2019年7月18日にフルモデルチェンジした新型N-WGNは、エンジンやプラットフォーム(車台)などをN-BOXと共用するが、新たな装備や機能を搭載している。安全運転支援システム「Honda SENSING」(
ホンダセンシング)はN-BOXよりも機能が向上しており、前方を横切る自転車にも反応可能になった。運転席にはテレスコピック(ステアリングの位置を前後方向に調整できる機構)を採用。この機構があれば、ドライバーは自身の体格に応じた最適な運転姿勢をとりやすくなる。
○視界の広さに感心、室内は収納が充実
最初に試乗したのは、標準モデルのN-WGNだ。試乗車のボディカラーはガーデングリーンとホワイトルーフの2トーン仕様。短いクラムシェル型ボンネットに丸型LEDヘッドライトを備えたその表情は、往年の人気軽ライトバン「ステップバン」を彷彿させる。エクステリアは余計なラインを排除し、滑らかな面だけで構成している。親しみやすく好ましいスタイルだ。
運転席に乗り込むと、まず視界の広さに感心する。そして、あちこちに配置された収納ポケット(インパネ6カ所、前後ドア8カ所、シート背後3カ所、リアシート下1カ所)、大型ナビゲーションスクリーン、ステアリングポストの各種スイッチ、電動式パーキングスイッチなど、一昔前の軽自動車では考えられないほどの装備が満載されていることに気がつく。
早速、ステアリングポスト左奥にあるレバーを解除して、テレスコピック&チルト(ステアリング位置を上下方向に調整できる機構)機能で最適なドライビングポジションをとってみる。この時、足元では、ペダル上部のサングラス用ポケットの出っ張りが膝にさわさわと当たってしまうのがちょっと気になった。
フロントシートはアイボリーを基調としたベンチシートタイプ。表面のざっきりとしたファブリックの材質や、ウレタン密度を30%アップしたクッションの厚みが適切で、安っぽさが微塵も感じられない。リアシートの足元は圧倒的に広大で、ゆったりと足が組めるほど。これにはLサイズの大型セダンもかなわないほどと言ってよい。ドア開口部が低く大きいため、乗り降りも楽チンだ。
センタータンクレイアウト(燃料タンクを前席の下に配置する手法)による低床化は、ラゲッジルームの拡大や積み降ろしのしやすさにもつながっていて、2段ラックモード、ローフロアモード、ビッグラゲッジモードの3種類の使い方がシンプルな操作で実現する。一方、開口部が広く低い代わりにリアゲートが上下に長い形状となっているので、結果的にはオープン時にテールゲートが後ろに長く伸びてしまう。そのため、車体後方で荷物の積み降ろしを行うには、それなりのスペースを確保して駐車する必要があると感じた。
試乗した「L・Honda SENSING」というグレードは、最高出力58ps(43kW)/7,300rpm、最大トルク65Nm/4,800rpmを発生する3気筒658ccのDOHC自然吸気エンジンを搭載していた。CVTを介した走りは、街中でも高速道路でも必要十分といえるパワーを備えていた。
ブレーキ操作時には、自動的にシフトダウンする「ステップダウンシフト制御」が作動する。この技術は、コーナリング時でもエンジン回転が落ちないような制御を自動で行ってくれるため、これまでのCVTのように、「ラバーバンドフィーリング」(エンジン回転が先に上昇し、車体の加速が遅れる)を味わうシーンはほとんどない。メーターの燃費計は18km/L台後半の数字を表示し続けていた。
高速道路上では、標準装備の安全運転支援システム「
ホンダセンシング」の自動追従機能を試した。こちらは、ステアリングポスト右側のスイッチで機能をオンにするのだが、
ホンダ車ではまず、「MAIN」と書かれたボタンを押したのちに「SET」ボタンやレーンアシストのボタンを押す2段階式になっている。当初はMAINスイッチを最初に押す必要があることが分からず、説明書を読むことで初めて気がついた。他メーカーではワンボタン操作でスタートするものが多く、このあたりの操作の統一化が早く行われればいいのに、と思った瞬間だった。
自動追従やレーンキープの動作自体は自然で、違和感は全くない。渋滞時には、自動停止後3秒以内であれば、先行車が走り出すのに合わせて自動で発進してくれる。この渋滞時追従機能、N-BOXには付いていないため、N-WGNの売りとなっているのだが、残念ながら(?)試乗時は交通状況が良好で、渋滞に遭遇しなかったため試さずじまいになってしまった。
○ターボエンジンは動力性能に不満なし
もう1台の試乗車である「N-WGNカスタム」は、渋いブラウンパールカラーだ。フロントはスクエア形状のLEDヘッドライトと、ギラギラ感を抑えたメッキパーツによるグリルを組み合わせたもの。
ホンダでは「大人の感性に響く」デザインだと説明している。インテリアはブラックを基調としたもので、チタンカラーのガーニッシュやクロームのパーツが注意深く配置されている。
試乗した「L・ターボ Honda SENSING」が搭載していたのは、最高出力64ps(47kW)/6,000rpm、最大トルク104Nm/2,600rpmwを発生する3気筒658ccのDOHCターボエンジンだ。走り始めると、低い回転域からノーマルの6割増しのトルクを発生するターボエンジンと、N-WGN専用にセッティングされたCVTの相性が良く、高速へ合流するための上り坂や、巡航速度から一気に加速するような場面でも動力性能に全く不満がなかった。
アクセルへの追従性の良さはノーマルN-WGNを上回る。そのあたりにこだわるのであれば、カスタムを選んだほうがいい。通常走行ではあまりアクセルを深く踏む必要がないため、燃費計は20km/L前後を表示。試乗した日は雨だったが、走行中のエンジン音や雨音、横を通過するクルマの通過音はしっかりとカットされ、静かな車内が保たれていた点も評価できる。
○シンプルな造形を実現できた理由
試乗後、N-WGNの開発に携わった本田技術研究所 四輪R&Dセンターの今野辰二郎研究員に話を聞いた。同氏によると、新型N-WGNの最大の特徴は「渋滞時追従まで可能な
ホンダセンシングを、最も安い127万円のグレードから付けたこと」であるとのことだ。
「費用対効果は相当、高いです。ライバルの日産『デイズ』にも『プロパイロット』(自動追従機能)の付いた仕様がありますが、価格は156万円で、高いグレードにしか用意されていません。我々は、より多くのユーザーに普及したいと考えています」
N-WGNを担当する前は、中国で高級車「アヴァンシア」を担当していたという今野さん。「500万円もするアヴァンシアでも、上位モデルにしか
ホンダセンシングを採用していませんでした。そういう意味では、日本国内において、軽自動車の競争力というのは、すごく必要になってきています」というのが軽自動車市場の見方だ。「高齢者の方にも(自動追従機能を)使っていただきたいですね。そうすれば、安全性が向上するだけでなく、車速が落ちることにより渋滞が発生する場面も減ると思います」とのことだった。
シンプルなデザインを実現するのにも、かなりの工夫が必要だったと今野さんは語る。
「シンプルな面で構成するボディーを作り上げるのは大変でした。通常は、ボディサイドに『キャラクターライン』というものがあちこちに入ってくるのですが、今回は一切、排除しました。デザイナーからすると、『ここに1本、線を入れてくれ』と要望したくなるものです。そことの戦いがありました。平らな面を使用すると、実は剛性を出すのも難しくなります。そこに対処するために中身を工夫して設計し、お金もかけました。おかげで、『New Simple!』というコンセプトを実現することができました」
「N-BOXは純粋なファミリーカーです。一方、N-WGNはファミリー以外の方、例えば子供がいない独身の方や初めてクルマを購入する方、あるいは子育ての終わったシニア層などを全部取りたい。そう思って開発しました。月間販売台数は7,000台を計画していますが、現在は3割増しの受注量で、ノーマルとカスタムの割合は6:4となっています。一番人気は白で、好調な滑り出しを見せています」
今野さんによれば、N-WGNの出足は好調とのこと。日本一の販売台数を誇るN-BOXを身内に持つN-WGNの開発陣には、おそらく、たくさん販売しなければというプレッシャーがあるはずだ。この数字がどこまで伸びるか、注目していきたい。
○著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)
1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。