30年前に
ペプシコーラで知られる飲料企業大手の
ペプシコが本格的に
フィリピンへ進出した際、瓶のキャップへのミスプリントがきっかけで、死者5人・負傷者数十人を出す大
暴動が発生したことがあります。なぜそんな大
暴動に発展してしまったのか、ライターのショーン・カーナン氏が解説しています。
Pepsi’s $32 Billion Typo Caused Deadly Riots - Better Marketing - Medium
https://medium.com/better-marketing/pepsis-40-billion-typo-caused-deadly-riots-3d671295d1bd
ペプシコは1992年に、6500万人(1992年当時)もの人口を抱えた
フィリピンの清涼飲料市場に参入しました。世界で12番目に大きいといわれる
フィリピンの清涼飲料市場のシェアは、
ペプシコの長年にわたるライバル企業であるコカ・コーラが多くを占めていました。
当時の
フィリピン国民の多くは経済的に困窮しており、数千万人が低賃金で農業などの肉体労働に従事していました。そんな
フィリピンの清涼飲料市場のシェアを掌握するため、
ペプシコは1等2口・100万
フィリピンペソ(4万ドル=約480万円、以下当時のレート換算)、合計500万
フィリピンペソ(200万ドル=約2億4000万円)の懸賞キャンペーン「Pepsi Number Fever」を展開しました。当時の
フィリピンで一日の法定最低賃金は118ペソ(約570円)で、100万ペソは豪邸を1軒購入できるほどの大金だったそうです。
当時
フィリピンでテレビ放映されたキャンペーン映像が以下。
Pepsi Number Fever Fiasco 349 - YouTube
この懸賞キャンペーンは、
ペプシコーラやマウンテンデューなどの瓶のキャップ裏に3桁の番号がプリントされており、当たりの番号と同じであれば賞金がもらえるというもの。3桁の番号はキャンペーン開始前にあらかじめ当たりが決められており、番号ごとに製造される本数が異なるという仕組みになっていました。
もともと1等の当たり番号である「349」がキャップに印刷された瓶は、特定の工場で2本だけ特別に製造される予定でした。しかし、
ペプシコーラの生産工場で使われているコンピューターの不具合により、「349」とミスプリントされた瓶が80万本も製造されてしまったとのこと。このミスプリントは誰にも気づかれず、1等当選の瓶80万本が
フィリピンに送られてしまいました。
この懸賞キャンペーン自体は大成功を収め、
フィリピンの清涼飲料市場における
ペプシコのシェアはわずか2カ月で4%から24.9%まで増加したとのこと。しかし、懸賞キャンペーンの当たり番号をテレビで発表したところ、当然ながら大量の購入者が「1等が当たった!」と
ペプシコに殺到することになり、ようやくミスプリントが発覚。
もちろん
ペプシコは殺到した人全員に4万ドルを支払うことは不可能でしたが、まったくお金を支払わずに帰すことも無理だと判断し、「1等を引き当てた人全員に500ペソ(約2400円)を支払う」と述べました。この時点で当初のキャンペーン予算200万ドルから、総額870万ドル(約10億円)にまで膨れ上がりました。
しかし、購入者はこれに納得せず、マニラ中の政府の建物と
ペプシのマニラ支社前で抗議活動を開始。当時のニュース映像には、集まった抗議者がデモを起こしている様子が映っています。
Pepsi Number Fever News Clips - YouTube
抗議活動は日に日に過激さを増し、ついには本格的な
暴動に発展。
ペプシコの運搬用トラック30台以上が火をつけられたり、手りゅう弾で爆破されたりしました。
さらにこの
暴動を収めるべく出動した警官隊と抗議者が衝突。警察は催涙ガス弾を、抗議者は岩や手りゅう弾を投げ合うという状況にエスカレートしました。この衝突で5人が死亡、数十人が負傷したそうです。なお死者の中には、トラックに当たって跳ね返った手りゅう弾の爆発に巻き込まれて亡くなった親子もいたとのこと。
暴動は1日がかりで鎮圧されましたが、その後の
ペプシコは裁判の対応に追われることとなりました。
ペプシコに賞金の支払いを要求したのは48万6179人で、そのうち2万2000人が「
ペプシコの懸賞キャンペーンは詐欺である」と主張。
ペプシコが起こされた民事訴訟は689件、刑事訴訟は5200件にのぼるといわれています。
株価の暴落を含めた
ペプシコの最終的な合計損失は2000万ドル(約24億円)を超えたとのこと。ただし、
フィリピンの商取引裁判所は、
ペプシコのミスは悪意によるものではなく、罪を犯したとはみなせないと判示。2006年には最高裁判所が「
ペプシコは懸賞の勝者に賞金全額を支払う責任はない」と判決を下しています。