それは不思議な光景だった。
日本代表に0−6という大差をつけられているのに、試合終盤には元横綱朝青龍のドルゴルスレン・ダグワドルジ氏の音頭に合わせて歓声を送り、試合後には、さも勝利チームを迎えるかのように、選手たちを大きな拍手で労った。
惨敗した後でもご機嫌だったのにはワケがある。
FIFAランキング183位の
モンゴルは、2010年までグアム、マカオ、北マリアナ諸島にしか勝利したことがない弱小国だった。
これまではワールドカップ予選でも1次予選で敗退するのが当たり前で、そもそも2次予選に駒を進めたのが、今回が初めてだったのだ。つまり、
モンゴル代表にとっては、アジアでは強豪に数えられる日本との対戦、それもアウェーの地で戦えたこと自体が、大きな成長の証とも言えるのだ。
それは、
モンゴル代表を率いるミヒャエル・ワイス監督の試合後のコメントからも分かる。
「とても良い気持ちです。選手たちにはどのような結果によらず戦おうと、この機会を活かそうと言っていました。もちろん0−8とかそのレベルで負けたくはなかったですけども、しっかりと試合をしようと言っていました。私たちはこのレベルの試合をしっかりと続けていく必要があります。こうしたスタジアムでの試合も繰り返す必要があります。これは選手たちにとって、絶対に忘れない思い出になります」
一方で、「私たちは将来に向けて可能性を秘めています」とも言うドイツ人指揮官は、今後のレベルアップに必要なのは、強豪国との対戦ばかりではないと語る。
「本当の意味でサッカーをする必要があります。ディフェンスばかりしていては、将来勝てるようにはなりません。そうしたことも理解しながら、高いレベルだけではなく、自分たちの力に見合ったレベルの相手とも試合をして、あと何年間かしたら、しっかりと成長した
モンゴルのサッカーを見せることが出来ればいいと思います」
実際に近年は国内リーグがプロ化され、サッカーに対する熱はどんどん高まっている。さらに、かつて京都パープルサンガや国見高校でコーチを担当したり、U−20中国代表のコーチ、フィリピン代表監督を務めたりと、アジアで豊富な経験を積んだワイス監督のような実績のある指導者を招聘して、代表の強化にも力を入れ始めている。
今回2次予選に進出したのは決して偶然ではないだろう。いつか強化の進んだ
モンゴル代表が、日本代表の大きなライバルとなるかもしれない。
取材・文●多田哲平(サッカーダイジェスト編集部)
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