深夜残業、路上生活…大都会・新宿の不条理に長渕剛(に憧れるアニキ)が吠えた! 

写真拡大 (全18枚)

高層ビルが林立する東京・西新宿。一見すると平穏なビジネス街だが、少し目を凝らせば、そこに数々の社会問題が顔をのぞかせているのが見えてくる。

今回は、お笑いコンビ・ペンギンズの正義感に燃えるアニキが、新宿の抱える闇に警鐘を鳴らす。しかし、ある人物との出会いによって、付け焼き刃の正義を振りかざすよりも、「長渕剛の歌こそが今の自分には大切なんだ」と気づいていく…。

チンピラ風芸人が大都会の“夜の住人”たちと語り合い、新宿の魅力を特濃濃縮還元でお届けする街レポ企画、感動の最終回。
出演/ペンギンズ
撮影/水上俊介
文・構成/飯田直人(livedoorニュース)
デザイン/桜庭侑紀
「新宿 夜の生きもの図鑑」一覧
まったく、こんな時間だってのによう…。
まだまだ明るい東京都庁ってのは一体どうなってんだ。働きすぎじゃねえのか。
おーい! アニキみてぇに週休5日くらい仕事しないでいこうぜー!
ホントやめて恥ずかしい。
すみませんでしたぁぁぁ!!
そんな事より2016年には「全職員20時完全退庁」とか小池百合子都知事が言ってたけど、あれはどうなったんだろうな。
20時台には15分ごとに電気が消える設定にされて、残業せざるを得ない人にとってはクソ面倒な施策だったって聞いたことあります!
そもそも、残業を禁止するのは根本的な解決じゃないのにな。自宅作業が増えるだけだって場合や、効率化の徹底が求められるせいで職場の雰囲気が悪くなる場合もある。仕事にやりがいを感じている人は、仕事時間を制限されることが逆にストレスになったりもするらしい。働き方改革ってのは、一筋縄じゃいかないんだぜ。
なんか…、今日のアニキはひと味違いますね!
自分のことばっか考えてちゃいけねえよ、ノブオ。俺は、でっっけぇ視野でこの世を見わたしてんだ。
さすがアニキー!!
都庁のすぐそばのガード下に移動すると、点在するホームレスの住居が目に付いた。
冬に路上で寝起きするのはキツいだろうなあ。寒さが骨身に染みそうだ。都は2024年までに「自立する意思のあるホームレスを“ゼロ”にする」っていう方針を出しているけど、都庁のお膝元でこれじゃあ、先が思いやられるぜ。
くわしいっすね! 誰かから教わったんですか?
ウィキペディアだ。
ネットサーフィンのアニキー!!
いや、最近「ポリコレブーム」っていうの? 真面目で正しいっぽいこと言えば今より少しは売れそうかなと思ってよ。
見た目チンピラで!? 新しいけど、需要ないかもっす!
ワルにもなり切れない半端な野郎に正義漢ヅラされたくねえわな。
たしかにね! ちゃんと今のキャラを確立してから、次のステップっすかね!
ひとつ、ポリコレアニキに質問だ。貴殿は風俗が大好きだそうですが、性労働の実体は、男性優位社会における女性の搾取に他ならないのではないですか?
アニキ、ヘタな答え方をすると命取りっすよ! ポリコレ路線は一歩間違えるとすぐさま大炎上に…
っておまえ誰だよ! ヒゲ!!
いやはや失敬。君たちの会話を聞いていて、どうもアニキが血迷っているように思えたので、つい口を挟んでしまった。
おい、てめぇ何モンだ?
私が誰かって?
アニキが聞いてんだろ! さっさと答えろ!
…。
気にするな。
ネットの記事で無駄に間(ま)を使うんじゃねぇよ! 読者の皆さんは暇じゃねえんだぞ!
まあいいじゃないか。ところでアニキ、君はポリコレに目覚めたようだけど、君にとっての「正しさ」って何だ?
正しさ? うーん、あんまり考えたことなかったな…。
じゃあ、質問を変えようか。君にとって「信じられるもの」はなんだ?
信じられるもの? そうだな…。
長渕剛…、かな…。
俺はよ、ガキのときからずっと、長渕の歌ばかりを聴いて育ってきたんだ。
それなら、長渕の歌ともっと真剣に向かい合うところから君なりの「正しさ」を探していくといいんじゃないかな。
歌っていうのは、言葉に特別な力を与えるもの。自分の考えを確立するためのスタート地点としては悪くない。
俺だって、若い頃はMJ(マイケル・ジャクソン)にどっぷり心酔してたもんさ。まあ、今だって毎晩聞いてるがね。

▲MJは今年10周忌を迎える。

ところで歌といえば、アニキはさっきホームレスの住居を見て「路上での寝起きはキツいだろう」とか言っていたね?
ああ。それがどうした?
『路上のうた ホームレス川柳』(ビッグイシュー日本編集部)という本があってね、その中にはこんな作品があるんだ。次の川柳を読んで、君たちはどう思う?
うーん…心も体も冷え切って、地面に横たわっている人の様子が目に浮かぶかな…。
ノブオ、いい視点だよ。「世間の風」と「アスファルト」、抽象的なものと具体的なものを組み合わせることで「心」も「体」も冷たいと感じさせる効果が生まれているね。アニキはどうだい?
なんていうか、路上生活の全方位的なつらみが伝わってくる川柳だ。でも、それだけじゃないな。わびしさの中に、気高い美しささえ、感じられるような気がするぜ。
ほう…。アニキが美しさを語るとは…、意外だな。おい、詳しく聞かせてくれるかい?
前に、長渕剛がラジオで言ってたんだ。「負けるってことはとても美しい」って。そして「負けた人間が底辺からゾンビのように拳を挙げていたら、これは相当な力になると思う」って。

この川柳の作者は、ハタから見れば人生の敗者かもしれない。それでも、この人は声を上げてるんだよな。「冷たいよ」って。そのシンプルなひと言に「でも俺はまだ生きてるぞ」ってメッセージが込められてる気がする。そこに拳を挙げてるようなイメージが重なっちまう。たぶん、この歌には長渕に通じる何かがあるから、俺は美しさを感じてるんだと思うな。
ア"アアアアァニキイイイィィィィィィィィ!!!!!
その風貌で急に絶叫すんじゃねぇよ! ただただ怖ぇんだよ!
話せばわかる男じゃねえか!身の程知らずの社会派コメントし始めたから、ただのバカかと思ったわ。
言いすぎだろ!
よし、いい店知ってるから、今すぐカラオケ行こう! アニキの人生ベスト長渕ソングを教えてくれよ!
お、おう! 長渕のベストソングか…いやぁ迷っちゃうな…(照)。
3人でカラオケ店に向かう道すがら、謎の男は路上生活の実態や各種NPOの活動など、さまざまなことを教えてくれた。

歌舞伎町は2015年の「TOHOシネマズ新宿」開業以降に街の美化が進み、ゴミ拾いをしにくくなったこと。都区共同で2017年から自立支援施設の拡充が実施されるなど、行政も地道な努力を続けていること。社会生活になじめず路上で暮らすことを希望する者も一定数おり、ホームレスはゼロになり得ないこと…。(※)

この事情通な男、本当に誰なんだ…。いよいよ素性が謎に思えてきたところで、お目当ての店、「新宿21世紀」に到着した。
※ ホームレスはゼロになり得ない
厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査」によれば、「今のままでいい」と考える路上生活者の数は平成15年から平成24年にかけて15.8%から35.2%へと増加していた。
さ、ここはカラオケマシンではなくプロのバンドの演奏をバックに歌うことができる“生バンドカラオケ”の店だ。アニキ、あんたの長渕ソウルを、心置きなく轟かせてくれよ。
憧れ続けた長渕剛の歌を生バンドで歌うという貴重な機会。アニキは、神妙な面持ちでステージに立ち、無言で足元を見つめた。

微かに震える空気。

深く息を吸う、その音をマイクが拾う。

アニキは、この夜を締めくくるにふさわしいあの名曲の名を、ゆっくりと告げた。
アニキの等身大の「とんぼ」、心に深く沁みたぜ!
アニキアニキーー!!
「俺は俺で在り続けたい」…。世間に合わせて無理に背伸びなんか、しなくていいんだよな…。おい、もうポリコレなんかやめだ! 俺にはお笑いしかねえ! ノブオ、ポリコレやめて、今からパリコレ行くぞ!
えっ…。
…。
…。

ノブオ、まずはNSC(吉本興業の芸人養成所)でも行くか〜!(泣)
−完−

※この記事はフィクションです
「新宿 夜の生きもの図鑑」一覧