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では、なぜ清武の挑戦は半年で終わってしまったのか? 清武のスペインスタートは、格別だった。リーガ開幕戦、本拠地サンチェス・ピスファンにエスパニョールを迎えて先発出場。6−4というド派手な勝利に、1得点を決めて花を添えた。大久保嘉人(東京ヴェルディ)と同じく、リーガデビューと同時の初ゴールだった。 第2節のビジャレアル戦、代表戦を挟んで第4節のエイバル戦でも先発。順調な始まりだ。「清武は、左右のサイドハーフ、トップ下、攻撃的なMFのポジションはどこでもできる。ドリブルしながら、壁パスを使ってスペースを作る、入る動きが秀逸。ボール技術は図抜けて高いが、エゴイストではない」 長年、日本代表の戦いを分析してきた元レアル・ソシエダ強化部長のミケル・エチャリもスカウティングで賞賛していたほど、清武のポテンシャルは申し分なかった。 しかし、ある選手の移籍を境に状況は一変した。移籍期限ぎりぎりで新入団した元フランス代表MFサミル・ナスリ(アンデルレヒト)が、第5節以降はトップ下のポジションをつかんだ。
これで、戦術システムも4−2−3−1で固定されることが多くなった。サイドの選手としては、逆足で突破力に優れ、機動力のある選手が序列を上げ、中盤の底はフィジカル的に大きく強い選手のポジションになったのだ。 万能性を買われていた清武だが、適性のあるポジションが消えた。トップ下のナスリとの争いは、アーセナルなどで実績を積んできた名手を前に、後塵を拝した。ナスリの前半戦の出来が目覚ましかったことも、向かい風になった(実はシーズン後半、完全に失速するのだが)。 清武はサイドアタッカーとしてはスピードやパワーを武器とせず、ボランチとしては屈強さや高さが足りなかった。第5節以降、年末までのリーグ戦出場はたった1試合。チャンピオンズリーグではディナモ・ザグレブ戦で残り数分のみの出場。スペイン国王杯はフォルメンテーラ戦に出場したが、レアル・マドリード戦はベンチで過ごし、敗退した。 当時のセビージャは、名選手のコレクションのようなチームだった。
慧眼と言われたモンチSD(スポーツディレクター)が、最高の素材を集めていた。結果、ブラジル代表で10番をつけたことのあるガンソ(フルミネンセ)でさえ、試合出場がままならなかった。外国人枠を使う清武は、放出候補に入らざるを得なかったのである。 事実、アルゼンチン人MFワルテル・モントーヤ(クルス・アスル)の獲得と入れ替わりで退団することになった。2017年2月、清武は呆気なくセレッソ大阪へ完全移籍している。 アンダルシアという地域も関係しているかもしれない。 アンダルシア人は、陽気であざとく、安定より刹那的な生き方を美徳とする。フラメンコや闘牛など、日本人にとってのステレオタイプなスペインは、アンダルシアにある。一方で失業率は22%、若者の失業率は5割近い。よくも悪くも、”お気楽な土地柄”と言える(その分、バルセロナを中心にしたカタルーニャが経済的な負担を強いられていたことが、近年の独立運動を激化させる一因になった)。 ここでは一般的な日本人の勤勉さや真面目さのようなものは、あまり評価されない。
2014−15シーズン、アンダルシアのコルドバに入団したハーフナー・マイク(ヴァンンフォーレ甲府)は肌が合わず、わずか半年で契約を解除されている。5試合出場0得点。チームに適応することはできなかった。 エイバルでは活躍を遂げた乾も、アンダルシアのベティスでは散々な結果に終わっている。また、マジョルカの家長昭博(川崎フロンターレ)も、アンダルシア人監督ホアキン・カパロスからは冷遇を受けた。2019年にいったんマラガに入団した岡崎慎司(ウエスカ)は、クラブのずさんな経営により、登録さえまかりならなかった。 観光地として魅力を放つアンダルシアだが、依然として日本人選手の鬼門だ。 アンダルシアのスペイン語は、同じスペイン人でも聞き返すほど、独特の強い訛りがある。コミュニケーションは簡単ではない。語学習得レベルの留学でも、初心者には推奨できない土地だ。 余談だが、”なでしこ”の田中陽子(ウエルバ)、後藤三知(コルドバ)など、日本人の女子選手はアンダルシアで奮闘している。(つづく)