ところがキックオフの笛が鳴り、程なくすると、スタンドは次第に静まり返っていく。コロンビアにすっかりゲームを掌握されてしまったからである。
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U‐22日本代表に初参加した久保建英だが、不発に終わった
この入りの悪さを森保一監督は試合後、「プレッシャーがあったかもしれない」と分析した。「アグレッシブにいきたかったが、日本で行なわれる初試合ということで選手は硬くなっていた」と、精神面をまず理由に挙げた。
しかし、日本が苦戦しそうなことは、開始直後からピッチ上に、くっきりと明確な形になって現れていた。後方に人がダブつき、前方に人が少ない、とても攻撃的とは言えない陣形が目に飛び込んできたからだ。まさに受けて立つ体勢になっていたのである。
その3−4−2−1の3バックは、開始直後から5バックに成り下がっていた。A代表(4−2−3−1)では4人いるアタッカーが、3人しかいないので、当然と言えば当然である。受けて立つことになった理由が選手の精神面というより、監督采配にあると考える方が遥かに自然な解釈だ。
「3バックも4バックも原理原則は同じ。連係、連動するサッカーを目指すことに変わりはない」と、森保監督は、その点について認めようとしなかった。前方に人数が少なければ、そして攻撃に幅がなければ、連係、連動することはできない。ポテンシャルの高い堂安、久保を加えたところで変わりないことは、試合内容によって証明されていた。
選手の責任にするな、と言いたくなった。それでも前半はなんとか耐えしのいだが、後半2分、コロンビアにあっさり先制点を奪われる。
後半14分に奪われた追加点は、見るも無残な失点シーンだった。パスを縦横無尽に10数本つながれ、完璧に崩された挙句、余裕をもってゴールを割られてしまったのだ。両者の差を見せつけられた屈辱的な瞬間だった。「五輪で金メダル」などと言うなと叫びたくなった。
森保監督はその5分後、メンバー交代とともに布陣を変更した。3−4−2−1から4−2−3−1へ。試合後、理由を尋ねられた森保監督はこう述べた。
「追う展開になったから」
「攻撃力のある前線の選手がベンチに控えていたので」
「前の人数を増やしたかった」
「タイミングを見て4バックに変えようと試合前から考えていた」
なぜ、「3バック(3−4−2−1)という守備的サッカーで様子を見て、リードされたので攻撃的な4−2−3−1に変えた」と言えないのか。自らの3バックを守備的サッカーだと認めようとしないのか。会見の冒頭で述べた「立ち上がりからアグレッシブにいきたかった」という言葉と、布陣を変えた理由との間に整合性はない。
「U‐22はこれまでも3バックと4バックを併用してきた」とも述べている。特段、驚くべき采配でないことを森保監督は強調したが、メインは断然3バックだった。彼がサンフレッチェ広島の監督だった時も然り。ほぼ100%、守備的な3バックで戦ってきた。
結局0−2で完敗したこの試合の敗因も、その守備的サッカーにあったことは明白だ。たしかに、コロンビアの選手たちの能力の高さには目を見張るものがあったが、それに守備的サッカーで対抗したことが、火に油を注ぐ結果になったのだ。
「今回の(コロンビアの)メンバーの中にA代表歴がある選手が4人混じっていた」と森保監督は力説する一方で、五輪代表のメンバーに入るためには、「個の力で局面を打開する強さが必要だ」とも述べている。精神面に加えて、個人能力が不足していたことを、間接的にではあるが、敗因に挙げていた。
そもそも、このU‐22日本代表のリーダーは誰なのか。森保監督が練習に立ち会ったのは、このコロンビア戦の前日だ。W杯2次予選のキルギスとのアウェー戦から帰国するや即、駆けつけたわけだ。兼任監督と言いながら、実際にはA代表の仕事に追われ、これまで現場の指揮を横内昭展コーチにずっと任せてきた。
この日も試合中、タッチライン際からひたすらコーチングしていたのは横内コーチである。森保監督はと言えば、プロデューサー、総監督のように、その後方でじっとたたずみ、戦況を見ているのみだった。
このチームは選手にとって、監督が誰なのか判然としない状態にある。メンバーを決めたのは誰なのか、布陣を決めたのは誰なのか。「横内コーチと話し合って決めた」と森保監督は語るが、U−22の実情を詳しく把握しているのは横内コーチの方だろう。このコロンビア戦は、兼任監督の弊害が白日のもとに晒された試合と言っても言い過ぎではない。
さらに言えば、だ。翌々日には大阪で日本代表のベネズエラ戦が控えている。新顔4人を含む9人の国内組が新たに加わった日本代表の監督としての仕事が、である。その練習現場に駆けつけるのは試合前日。それまでは斉藤俊秀コーチが、森保監督に代わって現場を預かっている。
にもかかわらず、メンバーを決めるのが森保監督だとすれば、練習でアピールしようと頑張っている9人の国内組が不憫に見えてくる。
話をコロンビア戦に戻せば、布陣を4−2−3−1に変更してからも、連係、連動は図れなかった。そのサッカーは出たとこ勝負の個人プレーに頼っていた。連係、連動の象徴とも言うべき、サイドバックとその一列上で構えるサイドアタッカーがコンビネーションを図る機会は1度限りに終わった。日本の4バックは、3バック同様、ほぼ後方に待機する格好だった。訓練されていないことは明白だった。
さらに、メンバー交代6人制で行なわれた試合であるにもかかわらず、日本は5人しか代えられなかった。リードされているチームなのに、だ。6人をきれいに使い切り、そのタイミングも総じて早かったコロンビアのアルトゥーロ・レジェス監督との差も目立った。
終盤、前田大然(マリティモ)を投入すると、もはや日本の布陣は定かではなくなっていた。好意的に解釈すれば4−1−4−1に見えたが、攻撃の人数を多く増やしただけの、非論理的な力攻めにしか見えなかった。
突っ込みどころ満載の試合。選手に対してというより、監督、コーチに対してだ。選手に何かを求める前に、するべきことがある。強化体制の見直しが求められていると言わざるを得ない。