芝居を磨くとは、人間を磨くこと。執着しない男・北村諒に刻まれた恩師からの言葉

特別に執着するものは何もない。
人間に対する興味も、正直に言うとあまりない。

自分が俳優になるなんてまったく考えたこともなかった男は、気づけば舞台のうえでスポットライトを浴び、多くの観客を沸かせる存在になっていた。

俳優・北村諒。舞台『弱虫ペダル』、「おそ松さん on STAGE 〜SIX MEN’S SHOW TIME〜」など数多くの舞台に立ってきた彼が原点の地に選んだのは、こくみん共済 coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロ(以下、スペース・ゼロ)。そこで彼は役者人生を語るうえで欠かせない出会いを得た。

ずっとわからなかった、お芝居がうまくなるとはどういうことか。その答えは、今もまだ探し中だ。なんとなく聞こえのよい答えでわかったようなふりをしないところに、嘘のない彼の性格がよく出ている。

だから、きょうこの場で話すのは、あくまで“仮の答え”。いつか“本当の答え”を見つける日が来るまで、北村諒は愚直に考え続ける。

撮影/すずき大すけ 取材・文/横川良明
スタイリスト/ヨシダミホ ヘアメイク/谷口祐人
撮影協力/こくみん共済 coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロ

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自分のことより、演じるキャラを好きになってほしい

北村諒という人は、とても掴めない人だ。

完璧なバランスによって成立した芸術美のようなマスクは、どこか人を寄せつけないオーラを放っている。だけど、話してみると、とても穏やかで、フラットで、よく冗談も言うし、誰に対しても分け隔てがない。気ままで、高貴な、シャム猫みたいだ。周りからの寵愛を一身に浴びながら、ふっと輪の中から消えていなくなりそうな気まぐれさがある。

「執着心は全然ないですね。人にも、ものにも、びっくりするぐらい、ない」

そうさらっと言って、自分で笑う。クールな印象が強いが、どちらかといえばむしろ陽気だ。

「よく“ネアカ”って言われます。たしかに、悩みとかも全然ないし」

団体行動は大の苦手。昔からクラスの中心ではしゃいでいる人が得意じゃなくて、自分自身が目立つことも避けてきた。酒は、飲まない。大勢が集まる飲み会も好んでは行かない。どうせなら心許せる相手とじっくり食事をするほうが性に合っている。

「友達はあんまり多くないですね。学生のときも男友達とつるんでばかりで、女の子としゃべったことがほとんどない(笑)。根が引っ込み思案なんですよ。外で遊ぶのも好きだけど、それよりゲームをしているほうが楽しかったし」

今やオファーの絶えない活躍ぶりだが、人気に浮かれているところがまるでない。たとえば2.5次元舞台に出演する俳優の中には、「キャラクターではなく、いずれは自分を見てもらえるようになりたい」と考える者もいるが、北村はそうした願望も皆無だ。

「むしろ僕のことは別に好きじゃなくてもいいと思っています。それよりも自分が演じたことで、そのキャラクターを好きになったと言ってもらえるほうがうれしい。別に僕のファンにはならなくていいから、そのキャラクターのファンになってほしいタイプです」

自分に自信がない。芝居への興味も最初はゼロだった

「自分の顔をどう思う?」とたずねると、笑って「カッケーなと思います」とリップサービス。「いつ自分がカッコいいと気づいた?」と質問を続けると、「高校生ぐらいのとき…」と照れくさそうに首をひねる。

だが、そうした外見に対するこだわりもほとんどないのが本音だ。

「根本的に自分に自信がないんですよ。だから自分の顔について何か思うっていうこともほとんどなかったです」

そんな彼だから、俳優業も別に最初からやりたかったわけでは、ない。

「お芝居に対する興味は、最初はゼロでした。というか、そもそも別にしたいこととか何もなくて。この世界に入ったのも、事務所の人から声をかけられたのがきっかけ。事務所に入るとダンスと演技のレッスンがあって、体を動かすのは好きだからダンスには通っていたけど、演技のほうは嫌だから行かなかったぐらいです」

北村諒の語り口は、いつもあっけらかんとしている。取材の場でカッコつけようとか、いいことを言おうなんていう気がさらさらない。自己顕示欲とか、虚栄心とか、そういうものは最初から持ち合わせて生まれてこなかった、と考えたほうがしっくり来る。

「だから事務所の人に『芝居やってみろ』って言われたときは、『え?』って感じでした。やったことなかったし、人前に出るのも好きじゃないから恥ずかしいっていう気持ちもあって。未知の世界すぎて、どうしたらいいかわからなくて。稽古も行きたくないなって思っていました」

カーテンコールの拍手を浴びて、芝居を続けようと思った

そんな芝居適性がまったくない男が、気づけばもう7年以上舞台に立ち続けている。

「楽しかったんですよね、本番が」

「やっぱり稽古場と、お客さんの生の反応が入るのとでは全然違っていて。笑ってくれたり、泣いてくれたり、そういう一つひとつの反応を実際に体感できるのがうれしかったんです。それこそカーテンコールの拍手が最高に気持ちいい。本番をやって初めて『もうちょっとやってみようかな』と思えました」

初舞台は2012年。まだ21歳のときだ。そこから何本か出演作品を重ねたが、うまいお芝居とは何かなんてまったくわからなかった。

「最初の頃の話なんですけど、ある現場で演出家さんにけっこう怒られまして。稽古が終わったあとに呼び出されて、近くの公園で2〜3時間ぐらい説教されたんです。役づくりについて聞かれたから、いろいろ自分なりにやっていることを説明したんですけど、『じゃあ好きな食べものは何?』『兄弟はいるの?』って聞かれても全然答えられなくて。『ちゃんと役のバックボーンを考えてこいよ』って」

怒鳴られながらも、「正直よくわからなかった」と本音を明かす。

「その場に居合わせた先輩にあとから言われたんですが、『お前、“あ?”って言い返してたよ』って。自分ではそんなつもりなかったけど、声に出ていたみたいです(苦笑)」

台本にないことをいくら考えたところで、それが直接舞台のうえに乗るわけじゃない。芝居がうまいって、どういうことだろう。芝居がうまくなるためには、どうしたらいいんだろう。「もうちょっとやってみようかな」という気持ちで選んだ道は、奥に進めば進むほどわからないことだらけだった。

気づくと、初舞台から2年近い月日が流れていた。2014年3月、舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇 The Second Orderに東堂尽八役として出演。大きな注目を集め、その年はほぼ毎月何かしらの本番があるような忙しい日々を送るようになった。

そんな変化の大きい1年を締めくくる作品となったのが、Office ENDLESS produce vol.15『RE-INCARNATION RE-VIVAL』だ。

そこで北村は、演劇人・西田大輔という男に出会う。

西田大輔との出会い。突きつけられた最初の難題

西田大輔は、舞台『戦国BASARA』を始め、近年は舞台『血界戦線』や舞台「憂国のモリアーティ」など、数多くの舞台を手がける人物。劇作家や演出家、俳優など多彩な顔を持ち、自ら立ち上げた演劇プロジェクト・DisGOONieでもエモーショナルな作品を作り続けている。

とくに『RE-INCARNATION』シリーズは、誰もが知る『三国志』のストーリーに西田流の新解釈を織り交ぜたオリジナル作品。北村が出演することとなった『RE-INCARNATION RE-VIVAL』はシリーズ3作品目。三国時代の幕開けとなる「黄巾の戦い」を題材に、趙雲ら中国史を彩るキャラクターたちが己の信念を懸けて戦う姿を、ダイナミックな演出で描いた。

北村は西田と今作が初タッグ。その第一印象を「なんでしょうね」と一度考えたあと、こんな言葉で切り出した。

「怖い人だなと思いました、見た目も、雰囲気も」

今となっては笑い話ですけどーーそうくすっと笑って、在りし日の記憶を北村は辿り始めた。

「僕とのお仕事が初めてだったから、(共演経験のある)谷口賢志さんや加藤靖久さんに僕がどういう人間か聞いて回ったそうなんですよ。そしたら、みなさんが『諒はいいやつだよ。絶対西田さんとやってほしい』って褒めてくださったらしくて。それが逆にマイナスイメージになったというか、自分だけ俺のこと知らなかったから面白くなかったみたいです(笑)」

きっと西田本人も、評価の高い若手の芝居がどんなものか試したい気持ちがあったのだろう。稽古初日、北村はいきなり難題を渡された。

「西田さんの舞台は殺陣をご本人がつけるんですけど、西田さんって殺陣をつけるのがめちゃくちゃ早いんですよ。初日からいきなり槍を使った殺陣を50手ぐらい。しかも、『これでこうやってこうね』ってさらっと説明するだけで、『あとはやっとけ』ってそのまま放置。それまで全然殺陣もやったことないのに、いきなり放り出されて、『え?』『え?』って感じでした」
そもそも西田の殺陣は手数が多く、スピードも速い。殺陣経験のない素人が一度に覚えるのは困難だ。

「しかも周りは(中村)誠治郎さんとか賢志さんとかできる人ばっかり。西田さんのつけた殺陣をみんながあっさりものにしているのを見て、『何この人たち、怖っ!』って(笑)。でも、遅れをとりたくなかったし、食らいつかなきゃと思って、ひとり稽古場の隅でひたすら練習していました」

初めて持った稽古用の槍。身の丈ほどの長さの殺陣を、見よう見まねで必死に振り回した。

「めちゃくちゃ大変でした。とにかく必死で覚えたっていう感じです。でも周りの人たちが動画を撮ってくれたり、アドバイスをくれたり、いろいろ手伝ってくれて。初日は1日中ずっと殺陣の練習をしていました」

その日の最後、もう一度西田に殺陣を見てもらう機会があった。叩き込むようにして馴染ませた手を披露すると、ほんの少し西田の表情が変わった。

「『お前やるな』って褒めてくれて。すごくうれしかったです」

西田はオリジナル作品の場合、稽古と同時進行で台本を書き上げていく。それから数日して自分の出番が加わった台本が渡された。北村の役名は、馬超孟起。そのキャラクターには、西田から北村への想いが込められていた。

「馬超は、西田さんが当て書き(演じる俳優を決め、その人をイメージして脚本を書くこと)で書いてくれた役で。すごく影響を受けやすいキャラクターなんですけど、それは僕の吸収が早いからだそうです。たぶん初日の殺陣を見て、そう思ってくれたんでしょうね。『もっといろんなものを吸収して、いろんな人から学べ』という西田さんからのメッセージがこもった役なんです」

お前、芝居うまくなれ。胸に刻んだ、西田大輔からの言葉

原点を訪れる今回の企画に対し、北村がスペース・ゼロを選んだのも、この地が『RE-INCARNATION』シリーズを上演した場所だったからだ。西田との出会いは、それだけ役者・北村諒を大きく変えた。

「それまでは役の掘り下げ方もすごく浅かったというか、よくわかっていなかった。でも西田さんと出会って、『RE-INCARNATION』をやって、もっと役について多面的に考えられるようになりました」

西田自身は、決して役者に対して仔細にダメ出しをするタイプの演出家ではないという。だが、柔らかな眼差しの奥には、しっかりと役者自身の技術や人間性を見抜く目を持っている。

「言われたことがあるのが、『お前、芝居しているときにまばたきしすぎだ』って。自分でも全然気づいてなかったから、そうなんだってびっくりして。西田さんはそういう細かいところもちゃんと見ている人ですね。それこそ技術だけじゃなく、待機しているあいだに誰が何をしているとか、そういうことも全部」

中でも、西田からずっと言われ続けている言葉がある。

「『お前、芝居うまくなれ』って。周りができる人ばっかりだから、今でも自分はまだまだなって思うけど、うまくなる方法もわからない。芝居がうまくなるってどういうことだろうっていうのは、今もまだ悩み中ですね」

西田さんと出会って変わったのは、人との関わり方

そもそも芝居には役者の数だけスタイルがある。うまいと思う芝居も、十人十色だ。

「テクニックが優れている人もいれば、テクニックはないけど人間力で勝負する人もいる。どっちも正解だし、どっちかが劣っているかといえばそんなこともない。突き詰めれば突き詰めるほど、どうしたらいいのかわからなくなるし、いまだ答えは出ずっていう感じです。ただ、少なくとも自分は技術力が全然足りていない。頭で考えて芝居できるタイプでもない。そういう意味では、人間性の出る芝居がしたいなっていう願望はあります」

そんな人間性の面も、西田と出会って鍛えられた。西田大輔は、人間力の塊のような男だといわれている。周りに対する愛情が深く、いつも胸に少年のような夢と情熱を宿している、と。そうした人間性に惹かれて、彼の作品に好んで出演する役者も多い。

「西田さんの周りって、人が集まるんですよ。それも西田さんの人間性やカリスマ性があってのことだと思うから。結局そういうところが人をつくるんだなと思って、人との出会いとか関わり方についてはすごく考えるようになりました」

基本的にはマイペースで自由主義。人付き合いに関しては「来る者拒まず、去る者追わず」がモットーだ。稽古終わりもさっと帰ることが多かった。

「今でもさっと帰るときは帰るんですけど(笑)。でも、それまではいっさい行かなかったことを考えたら、共演者の人とご飯に行ったり、そういう付き合いはだいぶちゃんとやるようになった気がします」

西田さんは、自分にとって師範みたいな感じです

俳優・北村諒にとって、西田大輔はどんな存在か。そんな直球な質問に「なんだろうな」と少し答えを探してから、自分の気持ちにフィットする言葉をポケットから取り出すように、そっと口にした。

「師範みたいな感じ、ですね。毎回試されている気がするんですよ、西田さんの作品に出るときは。ひとつの作品をやって、そのあと、お互いいろんな現場に行って、それでまた別の作品で一緒になったとき、『で、お前、成長したんか?』って。それこそ『RE-INCARNATION』はそういう場ですよね。西田さんや賢志さんが、役者が戦える場所をつくりたくて『RE-INCARNATION』をつくったって話を聞いたんですけど、だからこそ特別な場所だなって感じがします」

西田作品は、谷口賢志や萩野崇、中村誠治郎、村田洋二郎、田中良子など常連キャストの存在が欠かせない。西田が師範なら、先輩たちは兄弟子のような存在だ。稽古場という道場で本気の手合わせをしながら役者としての力を高めていく。

「みんなカッコいいんですよね。西田さんの現場って、ダラダラ稽古するって感じじゃなく、パッて来て、パッて稽古して、パッて解散っていう感じ。みんながやるべきことを集中してやっているのがカッコいいなって、初めて参加させてもらったときから感じていて。その生き様というかスタイルに憧れました」

熱量は高いが、決して馴れ合いもしない。ベタベタしない実力者集団という雰囲気が、北村の性格にもよく合った。

「西田さんともじつはそんなにじっくり話したことはなくて。ふたりで飲みに行ったこともないんです。普段別に連絡も取らない。でも、現場で一緒になったらお互い信頼し合っていて、やるときはバシッとやる。その関係性が心地いいんです。だから、西田さんに連絡することもまったくないです。たまにLINEを送っても既読スルーされるだけだし(笑)」

ここまで話を聞いて、なんとなく思ったことがひとつある。端麗な容姿と、飄々とした物腰に目がいって気づかなかったが、北村諒という人間はとても男臭い人なんじゃないだろうか。努力しているところを見せたがらないのも、西田大輔という男臭いエンターテイメントをつくる人間にこれだけ共鳴したのも、北村諒の中にある男気ゆえなのかもしれない。

慢心はいらない。常に上を目指して食らいつけ

「2018年の『RE-INCARNATION RE-COLLECT』で初めて真ん中(主役)を任されたときは、めちゃくちゃ重かったです。『今回はお前が真ん中だから』って西田さんから言われて、『え? 嘘でしょ』って。西田さんにとって大切な作品であることはわかっていたし、先輩たちが真ん中に立っているのを見てきたからこそ、とにかく必死でもがくしかなかったです」

『RE-INCARNATION RE-COLLECT』は、ずっと他人に影響を受けてばかりいた馬超が、自分というものを見つけていく物語だ。馬超の姿に、北村自身が学ぶことも多かった。

「ボロボロになっても自分の信念を貫いて、夏侯惇(演/廣瀬友祐)に斬りかかって、結局負けてクソってなるんだけど、それでも食らいついていくしかない。そういう馬超を演じていると、あきらめないで立ち向かっていくしかないんだなって気づいたんですよ。年齢とかキャリアを重ねたからって慢心してちゃいけない。常に上を目指して食らいついていかないとって、すごく思いました」

「芝居と出会ってなかったら僕はニートになっていたかもしれない」と真面目な顔をして公言するほど、何事にも淡白な北村が、唯一、芝居だけはこうして長く続けているのも、上を目指す気持ちが動力源のひとつになっているのだろう。

そして、そんな北村の姿を、西田も見守り続けてきた。

「このあいだの舞台『憂国のモリアーティ』のときに西田さんが言ってくれたんですよ、『お前の芝居、大人っぽくなったな』って。めちゃくちゃうれしくて、『まじっすか?』って喜んだら、『ま、ちょっとだけだけどな』って返されましたけど(笑)」

クールなマスクが、まるで尻尾を振った犬みたいに綻ぶ。西田からの言葉は、北村諒にとって最高のご褒美なのだ。

じつはこの日の取材では、あるサプライズが用意されていた。西田大輔からの手紙だ。師範からの不意打ちのメッセージに、ひと言ひと言、真剣に聞き入る北村。それだけ西田が特別な存在であることがうかがい知れた。
そして、喜びの言葉を述べながらも「直接本人にお礼は言わないですけど」と付け加えるところにも、男の絆が垣間見える。感謝の気持ちは言葉じゃなくて、芝居で返す。それが北村諒と西田大輔の関係なのだ。

芝居とは人。北村諒は、人間性を磨き続ける

「お前、芝居うまくなれ」――西田大輔からの言葉を抱いて、きょうまで歩いてきた。芝居がうまいとは何なのか。その答えは、まだわからない。それでもうまくなることだけはあきらめなかった。

「西田さんもよく言うんですけど、『結局、芝居とは人』っていうのが、今のところ僕の中でしっくりきている“仮の答え”。だから人間を磨くことがいちばんの近道なのかなって最近思うようになりました」

人間を磨く。その砥石があるとすれば、北村にとってそれは人との出会いだ。

「俺、嫌いな人がいなくて。それを(田中)良子さんに『何でなの?』って質問されたんですけど。『あんまり人のこと好きじゃないから? そもそも興味ない?』って聞かれて、たぶんそうだろうなって。人間のことがそんなに好きじゃないというか、興味がない自覚はあります」

そんな彼にとって、人間を磨くという行為は、人を好きになる行為でもあった。

「たとえば稽古で手を抜いている人がいたとしても、別に怒らないです。だって、それはその人のことだから。損するのもその人だし、自分には関係ないって思っちゃうんですよね。そんな僕ですけど、でも、少なくとも昔よりは人を好きになりました。この人のことを知りたいなって思うことも増えたし」

そう自分の心境の変化を語る。西田大輔の座組なら、谷口賢志と村田洋二郎。ふたりの存在は、北村の人間性に多大な影響をもたらした。

「洋二郎さんの明るさだったり、突き抜けた開放感みたいなものにはすごく憧れますね。常に笑っていて、こういう人になりたいなって思う」

「賢志さんについては、自分で言うのもなんですけど、僕のことを好きでいてくれるし、信頼もしてくれている。だからこそ、賢志さんにはみっともない姿を見せちゃいけないなっていう想いが強いです。僕のいない飲み会で『諒は稽古初日から台詞を全部入れている』っていう話を賢志さんがしていたと他の人から聞いたことがあって。そんなふうに言ってくれる賢志さんの顔を絶対潰したくないから、どの現場でもしっかりしなきゃって自分を律しているようなところはありますね」

植ちゃんは家族みたいな感じ。一緒にいると楽なんです

同世代の仲間たちとの関係も、北村が人間性を育む大切な糧となっている。とくに『おそ松さんon STAGE〜SIX MEN'S SHOW TIME〜』で一緒になった6つ子のメンバーへの想いは強い。

「同世代でいちばん信頼している人たちですね。あの6人でいるときは、基本的に引っ張ってくれるのが(高崎)翔太で、(柏木)佑介が変なことを言って、植ちゃん(植田圭輔)がツッコんで、(小澤)廉と(赤澤)遼太郎が喧嘩してっていう感じ。それを俺は笑って見ています」

中でも植田圭輔は、北村にとって盟友と呼ぶべき存在だ。舞台『弱虫ペダル』シリーズで共演して以来、よき友として交流を深めている。

「植ちゃんは、ちょっと家族みたいな感じはありますね。一緒にいるとすごく楽で。ふたりでご飯を食べながら、たわいもないことから、お芝居のこと、これからのことについて真剣に話すこともあります」

なりたいのは、人から愛される人

デビュー以来、ほぼ切れ目なく舞台に立ち続けてきた。この1年を振り返っても、『僕のヒーローアカデミア』The “Ultra” Stageから体内活劇『はたらく細胞』Ⅱ、『おそ松さん on STAGE 〜SIX MEN’S SHOW TIME3〜』、『憂国のモリアーティ』など数々の2.5次元舞台でその実力を発揮している。

「2.5次元というのがひとつの文化になりつつある反面、難しいですけど、若干飽和状態になっている面もある。そこが怖いなとも思います。僕は2.5次元が軽く見られない場所でありたいなって想いが強くて。だから、演劇作品として面白いものをちゃんとつくりたい。原作の力を借りているからこそ、そこに甘えすぎないというか、どこに出しても恥ずかしくないものにしたいんです」

近年の舞台ブームの牽引役のひとりとして活躍してきた北村も29歳。周りを見渡せば、どんどん新しい俳優たちが出てくるようになってきた。俳優という視点から見れば、競争相手が次から次へと現れる状況だ。そんな現状に「怖いです」とおどけつつ、率直に胸の内を明かす。

「もうとにかくちゃんとやるしかないなって。お芝居はこれからも続けたいなと思うから、そのためにもまずは人から愛される人でありたい。嫌われること自体は合う合わないがあるから仕方ないけど、陰で『あいつ、嫌なやつだね』って言われるような人間にはなりたくないなって」

芝居とは何か。その答えは案外シンプルかもしれない

自分になんの自信もなければ、物事に対する執着心もまるでなかった男が、何に導かれたのか俳優という道を選んだ。その不思議な運命を、北村は気ままに楽しみながら生きているようだ。

最後に「いちばん執着しているものは?」とたずねると、「なんだろう、難しいですね」と1分以上考え続けた結果、答えは保留で終わった。そこで「お芝居」と出ないところが、なんとも北村らしい。

「こういうところで、芝居が出てこないんですよね(笑)。芝居も続けていきたいとは思っていますけど、芝居がなくなったらお前死ぬんかって言ったら別にそんなこともないし。だから、逆に執着できるものがある人がうらやましいです」

無理に自分を変えなくていい。自分を感動の成長物語の主人公にしなくたっていい。自分は、自分のままで。決して社交的ではない彼が、それでも多くの役者仲間に愛されるのは、この肩肘張らないナチュラルさに心が癒やされるからかもしれない、と思った。

スペース・ゼロはお芝居がうまくなるとはどういうことか、という問いの始まりになった場所。その地に立って、かつての自分に声をかけるとしたら、北村諒は何と言ってあげるだろうか。

「難しいようで答えはシンプルかもねって。まだ自分も見つけられていないですけど、もしかしたら案外シンプルなのかなって今は思っている。とりあえずそんなデカいことを考えるのはまだ先でいいから、目の前のことを頑張れよって言ってあげたいです」

過去の自分へのメッセージも力みがなくて優しい。きっかり50分のインタビューを終え、取材用のレコーダーを止めると、「ちゃんと実のあることが話せましたかね」と心配そうな声をあげた。そんな気遣いも、彼の優しさがにじみ出ている。

人間に興味はないと言うけれど、決して冷たい人間ではない。むしろ周りをよく見ているし、人の痛みがわかる思いやりの持ち主だ。

ふわふわしていて掴みどころがない。しかし、だからみんな彼のことが気になるんだろう。つい目で追ってしまうし、語りたくなってしまう。

北村諒は、何にも執着しない。そんな彼に、周りが勝手に執着してしまうのだ。
北村諒(きたむら・りょう)
1991年1月25日生まれ。東京都出身。A型。2012年、俳優デビュー。主な出演作に、舞台『弱虫ペダル』(東堂尽八 役)、舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺(薬研藤四郎 役)、『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』(鳴上嵐 役)、『おそ松さん on STAGE 〜SIX MEN’S SHOW TIME〜』(一松 役)、『僕のヒーローアカデミア The “Ultra” Stage』(轟焦凍 役)、体内活劇『はたらく細胞』Ⅱ(白血球 役)、舞台『憂国のモリアーティ』(シャーロック・ホームズ 役)など。

作品情報

朗読劇『私の頭の中の消しゴム 12th Letter』
4月28日(火)〜5月6日(水)※北村諒さんは5月2日と4日に出演。
よみうり大手町ホール
http://keshigomu.info/

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応募方法
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受付期間
2020年3月5日(木)18:00〜3月11日(水)18:00
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  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
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