するとそのつど、ゴール裏に陣取る
FC東京のサポーター席からは、条件反射的に大昔の人気アニメ『マッハGoGoGo』の替え歌が湧き起こる。
「永井Go Go、永井Go Go、永井Go Go Go!」
FC東京の攻勢が明らかになる瞬間だ。しかし、それが落胆に変わることもよくある話で、スピードスターはその直後、しばしばミスを犯す。トラップミスやパスミスをあっさりとしでかす。技術的には、J1リーグ全選手のなかでも、後ろから数えて何番目かに位置する選手なのだ。足の速い選手には、技術的に難があるケースが少なくない。永井はその最たる選手と言っていいだろう。
現在30歳。一般的にスピードは年齢とともに衰えるものだ。それを技術や経験で補おうとする。ところが永井は依然として猪突猛進だ。スピード一本槍。ベテランらしくないのである。
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ジュビロ磐田戦でも縦横無尽にピッチを走り回っていた
永井謙佑(
FC東京)
FC東京では、ディエゴ・オリベイラとともに2トップの一角を形成するが、その脇で右サイドハーフとしてプレーする13歳年下の
久保建英(17歳)の方が、はるかに大人びた、あたかも経験豊かであるようなプレーをする。
久保と永井。この対照的な2人のデコボコな関係はなかなか興味深い。主役は久保で永井は脇役だ。スピードはともかく技術的には、久保を優等生とするならば、永井は劣等生。大袈裟に言えば、大人と子供ほどの差がある。
「もう少しうまくボールを処理してほしいと思うんですが、謙佑ですからね。それは無理というものです(笑)」とは、1−0で勝利したジュビロ磐田戦(5月12日)後の
FC東京・長谷川健太監督の言葉だが、最初からその点についてはあきらめているフシがある。
しかし、それぞれを戦力としてとらえるとどうなのか、チームに対する貢献度はどうなのか。そんな視点で眺めると、一概に「久保です」とは言えなくなる。
磐田戦で新聞の見出しを飾ったのは久保建英だった。0−0で推移していた後半39分。FC東京は連続してCKのチャンスを得る。その2本目、太田宏介の蹴ったボールに矢島輝一が合わせ、あわやゴールかと思われたシーンの直後だった。クリアボールを後方から走り込んだ久保が左足のボレーできれいに合わせ、磐田ゴールを揺るがしたのだ。終了6分前に挙げたこの決勝ゴールは、久保にとって今季のJリーグ初得点でもあった。
見出しを飾るのは当然といえば当然だ。一方、永井はといえば後半16分、軽い負傷を機に矢島と交代でピッチを去っていた。久保と永井。明暗が分かれた格好となった。しかしチームへの貢献度に話を戻せば、この試合でさえ、関係は甲乙つけがたくなる。
「建ちゃん(久保)は絵になる選手だなとつくづく思う。あのボレーシュートにしても、瞬間を切り取れば、格好は超一流選手のようにとても様になっている。すごいなと思う。でもその他の時間は、ほとんど何もやってくれなかった。いるのかいないのかわからないほどだった」とは、長谷川監督の弁だ。褒めているのか、いないのか、微妙な口ぶりだった。
たしかに、この得点機以外、久保のプレーはサッパリだった。ゲームに入り込めていないという印象だった。その前の試合、後半から出場したルヴァンカップのベガルタ仙台戦しかり。ボールに絡めずにいた。
「その点、謙佑は……たしかに変なところでボールを取られたりして、うまくないのだけれど(笑)、チームには欠かせない存在。あの走力。相手ボールの時に効きますね。あのスピードで追いかけられると、相手は大変だと思いますよ」(長谷川監督)
日本代表で出場歴があるスピード系の選手と言えば、1997年のフランスW杯予選、ジョホールバルでのイラン戦でゴールデンゴールを叩き出した岡野雅行を想起する。しかし、岡野と永井ではタイプが少々異なる。
岡野は、陸上のランナーで言えば、バックストレッチに入って伸びるタイプ。加速力に長けたフォームのきれいな選手だったのに対し、永井は瞬く間にトップスピードに入る。ターボエンジンを搭載するかのごとく、初速に優れた馬力がある。見た目は美しくないが、サッカー競技に適しているのは永井型だ。とりわけ、相手を追いかけるプレッシングに向いている。サッサッと近づくことができるので、相手は慌てやすい。
フォワードなのにディフェンダー的なところは、岡崎慎司(レスター)に似ていなくもない。岡崎より技術的に少し落ちるが、足の速さでは岡崎に勝る。共通項は、数字には表れにくい貢献度の高さだ。
現在、2位名古屋グランパスに勝ち点4差で首位を行くFC東京。このまま首位の座を維持するのか、例年のようにこれから崩れていくのか。浮沈のカギを握る選手はともすると久保に見えるが、見出しになりにくい永井の存在も忘れるわけにはいかない。
1試合をとおして活躍しているのはどちらか。スポーツニュースやダイジェスト番組ではなく、生で1試合丸ごと見ると、いささか印象は変わるのだ。久保を見にスタジアムへ行くのなら、同時にその前方を走る「走り屋」にも目を凝らしたいものである。