“深夜枠の5%”の視聴者に届く表現を目指して――松重 豊の美学

昨今、Twitterで「松重 豊」と検索すると、サジェスト機能で「かわいい」と出てくるという。自他共に認める“コワモテ俳優”だったはずが、50代半ばに差しかかっての世間の反応に、本人は「正直なところ、戸惑ってますね」と困惑を口にする。

ドラマ『孤独のグルメ』の井之頭五郎役で深夜の“飯テロ”を引き起こし、映画やドラマではよきパパ、理解ある上司を演じる機会も増えた。さらに、いぶし銀の名脇役たちにスポットライトを当てたドラマ『バイプレイヤーズ』でも主演のひとりに名を連ねたのだから、世間から強く支持されるのもうなずける。

10月4日公開の映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』では北川景子と共演…といっても父親役ではなく夫役。しかも、主人公は松重演じるヒキタさん――つまり56歳にして映画初主演である!

撮影/布川航太 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

30年のキャリアで初主演。「役に取り組む姿勢は変わらない」

30年以上俳優として活動されてきて、意外にも今回が映画初主演です。
主演ってことで、こうしたインタビューとかで周りがいろいろとおっしゃいますが、本人は特別考えていないんですよね。台本に書かれている自分の役と向き合うだけなので、それが物語の中で重要な、“主人公”と言われるような人でも、“悪の権化”みたいな人でも、取り組む姿勢はまったく変わらず、同じようにやるものなので。

最近は“バイプレイヤー”なんて言葉でも呼ばれますが、あの作品(『バイプレイヤーズ』)をやることになって初めて、「あ、俺らバイプレイヤーなんだ…」と思ったくらいなんですよ。

なので「主演への感慨はありますか?」と言われても、ないに等しいんです。こういった宣伝活動をやらせていただく中で、映画に対していろんな責任を負わなくちゃいけないというのは、面白い経験ではありましたけどね。
“座長”として現場を盛り上げようと意識したり、これまでとの違いを感じるようなことはなかったですか?
『孤独のグルメ』も、ゲスト以外は僕しか出てこないことも多くて、料理と僕だけで成立するドラマなんですね。なので、とにかくシリーズを長く続ける秘訣として、スタッフ間のコミュニケーションが潤滑かどうかが大事だなというのはあります。

殺伐とした現場…それこそ昔は怒鳴り散らす監督さんもいらっしゃいましたけど、そういうのは絶対に嫌だなと思いながら育ってきたので、殺伐としないような現場にし続けたいなとは思っていました。

夫婦円満の秘訣は、日々のくだらない会話のキャッチボール

松重さん演じるヒキタは人気作家で、歳の離れた妻・サチ(演/北川景子)と仲良く暮らしていたものの、「子どもが欲しい」と言われたことで、夫婦で“妊活”に挑んでいくことになります。
相手役が北川景子さんという押しも押されもせぬ美女で、なおかつ年齢差が…数えてびっくりしたんですけど、ふた回り違いますからね(苦笑)。その北川さんと横並びになって、(夫婦として)成立するかどうかがいちばんの不安要素でした。映画を見た人に「おい! これ夫婦じゃねーだろ」と思われたら、作品の大前提が覆ってしまうので。

ただ、これまで“役作り”をやったことがほとんどないんです。ピアニストの役ならピアノを弾く人なんだなという意識、瓦職人ならば瓦を乗せることに関しちゃ俺がいちばんなんだぞという意識があればいいわけで。

今回なら、50がらみの小説家が、歳の離れた奥さんから「子どもが欲しい」と言われたらどうしよう?という畏怖ですよね。その対象が北川さんで、「夫婦に見えなかったらどうしよう」という不安はあっても、役作りでそれが解消されるものではないと思うんです。

北川さんは本当に素晴らしい女優さんなので、現場でコミュニケーションを取れば取るほど、「本当に夫婦だったんじゃないかな?」って思えるくらい幸せな時間を過ごせて。それは役得でしたねぇ。
ヒキタとサチに負けないくらい、松重さんと奥様も仲睦まじい夫婦でいらっしゃいますね。ブログやバラエティ番組などでも、奥様について言及されることがありますが、夫婦円満の秘訣はどこにあるのでしょうか?
19歳の頃から一緒にいる女房なんでね。30数年の歴史の中で結婚、出産、子育て、子どもたちが出ていってまたふたりになって…とありましたが、思うのは、会話のキャッチボールをし続けたなっていうこと。

ニュースを見ながら「台風で公園の木がスゴいことになってるよ」なんてことを口にして、それに対して答えが返ってくる。それを続ける中で、心がときめくこともあれば、怒ったりすることもあって。心が動くキャッチボールを続ける関係性があれば、パートナーとは死ぬまで一緒にい続けられると、僕は思うんですよね。

難しいことじゃないんですよ。ふたりでくだらないキャッチボールをしようと決めて、それが楽しいと思えれば。海外旅行とか、何か特別な贅沢をしなくても、日常の中に楽しいことが転がってるというのを楽しめばいいんじゃないかなと思いますね。

美意識とは、その人の生きた証がセンスに表れるもの

コワモテで鳴らした若い頃とは打って変わって、近年では松重さんに対して、ファッションなども含めて「かわいい」という印象を持つ人たちが増えています。そうした声はどう受け止めていますか?
正直なところ戸惑ってますよね(笑)。そういう部分を訓練して、ここまで俳優をやってきたわけじゃないし。自分の美意識は「かわいい」とは違うところから来ているし、自分の顔を見るのが好きかと言うと、僕は絶対にそうじゃないんでね。

だからこそ、コワモテの役で人を殺して、道行く人にも「この人、話しかけたくないな」と思われていればラクだったんですけど…(笑)。
「美意識」という言葉が出てきましたが、年齢を重ねていく中でどんな美意識を持っていらっしゃいますか?
やはり、魅力的なキャラクターを演じるとき、その役がどういうものを身に着けていて、どういうしぐさをするかに、年代ごとの美意識が出るものかなと思います。

50代というと、ある程度の経験は積んできている前提の役柄を演じるわけです。僕らの年齢であれば、校長先生や会社の社長、工場長、ヤクザの組長のクラスになるし、組長ならば組長なりに、どういうクラスの時計をしているのか? ということも含めて美意識というか。

その人の生きてきた証がセンスに表れるものですから、そこは自分でも普段から勉強しないといけない。決して「無頓着」ではダメだと思うんです。それこそ、「自分がいちばん気に入っているリラックスする服は?」とか。素材や形、色も含め、そういうことは常に意識はしますね。

注目されれば、何かを得る一方で何かを失う。でもそれが人生

2007年より、ご自身ですべて管理しながらブログを続けていますね。長年にわたって続けているのは、そこに大きな魅力があるからかと思います。SNSに関して、どのような楽しさを感じていますか?
ブログでずっとやってる4行詩は、ちょっとした暗喩やメタファー、言葉遊びを楽しんでいます。週に1回の更新なのでそれほど多くは出せませんが、直接的に文章で語りかけるんじゃなくて、ちょっと元気が出る言葉や、クスっと笑える言葉を発信できたらと思って始めたんです。
そうだったんですね。
僕の目指している表現は、“深夜の5%”の人に届くようなものだという自負があるんです。深夜ドラマの『孤独のグルメ』が視聴率5%を取ったというのがあって、ゴールデン帯で10%を目指すより、深夜に「この世界観が好き」とマニアックに共有してくれる、つまり20人にひとりの割合に届くようなものを、発信したいなと。
一方で、5%に留まらない、より多くの人が松重さんを求めるようになっています。この7、8年のあいだに人気と知名度を獲得したことで変化はありますか?
それほど動揺したり、浮き足立ったりすることはないようにしてますね。ただ、1つひとつの言葉に責任を負わなきゃいけないということで言うと、いまは5%を超えたところに発信しているという、ちょっとした居心地の悪さはあります(苦笑)。

やはり(5%を超えた世界では)いろんな誤解を恐れずにズバッと言ったら、その責任を負わなきゃいけないところもある。

たとえばこの映画も、老若男女、いろんな人に届けなければという責任は負わないといけないわけですし。でも、己を見失うほど自分を切り売りするつもりもないし、自分が持っている“毒っ気”とかそういうものは、薄〜くしてでも、ばらまいてやろうかなって思いますけどね(笑)。
そういう意味で「長年の苦労が報われた!」といった感慨は皆無ですか?
ないですねぇ。(『孤独のグルメ』の)撮影でおいしいものを食べられるのはありがたい半面、プライベートでいろんな店に行っても、井之頭五郎だと思われるし…(笑)。両面ですよね。いいことばかりじゃないし、何かを得たようでいて、何かを失っているのも間違いないこと。それが人生なんじゃないかと思います。
松重 豊(まつしげ・ゆたか)
1963年1月19日生まれ。福岡県出身。AB型。蜷川スタジオを経て、1992年、黒沢 清監督作『地獄の警備員』で映画デビュー。2012年には主演ドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)がスタート。『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(フジテレビ系)、『アンナチュラル』(TBS系)、『バイプレイヤーズ』シリーズ(テレビ東京系)、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など多数のドラマで作品を支えている。10月4日から『孤独のグルメSeason8』が放送開始。公開待機作として、映画『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』、『糸』などがある。

映画情報

映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』
10月4日(金)ロードショー
https://hikitasan-gokainin.com/

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、松重 豊さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年10月3日(木)18:00〜10月9日(水)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/10月10日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから10月10日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき10月13日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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