今こそ『7SEEDS』を語り尽くそう――漫画家・田村由美×声優・佐々木望、初対談

漫画家・田村由美の描く作品のスケールは巨大だ。

未来の日本で、圧政を倒すために立ち上がった少女の戦記である『BASARA』。隕石落下後の荒廃した世界に放り出された若者たちの、生き様と人間ドラマを描いた『7SEEDS』。

1枚の紙の上に、誰も見たことのない世界と、過酷な運命を背負った人間が立ち上がる。想像力と技術から編み出される世界は驚異で、読む人の心を激しく揺さぶる。

その田村由美が、尊敬してやまない声優がいる。

佐々木望。映画『AKIRA』の鉄雄、『幽☆遊☆白書』の浦飯幽助など、あまたの伝説的な作品での印象深い演技で知られている。

多感な少年の声から冷徹なヒールまで多彩に演じる佐々木は、このたびNetflixでアニメ化された『7SEEDS』にて、新巻鷹弘を演じている。

プライベートでも長らく交流を続けている田村と佐々木は、『7SEEDS』という作品をどう創造し、どう演じ、何を世に送り出したのか。デビューから30年以上、創作と演技の分野でフロンティアを走り続けているふたりの初対談が実現した。

取材・文/的場容子

田村作品を初めて演じたのは『BASARA』のタタラだった

初めておふたりが出会ったのは?
田村 1991年の春に、友達の漫画家さんたちと一緒にかなり大きな原画展を開催した際、佐々木さんがほかの漫画家さんのゲストとしていらしていたんです。それが初めてでしたよね。
佐々木 そうですね。原画展の会場で流すナレーションもさせていただいたんです。
すごく豪華な原画展ですね。
田村 そうなんです。まさかお願いできるなんて。すでに佐々木さんは超絶人気な方だったので、その場では大変緊張してご挨拶と握手をさせていただきました。その頃はまだ自分の作品を音声や映像にしていただくという経験はなかったのですが、いつか何かの役をお願いできたらなあとこっそり思いました。

そうしたら、『BASARA』のドラマCDで、主人公・更紗(さらさ)の兄であるタタラの役をやっていただける機会がきたんです。タタラは本編では登場してすぐに亡くなってしまうんですが、彼が本当は何を思って何を隠して生きて死んでいったのかという裏側のストーリーを描きたくて、自分で脚本にしたんです。『TATARA』という1枚のドラマCDにしていただきました(1994年)。このときは「佐々木さんがタタラをやってくださるのなら脚本を書きます」みたいな感じでお願いした気がする…(笑)、受けていただけて本当に嬉しかったです。
佐々木 こちらこそありがとうございました。タタラの内面の葛藤や本当の気持ちがたっぷり描かれた感動的な脚本で、更紗のそばで彼はこんなことを考えていたのかと感じ入りながら演じていました。自分でもとても手応えがあったドラマでした。その後、『BASARA』がアニメになったとき(『LEGEND OF BASARA』)は浅葱(あさぎ)役をいただきましたが、私が初めて『BASARA』で演じたのは、じつはタタラだったということなんです。
田村 そうなんです。そのドラマCDはもう手に入らないのかなあ、配信とかできないのかな? できるなら皆さんに聴いていただきたく思います。佐々木さんの、そこだけにしか存在しないタタラはそれはもうものすっ……ごくよかったです。そして、アニメの浅葱役も最高に素晴らしかった。タタラと浅葱が同じタイプだとは思わないんですが、それぞれに外向きと内面が違うという葛藤があるうえ、内面がじつは激しいというキャラなので、そこをがっつり表現して演じてくださいました。

ずっと自作のキャラを佐々木さんに演じてほしかった

田村先生の作品との関わりで言うと、佐々木さんは声優として以外にも、『7SEEDS』では作中のセリフの英語の翻訳協力、最新作『ミステリという勿れ』では広島弁の監修をされています。
佐々木 そうですね、広島弁も監修というか翻訳に近いですかね。田村さんに標準語のセリフと状況説明みたいなものを送っていただいて、それを自分だったら広島弁でこういうだろうというセリフに訳すという。英語のほかにスペイン語の翻訳もありましたよね。
田村 スペイン語は『イロメン』ですね。英語もスペイン語も編集さん経由でどなたか専門の方にお願いしようと思うんですが、適任者がいないと言われて、お知り合いで探してくださいみたいな言われ方されるんです…ひどい。じゃあ両言語が堪能な佐々木さんにお願いしようとなったんです(笑)。広島弁も速攻でお願いしました。ほんとにいつもありがとうございます!
佐々木 いえ全然堪能ではないんですよー! 英語もスペイン語もただの学習者なんです。セリフの翻訳作業は楽しいんですけどね。でも、けっこう田村さんはほいほいこちらに投げてこられる(笑)。
田村 だって誰よりも頼りになる(笑)。最初にお会いしてから30年くらい経ちましたが、佐々木さんにはいろいろとお世話になっています。もともと共通の友達も多いですし、ライブにご招待いただいたりすることも何度もありました。
佐々木 私のほうも、仕事関係でもたくさんご協力いただいていますし、公私ともに長年お世話になっています。
そういえば2017年に、よしながふみさんの漫画『きのう何食べた?』が、佐々木さんの企画で朗読ライブとして舞台化された際、脚本を田村さんが担当されましたよね。
田村 はい、とても貴重な経験をさせていただきました。演出などにもけっこう関わらせてもらったし、撮影にも同行させてもらって、とにかく楽しかったです。プロデューサーでもある佐々木さんは企画、制作、演出、監督、もちろん出演と八面六臂のご活躍をされたんですよ。
佐々木 脚本は田村さんにぜひ、と思っていて、お願いしたんです。私も脚本には少し関わって、何度もやり取りを重ねながら書き上げていただきました。本当に楽しくて面白い、素晴らしい脚本でした。公演自体も大好評で、お客さまにも関係者の方々にも「最高に良かった。面白かった」と言っていただけて。私は初めて企画とプロデュースをさせていただいたんですが、よしながさんの原作の面白さはもちろんのこと、田村さんの脚本とアイディアがあっての大成功だったと思います。
田村 とんでもないです。原作をいかに大切にしてそのまま生かすか、重要なセリフを落とさないようにするか、ということを常に肝に銘じておりましたが、それはアニメ化をしてくださるスタッフの皆さんと同じ悩み、テーマだったのかなと思ったりします。

それにしても佐々木さんの仕事への取り組み方は、そばで見てると震えが来るほどでした。とことんまで考えて直してアイディアを出して工夫して突き詰めていかれるんです。よりよいものをお客様にお観せしたいという心意気を強く感じました。同時にお客様への心配りも忘れないんです。自分はすごく視野が狭い人間なので、佐々木さんの俯瞰でものが見られる力には感激します。
佐々木 こちらこそ、ストーリーの描き手として卓越した力量をお持ちのプロである田村さんと一緒にひとつの作品に取り組むことができたのはとても光栄な経験でした。本番当日以外は、自分は演技者でなく制作者でしたので、田村さんとは同じ作り手側の視点でディスカッションができて、ものすごく勉強になりました。
田村先生が佐々木さんを声優として意識するきっかけになった作品は?
田村 すごい声優さんでとんでもない人気ということは見聞きしていたんです。映画『AKIRA』(鉄雄役)はもちろん見ていたし、OVAの『アーシアン』(ちはや役)とか『源氏』(江端克己/源氏役)、『幽遊白書』(浦飯幽助役)。その他いろんなところで。

佐々木さんは(デビューは1986年、『AKIRA』は1988年公開)、本当に最初っからうまいんです! 自然なんです。どうしてなんだろう。『ビバリーヒルズ青春白書』(デビッド・シルバー)もすごく好きです。新作『ビバリーヒルズ再会白書』(huluで配信・3月21日深夜にWOWOWプライムで一挙放送)でも佐々木さんがデビッドを続投されているので、すごく嬉しいです。

ただ……、佐々木さんがすごいことはわかっているものの、自分の作品のキャラにあんまりいないタイプの声だとも思っていました。主役クラスのキャラにいないなあと、残念に思っていました。なので、うまくはまるキャラができたらお願いしたいと思ってたんです。
佐々木 ありがとうございます! だけど、アニメや吹替で、声自体はともかくとして、声優の存在をそこまで意識してご覧になっていらっしゃるものなんですか?
田村 いやいやいや、私のように子どもの頃からアニメにどっぷりはまっていた人間には、声優さんの存在ってものすごく大きいんです。思い出のなかに鮮やかに刻まれてますもん。どの声優さんがどの役をやっていて、この役とあの役は同じ声優さんだ、とかもいつも意識していました。

大人になってからはあんまりアニメを見なくなっていたんですが、だんだんと自分の作品をアニメやドラマCDにしていただける機会が出てくるなかで、「この役は誰にお願いすべきだろう?」と考えるようになりました。メディア化が決まっていなくても知らず知らず意識していたり、読者の方から「あのキャラはこの声優さんが合います!」とご推薦いただくこともよくありました。それが人によって全然違ってて思わぬキャスティングだったりするのが面白かったです。それぞれにご自身のイメージで読んでくださってるんだなあと思います。
佐々木 作者がそもそも想像するキャラクターのイメージと、読者が持つイメージとが異なるわけですね。なるほど、それは面白いですね。
田村 佐々木さんにはいつも何かあればお願いしたいと思っていたので『BASARA』に続いて、『7SEEDS』で新巻を演じていただけて、すごく嬉しいんです。

ナツ同様、この世界でどうすればいいかわからなかった

『7SEEDS』は『別冊少女コミック』(小学館)2001年11月号より連載がスタートし、その後『月刊flowers』に移籍し、2017年7月発売の同誌にて完結。16年にわたる連載で、コミックスは全35巻(+外伝が1巻)と、田村先生の作品史上いちばんの長期連載となりました。完結したときはどんな心境でしたか?
田村 多少ホッとはしました。連載の終わりって、物理的な意味でページ調整が難しいんです。編集さんに「完結まであと何回で、何ページ必要ですか?」と言われて、自分でもはっきりわからない段階でも、早めに決めないといけないんですね。

でも最終回は『flowers』の巻頭カラー100ページで終わらせていただいたんです。ちゃんとラストまで大きく扱っていただいたのでそれはとても感謝しています。嬉しかったです。ただ、最後100ページできっちり終わって、かつ、コミックスもちょうどキリよく終わるための内容の調整がすごく難しかったです。たいていページが足りなくなるんですよ。
物理的な繰り合わせに集中しないといけなかったんですね。
田村 そうなんです。感情的な問題じゃなくて。それに、完結後に読み切りの番外編となる『7SEEDS 外伝』を描くことが決まっていたので、まだ完全には終わっていないという状況と、『flowers』2017年1月号から『ミステリと言う勿れ』が始まってもいたので、連載が完結したからといって抜け殻になるとかはまったくなかったです(笑)。ただやはり長くつきあったキャラたちをもう描かなくなるんだなと思うことは、不思議な気がするし寂しかったりしました。もう明日から彼らのことを考えなくなるんだな、って。でもアニメ化のおかげでまた彼らが近くにいる感じがしてます。
『ミステリと言う勿れ』のスタートは『7SEEDS』完結よりも先だったんですね。2作品の終わりと始まりが重なっているのは、さぞ大変なのではと……。
田村 いえそれが『ミステリと言う勿れ』はまだ読み切り扱いで、全然別の新連載を始める予定だったんです。なので当時はきっといろんなことを考えていましたね。でも、そうはいっても『7SEEDS』が無事完結できてホッとしました。始まったときは、もうどこへ行くかわからないと思っていたし、途中も、どうしていいかわからないことも多々あったので。

『BASARA』は、主人公の更紗が兄のタタラや村の敵(かたき)である赤の王や国王を倒し、国を変えるという、目的がはっきりした話なので、そこに向かっていけばよかったんです。だけど、『7SEEDS』は目的がはっきりない、「ただ、生きる話」なので、描いていても「どうしたらいいんだ!?」って何度も途方に暮れて(笑)。
▲【夏のBチーム】
岩清水ナツ(CV:東山奈央)、青田嵐(CV:福山潤)、麻井蟬丸(CV:小西克幸)、早乙女牡丹(CV:沢海陽子)、天道まつり(CV:阿澄佳奈)、守宮ちまき(CV:石田彰)、草刈螢(CV:悠木碧)、百舌(CV:井上和彦)
【夏のAチーム】
安居(CV:小野賢章)、涼(CV:櫻井孝宏)、小瑠璃(CV:千菅春香)、あゆ(CV:嶋村侑)、鷭(CV:寺島拓篤)、源五郎(CV:佐藤拓也)、紅子(CV:皆川純子)、卯浪(CV:菅原正志)
▲【春のチーム】
末黒野花(CV:日笠陽子)、雪間ハル(CV:野島裕史)、角又万作(CV:置鮎龍太郎)、新草ひばり(CV:喜多村英梨)、鯛網ちさ(CV:能登麻美子)、野火桃太郎(CV:広橋涼)、甘茶藤子(CV:伊藤静)、柳踏青(CV:江川央生)
【冬のチーム】
新巻鷹弘(CV:佐々木望)、鮫島吹雪(CV:檜山修之)、神楽坂美鶴(CV:久川綾)
【秋のチーム】
猪垣蘭(CV:浅野まゆみ)、稲架秋ヲ(CV:三宅健太)、鹿野くるみ(CV:加隈亜衣)、荻原流星(CV:石川界人)、梨本茜(CV:小松未可子)、八巻朔也(CV:阪口大助)、刈田葉月(CV:星野貴紀)、十六夜良夜(CV:津田健次郎)
描いている田村先生も途方に暮れることもあったんですね。意外です。
田村 いやしょっちゅうあります。それでもなんとか最後は、みんな前向きに、希望を持って終われるところまでいけたかなと思うのでよかったです。でも安居(あんご)を好きでいてくださる方のなかには、「安居は最後まで許されないのか?」と、ラストに疑問を感じておられる方もいらっしゃいました。そこは自分でもかなり悩んだ部分でもあります。

でもこの件は簡単には済ませられない。まだ「意見が違ったから殺し合おうとした」のほうが頭で許せる可能性があったりする。お話のまとめとしては和解して終わるほうが綺麗かもしれないですが、そうでなくてもいいんじゃないかとも思って。彼らはいろいろ抱えたまま、まだ生きていく、これから大人になっていく、その余地があっていいんじゃないかと。

安居は頑張ると思います。ずっと考え続けると思います。いつか誰かに会って愛し愛されることがある…かもしれない。そのときに心底後悔するかもしれない。それらはみんなにあることです。新巻にもです。『BASARA』のときもそうでしたが、お話の終わりがキャラの人生の終わりではないと考えるので。
読む側からすると、『7SEEDS』はあらかじめ田村先生がすごく緻密な地図を作っていて、それをもとに描かれた作品だという印象を受けていたのですが、そうではなかったのですね。
田村 最初は「新連載で何か始めて」と当時の編集さんに言われて、正直、準備ができてない状態で始めたんですね。細かいことは何も決まっていなかったんですよ、本当に(笑)。いや笑いごとじゃない。

「何かネタはないの?」と言われて、「どこかに流れ着くけど遭難ではない、みたいなイントロだったら……」って言ったら「じゃあそれで!」となって。「いや、その先がなんにも決まってないんですけど」「いいからとにかく始めて」となりました(笑)。ほんとに笑いごとじゃないんですけど。
人気作家さんのつらいところですね。
田村 いえ新人さん以外には誰にでもそんな感じかも。『BASARA』は事前にまだ少し時間をいただけたんですが…、そんなわけで『7SEEDS』の連載が始まりました。だから、最初の頃は不安だらけでじたばたしてました。完全に手探り状態です。しかも今回は主人公をナツというおとなしい子にしたので、なかなか動けないし。これはどうしたらいいのかと。
当時の担当さんからも、「主人公が何もしないんですけど……」って言われたり(笑)。たしかにそうなんですが、内向的な女の子がこんなところに連れていかれて、そうそうパキパキ動けないですよね。そんな状況で、とにかくお話を動かそうとして、別のチームの話に移ることにしました。
「ここからどうすればいいの?」というのが、知らない世界にいきなり放り込まれたナツの状況とシンクロしますね。
田村 そうです。自分もどうしよう、キャラもどうしようという状況で。かといって、サバイバルのハウツーものを描きたいわけではないんです。

最初に考えていたのは、ナツがいる夏Bチームが主体で、彼らの視点だけで動いていって、いろんな人に会う、という流れでした。だけど、どうやってもうまく動かせそうにない。 ならばと春チームに飛んでみたけど、またそこでも悩んだり。でも、もしかしたらこうやってチームを変えて視点を移動させてもいくのもありなのか、と、思えてきたんです。
なるほど。
田村 もともと、新巻が登場する冬のチームの話は読み切りにして、本編とは別に描こうと思っていたんです。だけど、視点を変えていけるのなら、冬チームの話をぽんと本編に持ってくることができるなと思い、やってみました。この視点の移動を読者の皆さんがすごく自然に受け止めて読んでくださって、そこは本当にありがたく思いました。

新巻が登場するのは4巻からですが、ここは描いていてすごく楽しかったです。めちゃくちゃひどい目にあうチームではありますが、ここが好きだと言ってくださる方や、新巻を愛してくださる方は、とても多いです。だけど正直、夏Aチーム(以下、夏A)が出てくる以前の6巻あたりまでは、この話は難しくて自分には無理だ、早く終わるべきではないかとも考えていました。

描くのが楽しくてたまらなかった、夏Aの過去編

描き続けてくださってよかったです。ということは、夏Aの話を描き始めたことで、状況が変わったんですね。
田村 そうです、夏Aの話は考えてるときも描いてるときも、ものすごく充実してた気がします。楽しかったです。おそらく画面にもあらわれてると思います。ただ、彼らが未来、つまり隕石衝突後の世界に来たときにどうするか、他のチームと会ったらどうなるか、を考えるのはまた難しかったです。こんな感じで、どこのくだりも頭を抱えながら、ひとつずつ目の前の「ここはどうしたら?」をクリアしながら描いていきました。

とくにキャラの関係性は、描いてみて初めてわかることが多かったです。これはダメなやり方だろうとは思うんですが、もともとキャラ表も作らないし、そこまで最初からキャラを作り込んだりしないんです。

描きながら、「あ、この人はこんな考え方をするのか」「こんな反応をするのか」「これが許せないのか」「この人たちは気が合うんだな」とか「ここは合わないんだ」とか、自分がキャラをだんだん知っていくという作り方をするんです。だから、自分的に意外な組み合わせができたりします。ナツと蟬丸がいい感じになるかもなんて、最初は考えもしなかったです。
そうだったんですね!
田村 はい。あゆと新巻とか、ハルと小瑠璃の組み合わせも、思ってもみなかった。まつりと涼とか信じられないくらい。涼はまつりのおかげで生きて成長していくキャラに変化しました。でなければ要と刺し違えてたかもしれない。

たぶん、私は途中からだんだん、誰がこの人を癒せるだろう、誰とだったら本音で話せるだろう、価値観に変化が出るだろう、という観点でキャラたちを見るようになったんじゃないかなと思います。同時に「ここはどうしてもぶつかる」という組み合わせもできました。

「これから起こることを知らないでいる」ための役作り

佐々木さんが演じたのは冬チームの新巻ですが、どんなチームやエピソードが印象に残っていますか?
佐々木 それなんですけど、他のチームやエピソードについて、どうしても新巻として考えてしまって、声優である私自身としては考えられなくて……。じつは自分は『7SEEDS』の世界について、新巻が知っていること以外は知らないんです。収録の前に原作を読むか読まないかが作品によって違うんですが、『7SEEDS』は読まないで臨みました。

というのは、新巻という役をいただいた私は、もう新巻になってしまうんです。なに当たり前のこと言ってるのって感じですが……。新巻である自分は、すべて新巻としてものを見てものを考えるようになるというか。『7SEEDS』の収録においてですが。

で、新巻は神様でなくて人間なので当然、自分の目に見えて耳に聞こえるもの、自分の五感で感じられるものしか基本的にはわからないですよね。まだ会ったこともない他のチームの人のことは知りえなくて、会って初めて知るわけですよね。新巻にとっては、友達や犬達が生き残るかどうか、自分の運命がどうなるのか、すべてそのときそのときになってみないとわからないことで、ましてや『7SEEDS』の世界全体のことは知るよしもない。

演じる前に原作を読むということは、新巻より先に「すべてを知ってしまった私」になるということです。「すべてを知ってしまった私」が新巻を演じるのか、「新巻が知ることしか知らない私」が、そのときそのときに新巻と同じ見聞をしながら演じていくのか。基本的に自分は、後者のやり方を選ぶことが多いんです。作品によっては、たまに前者のやり方をとる場合もあるんですが。
なるほど。より役の実情に寄り添った役作りなんですね。
佐々木 これはあくまで自分のやり方で、一般的に役作りはこうするべきとかこれが正しいとか主張しているわけではもちろんないんです。役へのアプローチの仕方や演技のスタイルは人それぞれなので。でも経験的に、自分にはこのスタイルが合ってるのかなと思っています。

だから、ご質問の、どんなチームやエピソードが印象に残っているのかについては、私自身がではなくて、新巻にとって印象に残った人や出来事というふうに考えてしまいます。そうなると、彼にとっては、どの人もどの出来事も自分の人生に突然生々しく立ち現れたものなので、たとえば「あのとき吹雪に言われたあの言葉」とか「あの瞬間の花の横顔にかかった雨粒」のようなごくごく細部が、彼の心に後々まで深く刺さるひとつひとつの記憶になっているのではないかと思います。

「佐々木さんの演技は、新巻だと思って聞ける」

田村先生は、佐々木さん演じる新巻の声を聞いてどう思いましたか?
田村 ああ、新巻がいる! って嬉しくて涙が出そうでした。普段アニメを見ていると、人によっては声優さんご自身がしゃべっているように聞こえる方もいます。でも、佐々木さんって、自然にそのキャラ本人がしゃべってるって思えるんです。だから世界に入り込めるし、つらいシーンではグッと来るし、ものすごくかわいいなと思えたり、思わぬタイミングでふふっと笑わされたりするんですね。とにかくすごいと思います。

じつは佐々木さんには、2004年にドラマCDが出たあとも、イベントで新巻を演じていただいたことがあったんです。2016年に『flowers』の創刊15周年イベントがあって、私のトークショー&サイン会があったんですが、そこに佐々木さんが来てくださいました。
佐々木 それ、普通に見学させていただくだけのはずだったんですけどね……(笑)。
田村 そう(笑)、来てくださると聞いたので、「ちょっとだけセリフをやっていただくのはアリですか?」とおそるおそる聞いてみたら、「いいですよ」と言ってくださって。なので新巻のいろんなセリフをつなげて独白という形で台本にしたんです。最初に佐々木さんに台本をお見せしたら「多い!」って削られてしまいました(笑)。
佐々木 いや、だって、あれは田村さんの読者さんに向けた田村さんのトークショーじゃないですか。セリフが多いのが嫌とかじゃなくて(笑)。私がいきなり乱入して長々としゃべってたらおかしいし、お客様に申し訳ないじゃないですかー(笑)。
田村 どれもこれも聴いてみたかったんです(笑)。その前にドラマCDで演じていただいたのは新巻の17歳のときだけだったので、大人になった新巻の声を聞きたいなとずううっと思っていました。

イベントでは、佐々木さんがゲストでいらっしゃることはお客さんには事前に告知せず、サプライズで登場してもらって朗読していただいたんですが、それはもうすごい破壊力でした。「なぜ僕だけが生きながらえたのか…」というセリフから始まって、新巻が源五郎に動物の死について語るシーンだったり。嵐やあゆに語るセリフだったり。

あと自分がどうしても聴きたかったのが、安居に言った「もう一度会えて、よかったな」。これをどんな声で言ってくださるのか、地の底から響くような寒さをどう表現してくださるのか…。私は幸せを噛みしめながら目を閉じて聴いていました。そしたらお客様の嗚咽が聞こえて、司会の方まで泣いていらして。
佐々木 自分が言うのも……ですが、会場中ですすり泣く声が聞こえてきたんです。こんなに人の心をつかんで揺さぶるなんて、本当にすごい作品なんだな、と読みながらセリフひとつひとつの重みを感じていました。
田村 圧巻でした。さすがです。その素晴らしさをより多くの方にお伝えしたくて、コミックス最終巻の付録ドラマCDでふたたび独白という形で演じていただきました。そして今回アニメでさらにたくさんの方に佐々木さんの新巻を聞いてもらえることになって、本当に嬉しいです。
佐々木 あのトークショーで初めて大人の新巻を演じてみて、そのときに、自分のなかに新巻という人間がしっくり入った感じがしたんです。なので、アニメの収録が始まっても、大人の新巻も若い頃の新巻も、わりとスムーズに組み立てていけました。

プロの声優として、実年齢に関係なく若い役を演じられる

新巻は、もとの世界では花や嵐と同級生でしたが、彼らよりも早く目覚め、さらに冬のチームの仲間をすべて亡くしたため、15年間ひとりで過ごすという孤独を経験した人です。そのため、年齢としては大人ですが、柔らかな少年の部分を内に残した独特の魅力がある人物だと思います。
佐々木 はい、私もそう思います。極端に異なる内面をあわせ持っている人です。大人なんだけど子どものまま――「子どもっぽい青年」じゃなくて、ホントに子どもなんですよね。運命としてずっと人と関わってこられなかったから、人のなかで揉まれながら成長していない。大人になる過程を経てないんですね。そういう人間はすごくもろいところがあると思うんです。

でも、だからといって攻撃的でも凶暴でもなく、幼稚な振る舞いもせず、新しく出会う人と理性的に関わることができる。それに加えて、この厳しい世界でひとり生き残っていけているので、フィジカルもメンタルもじつは強い人なんです。

だけど、そんな新巻もふとした瞬間に不安定な面が出ることがあって。いや、突然暴れるとか、いきなり発狂するとかじゃなく(笑)、発する言葉のなかの微妙な怒りとか、寂しさとか。新巻は多くの場合、直接に感情を表すのではなく、感情の変化が一瞬おいて声音と言い方に表れるタイプだと思います。なので、演じるときは、その微妙な内心の変化をどんなふうに、「出してる感」なく出すというか……。
難しいですね。
田村 佐々木さんが演じる新巻は、若い頃も大人になってからもすごく素敵です。若い頃はそれはもうかわいいし、大人になって出てきてからは一見落ち着いているんだけど、やっぱりかわいい。
佐々木 いやいや、ありがとうございます(照)。そういえば、収録で高校生の新巻を演じるにあたって、音響監督の鶴岡(陽太)さんが、何度も「望くん、今日は若い(役だ)からね!」っておっしゃるんですよね。実年齢と差があるけど頑張ってね、という激励の意味でいじってくださったんですが、「いや声優だし、別に実年齢関係なくできるんだけどなー」って内心思ってました(笑)。

で、その日実際に高校生時代の新巻をやってみたら、「フレッシュだった! フレッシュフレッシュ!」って、その場の誰よりも喜んでくださって。「いやそれが声優の仕事だし」と思うんですけど(笑)、やっぱり音響監督さんでも、ある程度年齢を重ねた声優には、若い役は難しいのではというイメージがあるんですかね。

鶴岡さんとはアニメで30年以上のお付き合いなので、新人時代から自分を見てきてくださったそういう方と『7SEEDS』でまた一緒にできたことも、その方に若い頃の新巻を評価していただけたことも、すごく嬉しかったです。

新巻には最初からしっかり気持ちが乗っていた

新巻というキャラは、いつ頃から田村先生の中にいたんですか?
田村 いつだろう…春のチームを描き始めてからだと思います。先ほどもお話したように、初めはナツや嵐たちの夏Bしかいなかったんです。『7SEEDS』は『ベツコミ(別冊少女コミック)』でスタートしていて、『ベツコミ』って、主人公は絶対に女の子じゃなければいけなかったんです。それも、高校生くらいの。
なるほど。
田村 『7SEEDS』のような現実とつながったサバイバルの世界を女の子主役で描くのは、私の力量では難しかったりしました。ファンタジーで戦う女子を描くならともかく。最初から『flowers』で連載がスタートしていたら、主人公の性別の縛りがないので、新巻が主人公だったかもしれないですね(笑)。いや、でもナツたちも本当に頑張りました! ナツのおかげで成長物語的な側面も出ました。

新巻の場合、「当然このプロジェクトに高校球児が入ってるよね」って考えました。私、野球が好きなんで(笑)。私がサッカー好きなら、新巻はサッカー選手になったでしょう(笑)。新巻は最初っから、がっつりしっかり、気持ちを乗せていけた人でした。

ただ、最後のほうは新巻をどうしたらいいのか、難しいところもありました。彼としての決着のつけ方や、思い込んでいること……新巻はどこか自分の命を捨てようとしてるところがあるので、最後はどこに落ち着くべきか悩みました。

「新巻は死なない。この先も生きて、つらい思いをする人」

新巻は読者人気も高かったのではないでしょうか?
田村 読者の方にいちばん人気があったのは新巻で、皆さん応援してくれました。そして、ずっと「死にそう」と心配されてたという…(笑)。
新巻にはどことなく、儚さも付きまとっていましたね。
田村 絶対死ぬと思われてたようです。『BASARA』の揚羽(あげは)と重ねた方が多かったみたいで、新巻も死んでいくキャラだろうと…。
佐々木 そうなんですか。意外ですね。新巻は全然死ぬ人じゃないと思ってました。
田村 ありがとうございます(笑)。揚羽は自分のことをよく知ってた人で、自分の意志ですべきことができる。でも新巻はじつは何もわかってないんです。自分という人間を全然知らない。下手したら誤解してるくらい。私は、お話の中においては、それがわからないまま死んじゃいけないと思ってるんです。現実では残念ながらあることですけど。新巻は、自分でちゃんと生きて、いろんな人と話をして、いろんなものを見つけていかないといけない人です。

だから私は新巻が死ぬかもと思ったことは1回もないんです。だけど皆さん「新巻が死にそう!」と、ずっとずっと心配してくださいました。それもまた嬉しいことでした。
佐々木 そうだったんですね。私には、新巻はキャラクターたちの中でも絶対死なないタイプで、まだこの先も、生きて生きてつらい思いをする運命にある人なんだと思えます(笑)。
田村 そうかもしれない(笑)。やっぱりずっとつらいんでしょうか。ごめん新巻…。
後編では、『7SEEDS』アニメ化に際して、田村先生が制作側に伝えたこと、佐々木さんがアフレコ中に気をつけていたことについて語っていただきました。さらに、30年以上に渡り、業界の第一線で活躍し続ける、おふたりの仕事観や原動力についても掘り下げていきます。
田村由美(たむら・ゆみ)
9月5日生まれ。和歌山県出身。O型。1983年、第12回小学館新人コミック大賞佳作を受賞した『オレたちの絶対時間』でデビュー。『BASARA』で第38回、『7SEEDS』で第52回小学館漫画賞受賞。現在、小学館『月刊flowers』で『ミステリと言う勿れ』をシリーズ掲載、『増刊flowers』で『猫mix幻奇譚 とらじ』を、集英社『ココハナ(cocohana)』で『イロメン〜十人十色〜』を連載中。
佐々木望(ささき・のぞむ)
1月25日生まれ。広島県出身。O型。1986年に声優デビュー。主な出演作品に、『幽☆遊☆白書』(浦飯幽助役)、『AKIRA』(鉄雄役)、『MONSTER』(ヨハン役)、『テニスの王子様』(亜久津役)、『銀河英雄伝説』(ユリアン役)、『DEATH NOTE』(メロ役)、『うしおととら』(潮役)、『21エモン』(21エモン役)、『からくりサーカス』(ギイ役)、『無限の住人』(天津影久役)など。歌のライブ活動に加え、近年は朗読作品などのナレーターとしても活躍。

作品情報

アニメ『7SEEDS』
■原作:田村由美「7SEEDS」(小学館「flowersフラワーコミックスα」刊)
■スタッフ
監督:高橋幸雄
シリーズ構成:待田堂子
キャラクターデザイン:佐藤陽子
音楽:未知瑠
音楽制作:ユニバーサル ミュージック
アニメーション制作:GONZO/スタジオKAI
【放送情報】
TOKYO MX:2020年1月14日(火)より毎週火曜23:00〜
BSフジ:2020年1月14日(火)より毎週火曜24:00〜
J:テレ「アニおび」:2020年1月17日(金)より毎週金曜23:30〜
【配信情報】
NETFLIXオリジナルアニメシリーズ『7SEEDS』
第1期 全世界独占配信中
第2期 2020年3月26日 全世界独占配信予定
Netflix『7SEEDS』ページ:https://netflix.com/7seeds
アニメ『7SEEDS』公式サイト
アニメ『7SEEDS』公式Twitter(@7SEEDS_anime)

©2019 田村由美・小学館/7SEEDS Project

サイン入り漫画プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、田村由美さんのサイン入り漫画を抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2020年3月17日(火)12:00〜3月23日(月)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/3月24日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから3月24日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき3月27日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
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