ハライチ岩井勇気の人生を変えたアニメ「好きだから好き。ガチもにわかも関係ない」

忘れられないアニメがある。

人生の指針となった作品、つらいときに寄り添ってくれた作品、一緒に泣き笑いして、ともに成長した作品――。

いずれも、心の奥のやわらかい部分を、ぽっと明るく、あたたかく照らす灯火のような存在だ。

岩井勇気の場合、それはどんなアニメだろう?

お笑いコンビ・ハライチの岩井は生粋のアニメ好きであり、『ハライチ岩井勇気のアニニャン!』(TBSラジオ)をはじめとして、アニメを語る番組やイベントには欠かせない存在となっている。作品に対する独特の鋭い視点と、作り手への敬慕の念にはハッとさせられることが多い。

そこで今回、岩井に「人生を変えたアニメ」というテーマで4作品を選んでもらい、各作品の魅力と、アニメ愛の原点について語ってもらった。

撮影/吉松伸太郎 取材・文/的場容子
※本文中の年数表記は、記載がない限りTVアニメの放送年か、ゲーム作品などの場合は発売年です。

アニメ愛の原点は、少年時代に読みまくったマンガ誌にあった

岩井さん、今地上波で放送されているアニメをすべて見ているというのは本当ですか?
見てますね。
スゴいです。そこまでアニメを愛するようになったきっかけを教えてください。
物心ついたときからアニメを見ていました。実家では地上波で放送しているアニメを録画していて、暇があったらそれを見ているという環境だったんです。

ジブリ作品はもちろん、『ドラゴンボール』や『ドラえもん』に東映まんがまつり。NHKでアニメがやっていたらそれも見る。4歳下の妹もアニメが好きで、ふたりで同じ作品でも繰り返し見ていました。
アニメが身近にあったのは、岩井家の教育方針だったんでしょうか?
なんでそうなったのか考えてみると、まず、父親がマンガ好きで、少年誌はほとんど買っていて、『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』『週刊少年チャンピオン』『週刊ヤングジャンプ』『週刊ヤングマガジン』は、毎週最新号が家にあった。

そのあたりのマンガ誌を自然と読んでいて、そういう環境の延長で、家でアニメも常に流れていたんだと思います。二次元への素養はそこでできたんでしょうね。その頃は、マンガ誌を読み終わったら同級生に回していて、たとえば月曜に『ジャンプ』を読み終わったら誰かが取りに来る、みたいな状態でした。
貸本屋さんみたいですね。
返ってこないんですけどね(笑)。うちは団地の5Fだったので、そこまで上って返しに来られる熱のあるやつがほとんどいなかった。
借りパク! ひどい(笑)。
そのうち、深夜アニメも見るようになっていきました。最初に見たのは、幼女向けの意図せずエロいアニメだった気がするんですが、タイトルで覚えているのは『天地無用!』(TVシリーズは1995年)ですね。最初のオタク寄りアニメというと、それかもしれない。
▲「アニメは、1シーズンに放送される約40本のうち、3話くらいまでは全作品見てから絞ります。25本くらいは最後まで見ることが多いですね。3話までのチェックポイントは、作画とストーリーがしっかりしていること。その世界に入って陶酔したいので、そこがマストです」

永遠の推し『ダブルキャスト』赤坂美月はボクっ娘でヤンデレ

岩井さんがいちばん好きな二次元のキャラクターが、1998年に発売されたプレイステーション(以下PS)のゲーム『ダブルキャスト』の赤坂美月ということですが、そこから更新されていませんか?
されてないですね。『ダブルキャスト』は、俺が中1のときにたまたま買ってもらえたゲームなんですが、選んだ選択肢によって主人公がたどる運命が決まるアドベンチャーゲームで、ちょっとギャルゲー要素があったというか、キャラと恋愛できたりもした。

このゲームのスゴいところが、無数のルートがあるのに、それが全部アニメーションで見られるんですよ。当時、PSのディスクで2枚あるくらいのけっこうなボリュームだったのに……当時、そこにまず感動してましたね。
▲岩井少年の心をとらえた『ダブルキャスト』。企画・制作はProduction I.G、キャラクターデザインは『機動戦艦ナデシコ』の後藤圭二、音楽は梶浦由記。
岩井さんにとって初めてのアドベンチャーゲームだったんですか?
それまでにやってたのは『ときめきメモリアル』くらいですね。といってもノーマルのやつじゃなくて、『ときめきの放課後 ねっ★クイズしよ』(1998年)を最初に買ってしまって。恋愛するにはめちゃくちゃクイズがうまくならないとダメで、「恋愛シミュレーションゲームって大変だな〜!」と思ってました(笑)。
(笑)。ちなみに、美月のどのあたりが岩井少年のハートをとらえたんですか?
まず美月って、ピンクの髪の毛の“ボクっ娘”なんですけど、記憶がないんです。ストーリーは、泥酔してゴミ捨て場で倒れていた主人公を、たまたま会った美月が介抱してくれるシーンから始まる。

美月は自分からグイグイいく性格で、「介抱のお礼に、ゴハンおごって」と言われた主人公がハンバーガーをおごりながら話を聞いたら、美月は記憶喪失で、家もわからないと。それで主人公の家に来ることになり、同棲が始まるんです。
いきなり同棲!?
そう。主人公は大学生だったので、「ひとり暮らししてたら、急に女の子が家に住んだりするんだな、大学生って楽しいんだろうな〜」って思ってましたね(笑)。中学生には衝撃だったんですよ。

だから、俺は今32ですけど、いまだに美月が年上に感じます(笑)。憧れですね。
多感な時期に出会った作品ですもんね(笑)。美月は、そのあと好きになる女性キャラの原型になったんですか?
この子っぽいキャラって、ほかにいないんですよね。不思議なキャラで、最終的には二重人格みたいな子であることがわかるんだけど、そのときは、それもふくめて新しかったかもしれない。
俗に言う「ヤンデレ」キャラだったんですね。
そう。もう20年くらい前のゲームだけど、これ以降、こういうキャラでハマれる子は出てきてないですね。だから、「推しキャラ=赤坂美月」というのは、いまだに更新されません。
▲「アニメを見るために加入しているサービスは、dアニメストア、Netflix、U-NEXTの3つ。スマホと家のテレビをリンクさせて、家にいるときは何かしら流していますね。あとは補完的にテレビでも録画しています」

クラスメイトのあだ名が「もえたん」――学生時代のヲタ活

岩井さんは中学・高校でサッカーに打ち込みながら、アニメイトにも通って、今で言う“ヲタ活”にも勤しんでいたということですが、その頃、「体育会系でアニオタ」ってまったくいなかった気がします。
いないですね。そのうえ、通っていたのが生徒の99%が大学に行く、みたいな進学校だったんで……まあ、俺は進学しない1%のほうに入ったんですけど(笑)。

当時のクラスメイトのことで思い出すのは、あんまり目立たない男子が、そのとき流行ってた『もえたん』(2003年に発売された『萌える英単語もえたん』。二次元美少女イラストと、アニメのシチュエーションなどを想起させる英文が載った画期的な参考書)を持っていたこと。クラスで「なんだそれ!?」ってなり、そいつはのちに「もえたん」というあだ名がつくという……。

俺はそれを遠巻きに眺めていました。「わかるぞ……」って思いながら(笑)。
彼と一緒くたに「オタク」としてくくられたくない、という意識もあったのでしょうか?
そもそも俺は「萌え〜♡」って感じのアニメより、『巌窟王』(後述)みたいな硬派なアニメが好きだったので、オタクといってもちょっと趣が違ったのかもしれません。

岩井勇気の人生を変えたアニメ4作品を発表!

岩井さんのアニメ愛の原点と、少年時代に心をとらえたキャラがわかったところで、いよいよ人生を変えたアニメ4作品を発表!

岩井さんはなぜこの4作品を選んだのか? 独特すぎる視点と、炸裂する“岩井節”をご堪能ください!
※4作品の紹介は順不同です

カッコいい男子たちを“合法的”に愛せる!

1作品目は『うたの☆プリンスさまっ♪』(以下『うた☆プリ』)。『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』も公開されたりと、女性を中心に大人気の作品です。岩井さんはイベントの司会を務めるなど、『うた☆プリ』ファンからも認知されていると思いますが、そもそもハマったきっかけは何だったのでしょう?
『うた☆プリ』は、もともとは女性向けゲームですが、俺はアニメから入りました。ゲームも人気だったけど、やっぱりアニメ化をきっかけに本格的に盛り上がった作品だと思います。それで、なぜこんなに盛り上がってみたかを俺なりに考えた。

昔から、男向けの作品では、ギャルゲーのアニメ化というのはありました。いわゆるハーレムアニメ。それってかわいい女の子を見る目的のアニメですよね。

一方で、女子向けのイケメンアニメって、じつはイケメンを見ることが主たる目的のアニメじゃなかった。というのも、イケメンのキャラクターたちには、物語のなかで大義や目的がある。ただ、イケメンを楽しむという見方も「たまたまできる」というだけで。

わかりやすい例でいくと、『ふしぎ遊戯』(1995-96年)では「国を守る」だったり、『最遊記』シリーズ(2000-17年)では「天竺を目指す」だったりと主軸のストーリーがあるので、視聴者がキャーキャー言える比率が少ないわけです。そんななかで、「女子も堂々と黄色い声援を送ってもいいんだよ!」というアニメが登場したのが、『うた☆プリ』あたりからだった気がしているんですよね。
なるほど。
革命的だったんです。乙女ゲームと呼ばれるものでしか補完できていなかったものを、アニメでやってくれたことが。だから、『うた☆プリ』制作側としてはめちゃくちゃ勝算があったわけじゃないけど、それを求めていた人がすごく多かったんじゃないだろうか。
たしかに。『うた☆プリ』のメインキャラは男性アイドルたちなので、キャーキャー言われることが職業ですもんね。
そう、まごうことなきキャーと言っていい対象ですよね。それまでのアニメでは、「真剣に戦ってるこの人たちにキャーキャー言うのって、ちょっと後ろめたいよね……」という気持ちがあった。その気持ちを発散させてくれたんです。

これまでのアニメのイケメンたちって、絶対にこっち(視聴者)には話しかけてくれないじゃないですか。その人たちが立ち向かわなきゃいけない目的があって、真面目に生きている世界があるんで、ファンに対しての目線なんてないのが当たり前ですよね。

だから、本当の意味では、画面の前にいる人に語りかけてくれることはなかったんです、絶対に。
腑に落ちます……!
その点、『うた☆プリ』は、こっちに向いてくれている。画面の外にというか……まあ、俺たちがなかに入ってるのかもしれないけど(笑)。ST☆RISH(スターリッシュ)やQUARTET NIGHT(カルテットナイト)、HE★VENS(ヘヴンズ)がいるライブ会場にいるお客さんと視聴者が一致している点がいいですよね。
そして、「いちばん輝いている自分たち」を見せてくれている。
そう、それが仕事なんで。だから、彼らを合法的に好きになっていいという点が最高ですね。
▲音也ステッカーが所狭しと貼られている“痛Mac”。

推しメン・音也の魅力「アイドルの鑑みたいな男子なんです」

岩井さんは一十木音也(CV:寺島拓篤)さん推しということですが、彼のどんなところが好きですか?
音也はね、アイドルの鑑(かがみ)みたいな男子なんです。もちろん、彼も悩んだときがありましたけど、俺は、彼がいちばんお客さんのほうを向いている気がするんですよね。

関係性的に、音也は(一ノ瀬)トキヤ(CV:宮野真守)のフォローに回ることが多い。トキヤ自身は、歌がめちゃくちゃうまくて、歌を愛していて、そして、カリスマ性がある人。でも、それゆえに自分を通すところがあると思うんです。そこがカッコいいんですけどね。

その点、音也はみんなが思い描くアイドル像そのままのことをやってくれるというか、欲しいときに欲しいものを出してくれるという意味で、プロフェッショナル感がスゴい。音也にはプロ根性を本当に感じます。
プロとして尊敬しているんですね。
『うた☆プリ』を見ているとき、俺にはふたつ目線があるんですよね。ST☆RISHを、ひとりのファンとして「カッコいいな〜!」と眺めている目線と、「芸能界の人」として見ている目線。
「芸能界の人」とは?
俺自身が芸人というのもあるんですが、同じ芸能界という業界にいるプロとしてスゴいな、ということです。作品では、ST☆RISHをはじめとしたアイドルたちの日常や舞台裏も描かれているわけですが、それを全部知ってもやっぱり彼らは完璧じゃないですか。

対して、現実にいるアイドルって、「アイドルなんてキラキラしたもんじゃないっすよ」みたいなことを言う人もいる。バラエティで、今まで積み上げたものを崩すことでキャラをつくって、ウケを狙う人もいたりして。
今、そういう傾向もありますね。
その点『うた☆プリ』のアイドルたちは、そういうことを絶対にしない、「裏」に行かない。真っ向勝負してるところがいちばんカッコいいなと思います。
人間として、生き方が潔く美しいところに憧れるんですね。
そう、どのメンバーもみんなスゴい。(神宮寺)レン(CV:諏訪部順一)や(聖川)真斗(CV:鈴村健一)はそれぞれ財閥の出だけど、真剣にアイドルとして活動している。トキヤも、みんなでアイドルとして活動することを決めてからは、ものすごく真摯に打ち込んでいる。

(黒崎)蘭丸(CV:鈴木達央)なんてもともとバンドマンで、女の子にキャーキャー言われることは求めてなかった人だけど、アイドルをやると決めたからには、プロとして腹をくくっているところがすごくカッコいいなと思います。

好きなものを好きと言うだけ、にわかもガチも関係ない

『うた☆プリ』は熱狂的なファンも多い作品ですが、そうした作品について言及したり、ファンだと公言するには、勇気がいりませんでしたか?
うーん、そうでもないかなあ。好きなものを好きって言うときにリスクを考えるのって、芸能人の考え方な気がしますけどね。
岩井さんも芸能人じゃないですか(笑)。
俺は、別に好きなら好きと言えばいいと思っていて。だって、好きなことを否定される筋合いはないじゃないですか。だから、本当に好きであれば言うだけであって、打算的に「好き」という人が結局叩かれるんだと思いますね(笑)。
ウソがなくて、率直でカッコいいです。とはいえ、芸能人が特定の作品にハマったときに、ネットでは「にわかが何言ってんだ」と批判ムードになることもありますが、そういう風潮についてはどう思いますか?
「にわか」という表現が、コンテンツの可能性をもっとも狭めますからね。だって、言ってみれば、みんな最初はにわかなわけじゃないですか。もっと言えば、制作陣以外はすべてにわかですからね。作品をどんなに細かく見たとしても、全部の意図を汲めるわけじゃないんだから。
そう考えると、「ガチかにわかか」論争は、不毛でしょうか。
そうじゃないですか。そういうことばかり気にする人は、自分がどれだけ好きかという“好き度”を押し付けたいだけのような気がしますけどね。

俺はただ、好きなものを好きって言ってるだけで、「すっごい面白い作品なので、ぜひ見てください!」みたいに押し付けたい気持ちはまったくないです。

だから、人に作品を勧めたのに見てくれなかったとしてもなんとも思わないですよ。もちろん、「オススメの作品ある?」って聞かれて、教えたのに見なかったら、「いや、なんで聞いたんだよ!」ってなるけど(笑)。

斬新な表現に釘付け。アニメの底力を知った最初の作品

続いてはTVアニメ『巌窟王』(企画原案・キャラクター原案・監督:前田真宏、シリーズ構成:神山修一、キャラクターデザイン:松原秀典)。攻めたアニメーションとストーリーで、アニメファンのあいだでは傑作として名高い作品ですね。出会いから教えてください。
『巌窟王』は、俺が中学を卒業して高校に入るくらいの頃に放送されていた作品で、たまたま1話の放送を見たんです。かなり深い時間だったんですけど、夜中まで起きてたときにやっていて「なんだこのアニメ!」とびっくりして。

まず、絵ですよね。キャラクターの衣装や装飾にテクスチャを使っていて、キャラクターが動くとテクスチャも動くのがむちゃくちゃよくて。俺はそもそもアニメーションが好きなんで、こういう新しい表現方法ってたまらないんですよね。

1話では、ストーリーよりも、絵だけじーっと見てましたね。で、2話から毎週録画して見てたんですけど、ストーリーも面白いわ、と絵以外のところにもハマっていった。ちょうどこの頃って、深夜アニメが流行りだしてきたときだったんですよね。
『巌窟王』の放送が2004〜05年。2005年4月にはフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」が始まりました。
それで、オタク向けというか、萌えっぽいアニメも多かったなかで、『巌窟王』はかなり硬派な骨太のストーリーで、作画もふくめて「このクオリティはもはや映画レベルなのでは?」と思うくらい、ものすごく見応えがあった。

表現方法にしろストーリーの作り込み方にしろ、あと10年遅くやってたら、ものすごいヒットになっていたと思う。早すぎるくらいだったんですよね。今放送してもいいんじゃないかと思います。
岩井さんにアニメの底力を知らしめた作品だと言えそうですね。
そうですね。あらためて、「俺、絵やアニメーションが好きなんだな」と実感した作品です。ものすごく綺麗でしたから。

男同士、友情を超えた愛情。それがどういうものか教えてくれた

ほかに印象的だったのは?
この作品で声優さんの存在を意識するようになりましたね。アルベール役の福山潤さん、フランツ役の平川大輔さんはもちろん、モンテ・クリスト伯爵役の中田譲治さんがすごくよかった。

のちのちDVDを買って見てたら、隠しメニューがあって、そこからチャプターを選ぶと、各回の冒頭に入っていたフランス語のナレーションが中田譲治さんの日本語の語りに切り変わる特典がついてたんです。それがまた素晴らしくて、あらためて「うわー!! 声優さんってやっぱりスゴいな!」って感嘆しましたね。
『巌窟王』前後で、アニメに対する考え方は変わりましたか?
変わったと思います。この作品から、作画と声優さんをはっきりと意識するようになったし、ターニングポイントになったのは間違いないですね。BL要素と言っていいのかわからないけど、同性愛の描写もあったし。
岩井さんが初めて触れたBL的な作品なんですよね。
そうです。アルベールとフランツは友人同士で、ふたりとも許嫁がいるんだけど、フランツは許嫁に興味がなく、アルベールのことをすごく大事に思っている。

リアルタイムで見ていたときにはまだ15、16歳だったから「えっ、男同士だよな!?」と衝撃を受けた。でものちのち、このふたりの関係を思い返していて、男が男を好きになるのって「ああ、こういう感情なんだろうな」とストンと腑に落ちたというか、この作品で初めてそういう心の機微が理解できた気がします。

後年、俺はBLにハマるようになるわけですが、今BLと呼ばれる作品で描かれていることも、フランツがアルベールに対して抱いていた「友情以上の感情」に近いんだろうなと思いながら読むこともあります。
同性同士で、友情を超えた感情が生まれたときに何が起こるか、ということですね。
友情もまた愛情のひとつですよね。「同性愛」という言葉でくくっちゃうのは簡単だし、その言葉だけだとピンとこなかったけど、『巌窟王』を見て、ここで描かれているのは「友情を超えた愛情なんだ」と、実感として理解できたのは大きかったです。

「音ネタアニメ」として、BGMとネタの構造に注目していた

3作目はTVアニメ『らき☆すた』です。いわゆる「日常系」のまったりしたアニメですが、岩井さんが選んだポイントは?
俺は『らき☆すた』は音ネタアニメだと思ってます。原作は4コママンガで、かわいい女の子たちが出てきて、ゆるーいネタでおしゃべりしてる。“あるある”の詰まったショートショートが集まった作品なんですよね。

メインキャラクターのこなたがオタクだから、“オタクあるある”も、日常的な“あるある”もたくさん出てくる。ひとくだり3分前後のネタが連なっていて、1話の基本的な作りとしては、BGMが流れていて、オチでBGMが終わるんですよ。
BGMとネタの構造に注目していたんですね。
そう。たとえばピアノのBGMが流れていて、最後こなたが「でもそれって◯◯だよね」と言ってオチるのと、「テテテテッテテ♪」というBGMの終わりが、ぴったりハマってるんすよね。BGMの終わりをツッコミにしていることもあるし、音とネタの計算しつくされた一体感に「スゴいなこれ!」ってびっくりしましたね。
なるほど……!
ひとつずつ見ていくと、ものすごくこだわって作られていることがわかるんです。かがみのツッコミが入るときも、BGM内に収まるか、収まった直後の2、3秒でかがみがぼそっと何か言って、直後に「ニャーン!」「らきすた!」とアイキャッチが流れる。

このアイキャッチが、芸人でいう「ブリッジ」……つまり、アンガールズさんの「ジャンガジャンガ」みたいに、ネタとネタをつなぐモーションになっているなあ、とか思いながら見てましたね。
お笑いを分析するように、構造を分析しながら見ていたんですね。一方で、キャラ萌えもありましたか?
ありましたよ。こなたとつかさが好きでした。あと、『らき☆すた』は舞台が地元だったのもよかったですね。
▲芸人仲間で、深くアニメの話ができる人は?「いないですね。いたら楽しそうだけど、趣味が合わない。芸能界のわかりやすいアニメ好きって、“この子がかわいい”“エロい”みたいなキャラ萌えの人が多くて。たまに“作品が面白いんじゃなくて、そのキャラが好きなだけじゃないっすか!?”って思うこともある。俺は、作品としてしっかりしてないと、キャラが生きてるように思えないから、まずそこがポイントです」

舞台は埼玉。ローカルな自分の世界が作品とつながる初体験

岩井さんは埼玉県上尾市の出身で、アニメ版『らき☆すた』の舞台は埼玉県春日部市などですね。
オープニングアニメにも登場する鷹宮(たかのみや)神社のモデルになった鷲宮(わしのみや)神社は久喜市なんですけど、俺のおばあちゃんの家が近くて、お祭りによく行ってました。あと、大宮が舞台のシーンもよくあって。自分がよく知っている場所がアニメに登場するという不思議な感覚は、『らき☆すた』が初めてでしたね。
作品と、自分の生きているローカルな世界がつながったという感覚ですね。『らき☆すた』はファンが作品の舞台を訪ねる「聖地巡礼」がさかんに行われた作品でした。
だから、俺が昔から知ってる鷹宮神社がどんどんオタク化していく様子を見ていました(笑)。好きな作品だったから嬉しくもありましたけど、「昔と変わったなあ」という思いもありましたね。
まとめると、岩井さんにとって『らき☆すた』は、「女子高生のゆる系の日常」に萌えているような視点もありつつ、音ネタの奥深さを味わった作品ということでしょうか。
そうですね。たとえば、今「アニメのBGMを思い出して」と言われたときに、俺が思い出せるのは、『ドラえもん』や『サザエさん』みたいな国民的アニメか、『らき☆すた』しかないです。

そのくらい、本編中にかかっているBGMが鮮明に思い浮かべられる作品ですね。作品の世界観どおりゆるく作ってあるように見せているけど、計算されたキレキレの音ネタアニメだと思います。

BLとは、上流階級が嗜むものでは?と思わせた綺麗さ

最後は劇場公開されたアニメ『同級生』(監督:中村章子)です。岩井さんは近年、BL作品もたくさん読んだり見たりされていますね。
『同級生』は、初めて劇場に見に行ったBLアニメです。自分のなかに何割か「ピンク映画を見に行く」みたいな感覚があったのを覚えてます(笑)。
エッチなものを見に行くときの後ろめたさのような気持ちがあったということですか?
そう、「女の子の見るピンク映画って、こういうことなのかもな」と思いながら見に行った。だけど、実際に見たら全然そんなことはなく、いやらしい感じがまったくない。

だから、佐条くんと草壁くんがキスしても「うわ〜、キスしてんじゃん」とか思わなくて、むしろ「はあ〜!」「キャー!」となるような綺麗さ、美しさだったんです。それもあって、『同級生』の世界のなかにスッと入れましたね。
なるほど。
まるで、「BLとは、じつはハイソサエティなものなんじゃないか?」「上流階級の人たちが嗜むものなのでは?」と思ってしまうような綺麗さがありましたね(笑)。ちょっと衝撃でした。

『同級生』は、今はマンガも読むようになって、シリーズを揃えています。この作品がはずみになって、ほかのBL映画も見に行くようになりました。
▲「俺は、ストーリーのために作られたキャラはイヤというか、ストーリーの都合上の性格になってほしくない。視聴者に向いてるキャラもイヤなんです。理論上作られた、とか、萌えるための要素が詰め込まれたキャラとか。“このストーリーで、なんでこんな性格になったんだろう!?”と思っちゃうようなのもキツい。作品の整合性がすごく大事です」

『同級生』の世界、山咲トオルの世界。似て非なるものだった

男同士の恋愛映画でもこんなにドキドキしながら見られることにも気づいたと。
うん。あとは……最近思ったのが、俺は、BLはBLとして見ているかもしれないですね。
というと?
1年前くらいのことですが、あるゲーム番組で俺がMCをやったとき、ゲストにマンガ家の山咲トオルさんが来たんです。そのゲームは、イケメンがいっぱい出てくるBLゲームで、声優を務めた舞台俳優の男子たちも出演していて。

俺もその頃にはBLマンガもたくさん読むようになっていたんで、その観点からトークしてたんですけど、どうも山咲さんと話が噛み合わないんですよ。
岩井さんの心のなかのBLキャラと、山咲トオルさんが噛み合わないということですか?
そう(笑)。たとえば、ゲームの男子キャラがいっぱいいるなかで、「山咲さんはどのキャラが好きですか?」って質問したら、『同級生』に出てくる線の細い綺麗なタイプには目もくれず、たしか、ガッチリしたキャラを選んでいた。

女子が好むBLって、細身で綺麗めのキャラが多いんですが、そうじゃないんだと。あと、「攻めと受け」じゃなく、普通に「タチとネコ」って言ってましたね。

それを聞いて、「そうだよなー!」と。やっぱりBLは、BLという世界以外の何ものでもないんだな、とあらためて思いました。

作品が尊いゆえに、円盤を買うのは絵画を買うような感覚

草壁と佐条に関しては、どちらに感情移入して物語を楽しんでいるんですか?
草壁くんです。佐条くんの感情のほうがちょっと複雑じゃないですか。つまり、佐条くんの立場で、草壁くんに求められて応えるようになるより、草壁くんの立場で、佐条くんという男子に対して「こいつ、かわいいな」と思うほうがわかりやすいんですよ。

佐条くんに感情移入するということは、「求められて、男に好かれて、好きになる」という段階を踏むわけです。だから、よりシンプルな「佐条が気になる」と思うようになる草壁くん視点のほうです。
なるほど。草壁くん目線で、佐条くんの透明感や、求められてオタオタするところを愛(め)でていると。
そうそう。佐条くんは女性的なところもあるので、草壁くん視点でそこにムラっとしてしまうことが多いですね
翻って、『同級生』は岩井さんにとってどんな存在でしょうか?
(長考して)これに関しては、円盤(Blu-ray)もマンガも買ったんですけど、絵画を買うみたいな感覚だったんです。作品としてあまりにも完成されていて尊いので、買って、モノとして大事に置いておきたいというか……そういう作品ってあんまりないんですけど。
それは、すごく特別ですよね。
そう。俺のなかでは、「着ないけど買う服」に近いところがありますね。もちろん実際には見たり読んだりしますけど、「買うけど読まない本」というか。「綺麗すぎて開けられない」という感じです。

アニメとは、どこかで生きてる人たちを写し取っているもの

本日のお話で、岩井さんがどんなふうにアニメや作品を愛しているのか、よくわかりました。
俺は結局、何が好きかというと、絵が好きなんです。そして、絵が動いていたらすげえ楽しい。だから、今放送している連続テレビ小説『なつぞら』のオープニングアニメもそうですけど、プロモーションビデオのアニメーションも何回も見ちゃいます。見てるだけでワクワクしますね。
その「ワクワク」は、「その世界に入りたい」という気持ちなんですか?
憧れに近いかもしれないです。学生時代に美術を専攻していて、絵を描くのも好きだったので、うまい人の絵を見るのがまず好きですね。だから、「こんなふうに素敵な絵を描きたい」という願望もあるんだと思います。
最後にあらためて、岩井さんにとってアニメとはどんな存在ですか?
(長考して)……すっごい変な言い方するけど、アニメって、あらためて絵だと思うんです。でも、じゃあ登場人物たちは生きていないのかというと、そうは思わない。

確実にどこかに存在する世界で生きている人たちのことを、絵に描き起こしてくれて、アニメで見せてくれている。複雑ですけど、つまりアニメがあるからこそ、普通なら出会えない人たちと俺らは出会って、彼らの人生を知ることができている。

だからアニメはありがたいし、かけがえのないもの。俺はそう信じています。
岩井勇気(いわい・ゆうき)
1986年7月31日生まれ。埼玉県出身。O型。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と2005年にお笑いコンビ「ハライチ」を結成。ボケ担当でネタも書いている。アニメ、麻雀、音楽と幅広い趣味を持つ。放送中のおもなレギュラー番組に『ひねくれ3』(テレビ東京)、ラジオ『ハライチのターン!』『岩井勇気のアニニャン!』(ともにTBSラジオ)、WEB番組『ハライチ岩井勇気のアニ番』(ニコニコチャンネル)など。『小説新潮』(新潮社)でエッセイを連載中。最近では俳優としても活動し、『反骨の考古学者 ROKUJI』(NHK)等に出演。

公演情報

『TVアニメ「五等分の花嫁」×TBSラジオ「ハライチ岩井勇気アニニャン!」 スペシャルトークショー』
8月8日(木)@銀座ブロッサムホール(中央会館)
出演:岩井勇気(ハライチ)、竹達彩奈、伊藤美来
竹達さんと伊藤さんが、『五等分の花嫁』本編で二乃と三玖が着ていたものをイメージした浴衣姿でそれぞれ登場します。
https://www.tbsradio.jp/391173

『「アニニャン!」×「こーラジ」化け猫・熱唱編!』
10月14日(月・祝)@大宮ソニックシティ 小ホール (埼玉県)
出演:岩井勇気(ハライチ)、相羽あいな
https://eplus.jp/ia2019/

番組情報

TBSラジオ『ハライチ岩井勇気のアニニャン!』
毎週火曜21時〜21時30分
https://www.tbsradio.jp/ia/

作品情報

●『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE』シリーズ
Blu-ray&DVD発売中
オフィシャルサイト
https://www.utapri.com/
『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』公式サイト
http://utapri-movie.com/
●『巌窟王』
Blu-ray&DVD発売中
『巌窟王』15周年プロジェクト展開中。
2019年12月、舞台『巌窟王 Le théâtre(がんくつおう ル・テアトル)』開幕
http://officeendless.com/sp/gankutsu/
2019年8月より15周年記念イベント開催を目指すクラウドファンディング開催中
https://camp-fire.jp/projects/view/183851
●『らき☆すた』
Blu-ray&DVD発売中
オフィシャルサイト
http://www.lucky-ch.com/
●アニメ『同級生』
Blu-ray&DVD発売中
オフィシャルサイト
https://www.dou-kyu-sei.com/ 

サイン入り手ぬぐいプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、岩井勇気さんのサインが入った『岩井勇気のアニニャン!』特製手ぬぐいを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年8月6日(火)18:00〜8月12日(月・祝)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月13日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月13日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月16日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
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