■“
誤審ゴール”の経緯
問題の得点は後半14分、横浜FMのFW遠藤渓太が左サイドからシュートを放ち、ゴール前に走り込んだ仲川の身体にボールが当たったことで生まれた。仲川はオフサイドポジションにいたため、本来であればゴールは認められるべきでなかったが、審判団はマークについていた宇賀神に当たったと誤認。その結果、横浜FMに得点を与えた。
これが単なる
誤審にとどまらず、議論がさらに過熱した理由は、そこから判定が二転三転したせいだった。一時は認められたゴールが取り消され、その後に再びゴール判定に覆るという異例の経緯をたどったことで、試合後には選手・スタッフをはじめ、ファン・サポーターからも疑念の声が上がった。
もっとも、この問題の原因はすでに判明している。「オウンゴールではなく仲川のゴール」という運営側の情報が副審と第4審に口頭で伝わり、それをもって主審はいったんオフサイド判定を支持。しかし、ルール上は審判団以外からの情報を判定の参考にすることは許されず、
誤審だと分かっていても当初の判定を保つしかなかったという顛末だ。
■もう一つの疑問が…
ただ、ここでもう一つの疑問が浮かび上がる。もし審判団が勘違いで結論づけた「宇賀神に当たった」ことで得点が生まれていたとしても、仲川のオフサイドは成立していたのではないかという可能性だ。この点については、上記の経緯が明かされた『DAZN』の検証番組『Jリーグジャッジリプレイ』でも十分に触れられていなかった。
番組に出演した日本サッカー協会(JFA)審判委員会トップレフェリーグループの上川徹シニアマネジャーは18日、報道陣向け説明会の場に登壇。そこで「状況を見る限り、オフサイドではない」という見解を語った。現在の競技規則を参照すれば、そう判断するに至った裏付けが見えてくる。
■オフサイドのルール
競技規則によれば、味方がボールを触った瞬間にオフサイドポジションにいた選手が「ボールをプレーする、または、触れることによってプレーを妨害する」場合、または「相手競技者を妨害する」場合にオフサイドになる。前者は「ボールに触ったかどうか」という分かりやすい基準のため、ややこしいのは後者のケースだ。
競技規則では、オフサイドポジションの選手がボールに触れなかったとしても、オフサイドになる場合として以下の4点が明記されている。
?明らかに相手競技者の視線を遮ることによって、相手競技者がボールをプレーする
?ボールに向かうことで相手競技者にチャレンジする
?自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える
?相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる
それを踏まえて今回の仲川の動きを見ると、相手競技者の視線は遮っておらず、また相手競技者にチャレンジする(=一定の接触をする)こともしていない。つまり?と?には当てはまらない。したがって、もしオフサイドの反則があったとすれば、?か?の文言に当てはまるかが争点となる。
■国際機関の“ガイダンス”
ここで重要なのは、オフサイドは「攻撃側の選手がプレーに関与したかどうか」ではなく、「攻撃側の選手がプレーに関与したことで、相手に影響を与えていたかどうか」が基準だということだ。また、ここで言う「影響」とは、どういう定義なのかも争点になりうる。
サッカーのルールを定める国際サッカー連盟(IFAB)は2016年、オフサイドに関する追加ガイダンスを発表した。これは「オフサイドを定める競技規則11条が一貫性をもって適用される」ための注釈であり、法律でいう『コンメンタール』(逐条解説書)のようなもの。ここに「影響」の定義が記されている。
そこでは「“影響を与える”とは、オフサイドポジションにいる競技者が、相手競技者がボールをプレーすること(または、プレーする可能性)に影響を与えることで、これには相手競技者がボールをプレーする動きを遅らせたり、邪魔をしたり、または妨げたりすることが含まれる」とある。
■今回のケースでは…
つまり今回のケースで言えば、仲川のフリーランニングによって宇賀神のプレーが?遅らされているか、?邪魔をされているか、?妨げられているかどうかが基準。もし、いずれかに当てはまればオフサイドがあったといえる。
映像を見ると、宇賀神はたしかに仲川を追いかけるポジション取りをしている。しかし、?〜?に当てはまるような影響は見られない。そのため上川氏は「インパクト(影響)が与えられたかというと、そう言える理由はない」と指摘。「もし仲川がボールをプレーしていなかったら、オフサイドではなかった」と結論づけた。
一方、もし宇賀神が仲川を回り込んでいたり、仲川とぶつかっていたり、仲川に進路を妨げられていたりすれば、その時点でオフサイドの基準を満たしていたといえる。ハイスピードで行われるサッカー競技の中でこれらを見極めることは難しいが、こうした基準を認識しておいて損はなさそうだ。
(取材・文 竹内達也)