豊かなクリエイティブをお金につなげるために。山本幸治が語る「戦略」と「野望」

今年で15周年を迎える深夜アニメ枠「ノイタミナ」のかつての名物プロデューサーであり、初代「編集長」としてアニメファンから親しまれてきた山本幸治。

山本は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『PSYCHO-PASS サイコパス』といった数々のヒット作を手がけたのち、2014年にフジテレビを退社。株式会社ツインエンジンを立ち上げて複数のスタジオを運営、さらにグループ化を押し進めるなどアニメ業界の風雲児っぷりは健在だ。

新型コロナウイルスの影響で多くの作品が公開延期となる中、最新作『泣きたい私は猫をかぶる』をいち早くNetflixでの配信へと切り替えたことでも話題となった。

独立当初から「スタジオブランディングビジネス」を掲げ、戦略なきスタジオ運営に物申していた山本は、現在のアニメビジネスをどう捉えているのか。ノイタミナ時代の仕事も振り返りつつ、激動するアニメ業界のあすを探っていく。

取材・文/岡本大介

配属先の上司と喧嘩になり、著作権部へ異動

2005年から始まった「ノイタミナ」の設立に携わった山本さんですが、もともとアニメがやりたくてフジテレビに入社したんですか?
昔からアニメは大好きだったんですけど、アニメだけをやりたいと思って入社したわけではないですね。だから最初はドラマの制作部門に配属されたんですけど、そこで当時の売れっ子プロデューサーとトラブってしまい、速攻で著作権部に異動になりました。島流しです(笑)。本来、著作権部は若手社員が行くところではないんですよ。
著作権部ではどんなお仕事をされていたんですか?
ドラマのビデオグラムやアニメグッズなど、コンテンツの二次利用に際しての版権処理です。さまざまな契約形態があって、コンテンツが生み出す利益はこんなふうに各所に分配されるんだとか、テレビ局のビジネススキームについていろいろと学ぶことができました。
そこから「ノイタミナ」にはどうやって?
アニメ好きだったこともあって主にアニメ関連の版権処理をしていたんですけど、そうするうちに自分でアニメの企画も立てるようになったんです。といっても、とくに持ち込む先はなかったんですけど(笑)。
でもその積極性が功を奏して「ノイタミナ」への参加につながったんですね?
当時のフジテレビにはそういう文化があったんです。格闘技イベントの「K-1」だって、もともとは極真空手をやっていた空手好きな社員が企画を立てたのが発端で、そこからあれだけの巨大ビジネスに発展しましたから。
当時のフジテレビのアニメ枠というと?
ちょうど『ONE PIECE』が夜の7時台から朝帯に移ることが決まったころで、そうなるとフジテレビにはゴールデン(19-22時)やプライム(19-23時)のアニメがなくなってしまうと。

そこで「今後のアニメ枠について何かいいアイデアはないか?」と、いろいろな部署から代表者が集まって会議をしていたんですが、「どうも著作権部にアニメ好きなヤツがいるらしい」と僕が呼ばれたんです。

「編集長」を名乗ったのは、ノイタミナを守るためだった

「ノイタミナ」枠の立ち上げに合わせて、山本さんも著作権部からアニメの部署に移ったんですか?
いえ、当時はアニメ専門の部署はなくて、それができたのは僕が退社するタイミングでした。ノイタミナの設立当初はみんなが兼業で、僕も「アニメの仕事は17時以降にやれ」と言われていたので、昼間は著作権部の仕事をして、夕方からノイタミナの企画を立てるという(笑)。
なかなかハードですね。
完全無給のボランティアでしたね。まあノイタミナが本格的に動き出してからはさすがに専業になりましたが、専門部署はありませんでした。最初の2年くらいは僕を含めて専任は3人くらいで、しかも僕以外のふたりは社外スタッフという環境でした。
山本さんはノイタミナの「編集長」という肩書きで知られていましたけど、これはそもそもアニメの部署がなかったことが原因だったんですか?
まさにそうなんですが、もうひとつ大きかったのは社内に対する牽制ですね。
「牽制」ですか?
テレビ局って春と秋の年2回の改編があるじゃないですか。その際、どの時間にどんな番組を流すのかを決めるのは、僕らではなく編成局の仕事なんですね。当然、ノイタミナの「枠」もまったく保証はされていないわけです。だから改編期のたびに編成部長にいろいろな理由をつけては存続をアピールするしかないんですね。さらに編成部長というのは2年か3年ごとに必ず変わって、そのたびに新部長が枠を潰しにかかってくるんです(笑)。
なぜですか?
たとえば月曜から金曜までの帯番組を作りたいと思ったときに、特定の時間帯にロックされた枠があると、できないじゃないですか。だから編成としてはいつ帯が入ってもいいように、できるだけ融通がきく状態にしておきたいわけです。

だけどアニメを作るのって、企画から放送まで最低でも2、3年はかかる。作っている途中に放送枠がなくなったら困るので、いつも「せめて3年後まで待ってください」とお願いしていました。
なるほど……。
ところが編成からすれば「どうして編成権のないお前がそんな先まで勝手に決めてるんだ」となるわけですよね。僕が「編集長」を名乗ったのは、そうすることでまるで僕が編成権を持っていて、ノイタミナは簡単には動かせない特別な枠だと思わせるためというか、そういう既成事実を作りたかったからなんです。もちろん実際には編成権は持っていないんですけど。

半年ごとに改編するテレビで、5年先のビジョンは描けない

ノイタミナの「編集長」を10年間勤めたのちにフジテレビを退社して独立されますが、その最大のきっかけは何だったんですか?
テレビ局という大きな組織の中でアニメを作っていると、どうしても5年先、10年先といったスパンの長いビジョンは描けないんです。先ほども言ったように、テレビは半年ごとに改編していくメディアですから、ノイタミナをどれだけブランディング化しても、3年後の枠を確保するだけでいっぱいいっぱいという状態でした。

でもアニメコンテンツの存在感を増していくにはどうしても5年、10年先を見据えた動きを取る必要があると感じていたんです。最初はそれをテレビ局でやろうとしていたんですが、実現の1歩手前まで進んでも、人事異動で一瞬にして消えていく。信頼していた人でも、立場や役職が変わった途端に「あの話はなしで」となる。10年やってみて、局内でやるのは不可能だと気づきました。
巨大組織ならではのジレンマですね。
これはフジテレビに限った話ではないんですが、テレビ局にとって「アニメ」はどこまでいっても主流にはなりえないんですよ。流行や時流を捉えて即座に乗っかるのがテレビの強みだし、いいところでもありますから、準備に時間のかかるアニメとは思想も力学も違いすぎて、相性が悪いんですよね。
しかし傍目で見ているぶんには、ノイタミナは「枠」のブランディングとしてかなり成功したように思えます。
一部のユーザーにとってでもそうであればよかったです。でもビジネスとして、マネタイズという観点からすると、結局従来のスキームから脱却することはできなかったんです。つまりは作品にコアなファンをつけて、DVDやBlu-rayの売上で利益を出すというルールから逃れられない。

最初から特定のファンを狙うほうが安全。たとえば萌えアニメとか。最低でも1万本はパッケージが売れないと制作費が回収できないですから。これまでアニメを観てこなかった一般層に届けたいというコンセプトを持ちつつも、つねにそういうジレンマを抱えながら走っていました。

ビデオグラムのマーケットは、ほぼ完全に崩壊

パッケージ販売を主体とした当時と比べると、この10年でアニメビジネスの仕組みも大きく変わりましたよね。
そうですね。ビデオグラムのマーケットはほぼ完全に崩壊していて、今は配信を中心に回っています。NetflixやAmazonプライム・ビデオといった大手配信であれば、深夜アニメの視聴者数と比べて軽く2、3桁は違いますよね。これまで秋葉原にいる20万人に向けて作っていたものが、一気に世界がターゲットになったようなものです。
山本さんがノイタミナ時代に抱えていたジレンマを考えると、これはいい変化なんですよね?
基本的にはそうです。面白いことに、日本のコアなアニメファンに向けて作った作品は、世界のどこでも一定層にはヒットするんですよ。これまでアニメという文化に触れてこなかった人たちが、配信であれば『スパイダーマン: スパイダーバース』(スパイダーマン初のアニメ作品)を観る感覚で日本のアニメに触れてくれて、結果的に好きになってくれる。

そこが開拓されたことはとても大きくて、ノイタミナ時代に試行錯誤していた経験がすごく役立っていますし、テレビ局ではなかなかできなかったことをツインエンジンとしてやれているので、結果的にはよかったなと感じています。
それを聞くと、テレビ局が深夜枠でアニメを放送するという必要性そのものが下がっていきそうですね。
そうですね。かなりドラスティックに変えない限り、テレビの枠の価値は落ちていく一方だとは思います。その風潮は僕がノイタミナにいたころからすでにありました。ただ、テレビというメディアが持つ強みというものも確実にあるので、もし自分に再び出番が回ってきたなら、テレビの魅力を最大限に活かした作品をもう一度やってみたいという気持ちもあります。
ツインエンジンは今もフジテレビと関係が深いですよね。そういった意見交換などもするんですか?
それはないです。ツインエンジンはもともとノイタミナのチームスタッフを引き連れる形で設立したので、それで一定の協力関係を約束したんです。でも退社して独立するということは、それがどういう意図であれ、古巣に対して弓を引いた格好にはなってしまう。

何より僕の影響力がいつまでも残るというのはノイタミナにとってもよくないと思うので、そこはしっかりと線引きしています。困っていたら助けるけど、そうでないなら関与しないというスタンスです。

フジテレビ時代に痛感した「ブランド」の大切さ

山本さんがツインエンジンを設立してから約6年が経ちました。近年の業界の変化をどう感じていますか?
それはやはりいい面と悪い面がありますね。僕はフジテレビ時代、ノイタミナという「枠」そのものをブランディングしようとしたんですけど、思うようにはできなかったんですね。もちろん「ノイタミナ作品だから観よう」と思ってくださる方は一定数いたけれど、結局のところ、「枠」のブランド化=品質保証にはならないんですよね。
ノイタミナ枠だから高クオリティであるとは必ずしも言い切れない。
そう。なぜならフィルムを作っているのはあくまでスタジオであり、そこにいるクリエーターたちだからです。一流と言われる大手スタジオに発注したとしても、1話分を丸々総グロスで下請けに丸投げすることも多々ありましたから。
テレビ局がそこまでの品質管理をできるわけではないんですね。
そういうことです。ただそうした丸投げ的な行為が横行したことで、そのスタジオの名前を冠していながらも低品質なフィルムが世に送り出されてしまい、結果的に信用を失ってしまうケースも出てきたんです。そこでようやくスタジオに大切なのはブランドなんだということが浸透していったので、今はそういうことはだいぶ減ってきましたね。
「スタジオのブランディング」は、ツインエンジンが当初から掲げていた理念ですね。
僕はノイタミナ時代の経験から、それがもっとも大切だということを痛感していましたから。たとえばウチのコロリドというスタジオは、一般的な認知度こそ低いですが、業界的にはかなり信頼していただけていて、おかげさまでとてもいい仕事を回してもらっています。スタジオのブランド化は設立以来変わらずに掲げている目標ですし、ようやく実を結んできているなと思いますね。
▲左から、スタジオコロリド制作の映画『BURN THE WITCH』(2020年秋公開)、『泣きたい私は猫をかぶる』(2020年6月18日よりNetflixにて全世界独占配信)。
▲左から、スタジオコロリド制作の『薄明の翼』(原作は『ポケットモンスター ソード・シールド』。2020年1月より公式YouTubeチャンネルで配信)、映画『ペンギン・ハイウェイ』(2018年8月公開)。
ツインエンジンは「スタジオコロリド」と「ジェノスタジオ」というふたつのメインスタジオを運営していますが、それぞれで目指すものが違うんですか?
「スタジオのブランド化」という意味ではどちらも同じなんですけど、設立の経緯がまったく違うため、抱えている課題や問題点も大きく異なります。

コロリドは若い人材を多く抱えていて、クオリティ重視の風土で育ったクリエーターが多いので、ごく自然にクリエイティブへのこだわりが強いんです。外部の人間が品質チェックをするまでもなく、ここは譲れないという基準があって。その意味ではブランディングに大切な素地はすでにできていますね。まあ逆に言えば、制作費が膨らんだりスケジュールが伸びがちな傾向はあるんですけど(笑)。
一方ジェノスタジオは、もともとはマングローブの経営破綻を受けて設立したスタジオです。
中にいるスタッフもマングローブの解散を引き受ける形で揃えているので、そこは今の時代にあった柔軟な組織へ変えていく必要があります。同時に新しい人材を育てないといけないので、今はまだテコ入れの段階です。自力をつけることが最優先なので、価値の高いブランドとして認知されるまでにはもう少し時間がかかりそうだなと思っています。
▲左から、ジェノスタジオ制作の『ゴールデンカムイ』(第3期は2020年10月より放送)、『pet』(2020年1〜3月放送)。

配信業者とスタジオが、直接交渉する時代に

業界内で、「スタジオのブランディング」がビジネスにつながってきているという実感はありますか?
ありますね。たとえばNetflixやAmazonなどが最初にアニメビジネスに参入した際は、まず「枠」から入ったんです。すぐに結果を出すには、ノイタミナやアニメイズム(毎日放送他にて放送されている深夜アニメの枠)といった「枠」を押さえれば、それがいちばん手っ取り早いですから。

ところが今では、Netflixが直接スタジオを押さえに来ている時代です。なんなら自分たちで原作権すら取りに行っているくらい。スタジオがNetflixなどと直接向き合う時代になってきているんですよ。これはすごい変化ですよね。
アニメ業界では長年アニメーターさんたちの労働環境や報酬が問題視されてきましたが、スタジオが直接契約を結ぶことで、改善されることもありそうですね。
そこは二極化していくと思います。
改善されるスタジオと、そうでないスタジオとの二極化ですか?
これは僕の仮説ですが、仮にスタジオに入るお金が倍近くに跳ね上がったとしても、スタジオ側がしっかりと戦略を持って対応できるかどうかはまた別問題で、じゃあ将来的にピクサーのようなブランドに育っていくかというと、そうではないと思うんですね。

現状ではまだまだ受け身のスタジオが多いです。理念や戦略を練る余裕がなく、ただ報酬がいいという理由だけでオーダー通りの仕事を受けていると、工場としての性質が強くなっていってしまう。そうなると次はもっと安くできる工場が出てくるだけで、本質的には何も変わらない。それどころかクリエイティブ産業として見た場合、全体の総合力が衰えていくことにすらなりかねないと思います。
現状、配信側や放映側のほうが強い権限を持っており、作り手はピックされるのを待っているだけ……。
それも徐々に変わっていくと思います。すでにテレビに関しては、その強みはかなり弱まっていますよね。映画はまだまだ興行側が強いですが、そこも次第に変化していくのかなと。
これに関連した話題でいうと、スタジオコロリドの最新作『泣きたい私は猫をかぶる』は、もともと6月5日に劇場公開予定だったものが、他作品に先駆けてNetflixでの全世界独占配信に切り替わりましたね。
新型コロナウイルスの影響はかなり長引くだろうと、かなり早い段階から劇場以外の公開方法は模索していたんです。映画会社がメインで出資している作品の場合は、どうあっても延期するしか選択肢がないと思うんですが、『泣きたい私は猫をかぶる』はフジテレビとツインエンジンが主体だったので、今回のように変更することができました。

スタジオの財産は、ピカピカに研ぎ澄ましたクリエイティブ

ツインエンジンとしては今後どんな戦略をもってスタジオを経営していきますか?
やっぱり逆張りです。コロリドはとくにそうですけど、才能のある若いクリエーターを集めて、自分たちが発信するものをしっかりと売っていきたいと思っています。コンテンツが世界中に届くという意味で、配信は素晴らしいプラットフォームだと思いますが、だからといって配信業者側のオーダー通りに作ることにしたくない。
あくまでスタジオ主体で発信力を高めていくんですね。
スタジオの財産はクリエーターですから、ピカピカに研ぎ澄ましたクリエイティブをつねに内部に持っておくことが大事だと思っています。そして、世界で勝負するための作品作りにはオリジナル作品が必須。これから個人クリエーターをフィーチャーしたショートフィルムを何本か作る予定ですが、それもその一環ですね。
配信事業が拡大したことで、これまで届け先のなかったショートフィルムがビジネスとして成り立つようになったということですか?
いえ、それはちょっと違いますね。配信側も結局のところは長期シリーズを求めているので、単発で作ったショート作品がそのままマネタイズできるとは思ってはいません。僕らが考えているのは、ショートを数本作り、SNSなどを使ってマーケティングをして、バズった1本に焦点を絞ったうえで、従来よりも予算をかけてシリーズ化していくという戦略です。
なるほど。以前山本さんは、大手のアニメ制作会社に対抗するためには1クールに放送される自社アニメの本数を増やしていくことが必須だとおっしゃっていましたが、その考えは変わらないですか?
依然として1クールごとに何がしかのシリーズは出していくべきだとは思っています。スタッフの士気にも関わりますし、業界内でのポジションという意味でもそうです。勢いのあるスタジオはそれなりの本数を作っているという印象がありますから。

でも単純に多くのシリーズを同時に走らせると、どうしてもクオリティを保てないところが出てきてしまうんですよ。それなら作品数は変えず、いくつかのものはサイズを小さくして、そのぶん、こだわりやディテールを追求してクオリティ面を追い込みたい。

最初から最後までいっさい風が吹かないコンテンツも多い中、クリエーターの個性で勝負する僕らがヒットの確率を上げていくためには、そうした取捨選択が必要なんですよ。

日本の萌えアニメ文化を世界基準に押し広げたい

現時点で山本さんが目指す理想的なスタジオ、あるいは理想的なアニメ産業というのはどんなものですか?
対外的なところで言えば、スタジオに関しては若手のクリエーターがどんどん集まって、たとえ失敗したとしても挑戦を続けられるような場を目指しています。そもそも失敗というのは次の挑戦を生み出す原動力になりますから、その姿勢を保っている限り、人は集まり続けると思っています。

また個人的な野望は、日本のコアなアニメを世界基準に押し広げることです。
それはどういうことですか?
日本ではビデオグラム販売全盛の時代に百花繚乱の萌えアニメ文化が生まれて、それによって一定数のコアなお客さんを作り上げてきた実績がありますよね。僕はこれは素晴らしい産物だと思っているんです。

ただこの文化はなかなか世界基準にはなっていないですよね。言い方は悪いですが、とくに海外では幼児ポルノ周辺への懸念が強く、萌えアニメが一般化しにくいのが現状です。萌えの感覚を世界中に押し広げられたかもしれない唯一の存在が(スタジオ)ジブリだったと思うんですが、いかんせん当時はまだ配信という手段がなかったですからね。
欧米の価値観に合致したものだけを提供するのではなく、独自の文化や価値観を伝搬させるというのも、日本アニメの大きな課題なんですね。
そうです。もちろん今でも日本アニメのファンは世界中にいますけど、それはあくまで一部の、いわゆる世界共通のオタクたちですからね。そこを脱却するためには、やはりスタジオのブランド力を高めたうえで、自分たちで世界へ発信していくしかないと思うんです。
山本さんはノイタミナ時代から「アニメ業界の風雲児」という印象が強いです。これから先、山本さんがチャレンジしていきたいことは何でしょうか?
先ほど言ったことの繰り返しになりますが、豊かなクリエイティブがちゃんとお金につながること、そしてクリエーターが誇りを持ってモノづくりに励める体制をしっかりと作っていきたいというのがいちばんですね。

今の配信業者のやり方を否定するわけではないですが、たとえば外部からのオーダーに対して十分な議論もせず、コミュニケーション不足のまま制作して失敗したとしたら、失敗から何も学べない環境に陥ってしまう。それがもっとも怖いことだと思います。

ウチよりももっと規模の大きい老舗スタジオであればそういうやり方を取り入れることのメリットもあるかもしれませんが、僕らはポッと出の新参者ですから、今後もいかにスタジオの存在感を増していくかということに注力していきたいと思っています。
山本幸治(やまもと・こうじ)
1975年4月26日生まれ。愛知県出身。フジテレビ入社後、同局の深夜アニメ枠『ノイタミナ』設立に関わり、以後10年間にわたってプロデューサーを務める。2014年にフジテレビを退社し、コンテンツ企画会社である「ツインエンジン」を設立。自らジェノスタジオを設立し、スタジオコロリド、Lay-duceなどのスタジオをグループ化している。

作品情報

『泣きたい私は猫をかぶる』
6月18日(木)より、Netflixにて全世界独占配信
https://nakineko-movie.com/

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