3大会前までは4大会連続で本大会出場を逃していることを考えれば、悪くない結果かもしれない。だが、日本が今大会のグループリーグで引き分けたエクアドルとイタリアは準決勝に進出。決勝トーナメント1回戦で敗れた韓国は決勝に進出している。惜しいところまではいっても、得点を決めきれなかった韓国戦の試合運びや、実は4試合して1勝しかしていないことを考えると、何かが決定的に足りないとも言えた。
敗退からほどなくして、名古屋グランパスに所属する菅原由勢はAZ(オランダ)への移籍を決めた。日常の練習、試合のレベルを上げることが「成長への必須の要素だと考えた」と言う。
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U‐20W杯決勝トーナメント1回戦で韓国に敗れた日本
同じ時期、2年後のU‐20W杯を目指すU‐18日本代表が、リスボン国際U‐18トーナメントという大会に参加した。大会にはほかにポルトガルとノルウェーが参加し、日本はポルトガルに0−3で完敗、ノルウェーにも2−3で敗れ、最下位に終わっている。
もっとも、今年に入って活動がスタートしたU‐18は、この遠征のために初めてパスポートを取得して海外に出たという選手もいるほど、急ごしらえのメンバーだった。選手たちは最初こそ、おそるおそるピッチに出たようなところがあったが、時間とともに生き生きと戦うようになり、どうにかコンビネーションを作り上げようとトライ。最終的には「やっぱり代表は勝たないといけない」(2試合にフル出場しノルウェー戦で1得点した三原秀真/愛媛FC)と、キリリとした表情を見せた。
U‐20日本代表を率いた影山雅永監督に代わって、U‐18リスボン国際トーナメントで指揮をした冨樫剛一代行監督に、この世代の可能性と課題について、話を聞いた。
次回のU‐20W杯を目指すチームにおいて、影山監督のもとでコーチを務める冨樫氏は、2014年途中から16年まで東京ヴェルディの監督を務めた。また2017〜18シーズンの1年間は、スペイン1部レアル・ソシエダの育成組織で指導経験を積んでいる。欧州で経験を積んだ指導者の目に、日本のU‐18世代はどう映っているのだろうか。
――U‐18リスボン国際トーナメントは2連敗でしたが、選手たちはどんな様子でしたか。
「帰国前日に、ひとりひとりと面談したんです。『すごく悔しかった』というのが選手たちの率直な印象のようでした。今回の相手(ポルトガル、ノルウェー)は、これまでやってきたUAE遠征、スペイン遠征の時とは違い、手応えのあるプレーがあったからこその悔しさだと思います。
たとえば、ポルトガルの11番(ジャイル・タヴァレス。日本戦で2得点。バイエルン所属のレナト・サンチェスの従兄弟)みたいなプレーは難しいけど、サイドバックとCBでワンツーでかわすとか、プレスにきている相手を、正確なインサイドのボレーではずして逆に展開するとか、ワンプレー、ワンプレーはひとつも難しくないし、できたと思うんです。でも、それをゲームでどう表現するか、ミスなくプレーするか、そこにはすごい差があると、選手たちは感じたはずです。
選手たちは、『自分はどうすればいいですか』とか『誰から受ければいいですか』と聞いてくるけど、相手はどういう状況なのかというイメージが抜けている。相手にとっていやなこととして、何を選んでいくのかが大切です。だから、状況説明をさせて、初めて『こうだったんじゃない?』と返したり、一緒に考えたりすることができる。状況を考えられないと、結局、攻め急いで失う。受け手が動いただけで、相手にとっては苦しくもないのに長いボールを蹴っちゃって失うとか。相手がいるなかで選択肢を増やすことに課題があったかなと思います」
――相手がいると、できることが変わってしまうんですね?
「ポルトガル戦とノルウェー戦の間に、クラブチームと練習試合があったんです。そういうときにはいいところが出せていたんです。でも、いいポジションを取られるとボールを出しづらいとか、普段だったらまっすぐしか来られないところでパスコースを切られて、さらに寄せられて相手に詰められるとか、ちょっとしたことだけど、その差が大きいのは相変わらずなんですよね。
日本人はインサイドパスとかボールコントロールはうまいと言われるんです。でも、タッチライン際でボールを受けた時に、ファウルを受けて倒れてフリーキックにしてマイボールにするというプレーは少なくないですか? 相手を抜くか、スローインになるかしかない。敵とボールの間に身体をおいて、遠いところにボールを置いたら、取られないですよね。取られないところに置いて、相手が無理をしてきたらファウルをもらって一回時間を作るというプレーはとても少ない。
自分たちのボールの時でも、キープしろと言ったらできるんですけど、それをゴールにつなげるためにどうやって使うか、シチュエーションとして意識できているかというところに差を感じます。
U‐18の選手たちにも話しましたが、パス・アンド・コントロールの練習で、日本の子どもたちは間違えないで動くんですけど、スペインの子どもは間違えるんです。でも、スペインの子どもは、シチュエーションを教えると、『わかった、わかった』と言って正しく動く。教える側が『ここに出して、こう動く』と伝えるのではなくて、状況から逆算できる。
僕ら指導する側にも、どこまでトレーニングのなかで状況整理して落とし込めているかという問題はあります。
もちろん、ボールは蹴れば蹴るほどうまくなる。でも、それがどのシチュエーションで必要か、どのプレー強度で必要かを含めて指導できているか。トレーニングのリアリティ(現実性)、クラリティ(明瞭さ)という言葉を使うんですけど、何を取り、何を捨てていくかという葛藤はあって、ずっとゲームやればリアリティが高まるけれど、それだけでいいのかとも考えます。選手はトレーニングを受けるのか、一緒に考えるのかも、常に葛藤です」
――そういう意味でも、初の代表、初の国際試合という選手にとって、とても実り多い時間になったようですね。
「今回のU‐18のメンバーは、僕が実際に見たなかから、影山監督とも相談して選んだ選手たちです。初めての選手たちは、世界との距離感をすごく感じたのと、短い遠征中にそれをぐっと縮めることができたという、ふたつの感触があったと思う。そういうことを感じられる選手が何人もいて、彼らはあっという間に成長するんです。遠征自体は(練習試合を含めて)1勝2敗だったけど、ここから(U‐20W杯に向けた)1次予選にチームを作るための競争力は上がったと感じています。(選手選考の)序列を崩せるような遠征になったとは思います」
――U‐20W杯で韓国に敗れた直後、影山監督が「レベルが上がると試合強度に対応できない。慣れるために大会前に南米とトレーニングマッチをやったりしたが。日常からその差を埋める努力がもっと必要だ」という話をしていたのが印象的でした。U‐18世代も同様なのでしょうか。
「それはまったく同じです。欧州や南米に行かないと得られない環境があるのは、僕たち指導者側の問題であり、とても悔しいです。選手にそれを与えることができていないということですから。トレーニングを含めて、自分たちが与えるものを増やさないといけない。それは誰もが思っているし、今回U‐18に来た選手も、日常から変えないといけないと思ったはずです。
A代表の選手でも、早く海外に行ったほうがいいと言うし、実際にそうだとは思う。自分だって、たった1年でもいろいろ感じることがありました。でも、それだけを言っていたらダメで、日本での日常を、指導者側としては変えなくてはいけないと思っています。みんなが変えたいと思っているのは事実です。
でも、時代は変わっているし、日本の進化のスピードは早いと思います。だって、バルセロナで育成されてレアル・マドリードに行く選手が出てきたんですよ。ちなみに彼(久保建英)はヴェルディの幼稚園年代のスクールにも来ていて、当時から本当にすごかった。本来10歳からしか受け入れてないジュニアに、入れればいいのにという声もあったくらいです」
――U‐20W杯はピッチ外から視察されましたね。
「今回、U‐20は見る者の心をつかむ試合をしました。
もちろん、勝つにこしたことないし、勝たなきゃいけないのが代表ですし、韓国には勝てたはずです。でも、勝てなかったわけだから、そこは悔しさとともにしっかり分析して次に生かしていかないといけない。
U‐18の選手にも、いいゲームしてベスト16で終わっちゃうのと、韓国のように前半守って後半一発で勝って決勝に行くのと、どっちがいいかではなくて、どっちも取ろうよという話をさんざんしました。育成だから(勝敗に関しては)我慢しなくてはいけないところはありますけど、試合で負けていいわけはない。『崩しがよかったから、勝てなくてもいいよね』とは言えないんです」
U‐18代表はこのあと、今年行なわれる1次予選、来年の2次予選を戦い、2021年のU‐20W杯を目指す。それまでの間、多くの試行錯誤を重ねながら、選手を発掘し、成長を促していくことになる。