ』は浜辺美波さん、福本莉子さん、赤楚衛二さんなど同世代の方が多い現場だったかと思います。現場の雰囲気はいかがでしたか?
じつはシーン的に意外と4人が揃うことは少なくて、それぞれペアで撮影することが多かったです。そのなかでも、三木(孝浩)監督がとても温かい空気を作ってくださり、その温かさにみんなが包まれていた感じがしました。

神戸での撮影期間、僕はちょうど映画『さくら』の撮影も入っていたため、東京と行ったり来たりしてはいましたが、赤楚くんとラーメンを食べに行ったり、向こうで夜中にひとりランニングをしたりして、楽しく過ごした思い出があります。
福本さんが演じる市原由奈との掛け合いの場面では、福本さんが気持ちを作るまで、北村さんがしっかり寄り添っていたと伺いました。どんな言葉をかけられたのでしょう?
とくに僕から何か偉そうにアドバイスしたとかいうことはなくて、ただ普通に理央として横にいた、という感じです。

撮影の流れと、そのシーンのなかで自分としっかり向き合えるタイミングのふたつが合わないと、どうしてもなかなか思うように演じられないんですよね。それは僕自身、めちゃくちゃ経験してきたことでもあって。

でもうまく芝居が作れないのを自分のせいばかりにして抱え込んでしまうと、どんどん苦しくなっていくんです。だから僕は、理央としてただ隣にいるだけですけど、でもそのくらいならできるかなと思いました。
そのほかに印象に残っていることは?
(山本朱里役の浜辺)美波ちゃんと久しぶりの共演だったことかな。『キミスイ』(映画『君の膵臓をたべたい』、2017年)で共演したときとは打って変わって、本作の現場ではお互い気さくに話せるようになっていて、それが楽しかったです。
浜辺さんとは『キミスイ』、『HELLO WORLD』(2019年)、そして本作と、同世代でもとくに多く共演されていますよね。北村さんにとって、もはや“同志”のような感覚なのでしょうか?
“戦友”みたいな感覚ですね。『キミスイ』の初日舞台挨拶の話になりますが、そこでスタンディングオベーションをいただいたんですよ。「これはもう一度、舞台上に出よう!」ということになって、美波ちゃんとふたりで出て行って。

月川(翔)監督や小栗(旬)さんや、いろんな方々と作り上げた作品が、こんな大勢の方から、立ち上がって拍手喝采をいただける…あの光景を一緒に観られたのは本当に嬉しかったですし、今でも忘れられません。
北村さんから見た浜辺さんは、どんな方でしょう?
美波ちゃんのスゴいところは、常に飄々としているんですよね。芝居の外になると、“浜辺美波”としていつでも堂々としているというか。

それにこれは僕も同じですけど、子役から活動しているぶん、どこか達観しているところがあって、そういうところは似ているなと感じます。あと、どこか少し日常に疲れを感じながら生きているところも。

よく美波ちゃんから「匠海くん、きょうめっちゃ疲れてるね」と言われるんですよ。「そうなんだよ…美波ちゃんも、すごい眠そうだね?」と返したりします(笑)。そういうところで、どこかお互いわかり合っている気がします。

家族の“ほころび”と向き合って、当時の思いを打ち明けた

理央は自分の気持ちを心に秘めたまま、ひとりその苦しさを抱えている、という役どころでした。北村さんは彼のそうした部分に共感できましたか?
すごく共感できました。というのも、僕もずっと昔から自分の思いをなかなか人に伝えられないタイプで。むしろ隠すことで逃げていたこともありました。子どもの頃、親に怒られているときなんかも、最後には「何か言いなさい!」と言われるくらいで。友達に対してもそうです。

でも今は、やっぱり素直に伝えたほうがいいと思うようになりました。嫌なものは嫌だとか、これをやりたいですとか、苦しい、疲れた、楽しい…そんな単純な形容詞でさえも、言葉にするって大事だなと思うんです。
勇気がいることもありますが、人と関わるうえではたしかに大切なことですよね。
理央は好きという気持ちを伝えられないわけですが、結局伝えていないから、「朱里への思い」自体が始まってもいないじゃないですか? 始まっていないということは、つまり終わることさえできなくて。お互い気持ちを伝えていないから、何も始まらない。自分の気持ちが目の前でバウンドし続けて、ただ苦しいだけなんだなぁと思いました。

でも僕、それもすごいわかるんですよ。自分だけがどんどん苦しくなってきて、これが今度は「なんで気づいてくれないの?」になっていくんですよね。ただ、それってすごく理不尽で、エゴイズムじゃないかと考えたりしました。
そうならないためにも、自分の思いを素直に伝えるのは、とても大事なことだなと思います。それが自分はもちろん、結果的には周りのことも大切にできたり、幸せにする方法かなと。

『ふりふら』は、伝えられる思い、伝えられない思い…いろいろ複雑な感情がありながら、最終的には全員が一歩前に進む映画です。そこには、素直な気持ちの先にある、彼らの本当の姿みたいなところが描かれている気がします。

だから完成版を観たときに、改めて素敵な作品だなと感じることができました。…自分が出ているんですけど(笑)。
北村さんが自分の気持ちは伝えたほうがいい、と思うようになったきっかけは何だったのでしょう?
この自粛期間ですね。それこそ僕は20歳頃からずっと目の前のことに追われ続け、心の余白がない状態で生きてきて、あっという間に22歳になりました。

それが急に2ヶ月スケジュールの空きが生まれて、何もない毎日が続いたときに、「あの人、今どうしてるだろう?」「家族は元気かな?」「友達に連絡したいな」という気持ちが湧いてきたんです。

そこから、「今は離れているんだから、自分の気持ちを言わない限り、何も伝わらないじゃないか!」と。だからまだ少しずつですけど、以前よりも自分の気持ちを伝えるようになりました。
たとえば、どなたに思いを伝えられたのでしょう?
いちばん近いところでいうと、家族です。中学時代、あるネガティブな出来事が続いて、僕はそれを北村家のほころびだと思っているんですけど。昔は見ないように塞いでいたその穴を、この期間中、僕がわざわざほじくり返して話に挙げたんですよね。

でもそうすることで、家族関係ってやっぱりよくなるもので。みんなが暗黙の了解から口にしてこなかったことについて、立ち返って話し合いました。そのうちに、反抗期こそなかったものの、あの頃親と何もしゃべれずにいたことや、抱えていた苦しさを言い出せなかったこと…そういった当時の思いが出てきて。

それを打ち明けたあと、父親が最後にぼそっと「いい息子たちを持ったねぇ…」とこぼしたんです。僕と弟に向かって。それってスゴいことというか、まさに『ふりふら』にもあるようなシーンが起こって(笑)。
本当に本作のようですね!
家族の中でもいろいろあるじゃないですか? いちばん近くにいるからこそ、わからないこともありますし。それが言葉にすることでよくなるのも、この作品に通ずる部分があるなと感じました。
きっと、友達との関係でも同じことが言えますよね。
学生のみなさんは、なかなか友達に会えないと思いますが、やっぱり学生の時間って取り戻すことのできない、かけがえないものだと思うんです。

大学と高校では違う部分もあるかと思うのですが、たとえば高校生は制服を着て、理不尽にというか学年ごとにクラス替えがあったり、席替えも先生の独断で決められたり(笑)。やりたくない授業もあるし、でもそれも含めて楽しくて…。

この映画には、自粛期間の兼ね合いもあって今までとはだいぶ違う学生生活を送っているみなさんに向けた、残りの時間をもっともっと有意義に、そして素直に楽しく生きようというメッセージが込められています。ぜひご覧いただき、みなさんの今しかない青春をちゃんと謳歌してほしいです。

上手いか下手かじゃない。大事なのは届くかどうか

北村さんはDISH//のボーカルとしても活動されており、YouTubeチャンネルのTHE FIRST TAKEで公開された『猫』が大変な評判を呼びました。今年1月公開の映画『サヨナラまでの30分』でも歌声を披露されたりと、歌手としての北村さんにも注目している方が増えています。もともと歌はお得意だったのですか?
いやいやもう、全っ然! 苦手で…苦手すぎて(笑)。

中学2年生のときに、初めてDISH//のボーカルとして歌唱したとき、両親にも心の底から心配されたくらいです(笑)。

そもそも僕はセンターに立つタイプの人間じゃないので、「自分がボーカル…?」とも思っていましたし。それが次第に、歌が好きになっていって。もともと芝居が好きで役者の仕事をやっていたわけですけど、結局のところ自分は歌や芝居にかかわらず、表現すること自体が好きなんだと気づきました。
苦手な歌をどのように克服されたのでしょう?
やっぱり、好きになることだったんじゃないですかね。好きじゃなかったら練習しないし、そもそも歌わないですし。
では歌を好きになったのは、いつだったのでしょう?
何か大きなきっかけがあったわけじゃないんですよね。ただライブ終わりに、みんなで一緒の車に乗って帰るとき、その車内でも僕は歌っているんですよね。それで「僕、歌好きなんだ…!」って。

歌って、目の前にいる人に直接思いが届けられるじゃないですか? そこに映画とはまた違う快感があります。それがすごく好きなのかもしれないです。
それに気づいてからは苦手意識がなくなった、と。
そうですね。それにそもそも、上手い下手で見ていないというか。
というと?
これは芝居に関してもそうですが、上手いか下手かではなくて、届くか届かないかだと思っています。どんなに上手くても思いが届かないこともあるし、「ビブラート効かせたろ!」と技術で見せようとするのではなく、ちゃんとこの思いを届けたい!という心持ちのほうが大切で。

お芝居でも、たとえば台本に「泣く」と書いてあったときに、技術で泣くことはできますけど、そうじゃなくて本物の涙を流したいし、極論、涙が出なくても何かが届いてくれればいいかな、という気持ちで僕はやっています。もちろん、映像上で求められることもありますけどね。

たとえば、字にしても、いびつだけど感情豊かな人が書いた「ありがとう」の文字のほうが思いが届くというか。歌も同じだと思います。

DISH//の存在は、僕がこの世界にいる理由になっている

これまで歌についてかけられた言葉のなかで、とくに記憶に残っているものはありますか?
僕はDISH//のメンバーが大好きなんですが(笑)、そんなメンバーがライブ後に毎回、「お前は最高のボーカリストだよ!」って言ってくれるんですよ。それが僕の心の支えというか。

僕のいちばん近くでいつも見てくれているメンバーの言葉がずっと心に残っています。
北村さんにとって、DISH//とはどんな存在なのでしょう?
僕がこの世界にいる理由になっています。もう活動9年目になりますが、DISH//のみんなでけっこうな苦労も重ねて、四苦八苦しながらここまで来ました。そんなみんなと、もう一度いい景色を見たい、という思いがあります。

武道館を夢見てやってきて、高校2年生で初めてあの舞台に立ちました。ただそれは僕らの実力ではなく、“連れて行ってもらった”という感覚もあって。まだ高校生でしたし、スタッフさんが道筋をたてて僕らを引っ張っていってくれたから、そしてまだまだ未熟な僕らを応援し続けてくれるファンの皆さんのおかげで、武道館の景色が見られた、と思う。

でも今は、そこからさらに高みを目指して僕らで何かを掴み取りたい。『猫』でいただいた反響も大切にしたいですし、そういう奇跡を、またみんなで見たい。それが、僕がDISH//を続けている理由だと思います。
俳優としてますます多忙な日々を送る傍らで、グループ活動にも変わらず熱を注いでいらっしゃいます。どちらも続けるのはものすごくエネルギーのいることだと思うのですが、その原動力は一体何なのでしょう?
正直、両立するのは大変です。たぶん自分自身でも思っている以上に、ものスゴい日々のなかを僕は生きているかもしれなくて…。

それでも続ける原動力は、やっぱり好きなことだから、ですね。音楽が好きで映画も好きだからやっている。特別何か欲しいというわけではなく、本当に単純に好きだからですね。
最後に、そんな北村さんの今の夢を教えてください。
漠然としているんですけど、「幸せになりたい」です。物理的にどこかへ行くとか、何かを成し遂げる夢というよりかは、全部ひっくるめて心から幸せだと感じられる未来を夢見て、日々頑張っています。

そしてその夢のためには、自分のやりたいことだったり表現したいことに妥協しない。それが生きる意味、生きる意義にもなっています。『ふりふら』のように完成した映画を観て涙したり、DISH//でいい景色を見られたり…そういう幸せに向かって、自分自身を諦めない。それが今の僕の夢です。
北村匠海(きたむら・たくみ)
1997年11月3日生まれ。東京都出身。B型。ダンスロックバンド・DISH//のリーダーで、ボーカル&ギターを務める。2017年に『君の膵臓をたべたい』で映画初主演を飾り、第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作には、映画『十二人の死にたい子どもたち』、『影踏み』、『とんかつDJアゲ太郎』、ドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)、『グッドワイフ』(TBS系)、劇場アニメ『HELLO WORLD』など。今後も映画『さくら』、『東京リベンジャーズ』と主演作が複数控えている。

    作品情報

    映画『思い、思われ、ふり、ふられ』
    8月14日(金)全国ロードショー
    https://furifura-movie.jp/

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    応募方法
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    2020年7月31日(金)12:00〜8月6日(木)12:00
    当選者確定フロー
    • 当選者発表日/8月7日(金)
    • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
    • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月7日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月10日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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