山下大輝の人生に彩りをくれた猫たち。ペットロスを経て新たな「家族」を迎えるまで
「かわいい〜!」と顔をほころばせた。日本家屋で猫との撮影、やってきたマンチカンとの初対面に、山下大輝は弾けるような笑顔でキャリーバッグをのぞき込む。
じつは大の猫好きで、昨年から子猫と新生活を始めたばかり。今年で30歳、自分のさらなる成長を考えたとき、「人生を共に歩むパートナーを」と選んだ相手は猫だった。何ともほほえましい話だが、山下の場合は少し違う。
ルナ――。彼の記憶には今も1匹の黒猫がいる。
子どもの頃に路上で瀕死のところを助け、18年間、一緒に育ってきた兄妹のような存在。「猫がいる生活」が当たり前だった日常。それが失われたとき、山下はペットロスに陥った。実家に帰るたび、ルナが生きていた痕跡を見るとさまざまな感情がフラッシュバックする。
これは山下大輝がペットロスを乗り越えて、新たな家族を迎えるまでの物語である。
【お詫びと訂正のお知らせ】記事内で寺島惇太さまのお名前に誤りがありました。寺島さまおよび山下大輝さま、関係者のみなさま、読者のみなさまに訂正してお詫び申し上げます。
スタイリング/浅井直樹(Vigroo) ヘアメイク/谷口祐人
協力/アニマルプロ
甘えん坊のパートナー、マンチカンの「おこめ」くん
- 最近、子猫を飼い始めたと聞きました。
- はい。マンチカンの男の子で、名前は「おこめ」といいます。
- かわいい名前ですね。名前の由来は?
- 僕はお肉が大好きなんですけど、「僕のパートナーなら、お肉と一番相性がいい“おこめ(ごはん)”だよな」って(笑)。
- おこめくんはどんな性格ですか?
- とっても気分屋ですよ。電動のおもちゃがお気に入りで、遊んでほしいときはおもちゃがある場所にのぼって、こっちを見ながら鳴きます。「ねえ、これがいい! 早く動かして!」って言ってるみたい。ハイハイって言いながらスイッチを入れてあげます(笑)。
あと、僕がソファの上であぐらをかいてゲームをやっていると、その上に乗ってきたり、ソファの肘置きのところにいたり。昼間はいつもキャットタワーで寝ているけど、僕がいるときは必ず見えるところにいようとします。
— 山下大輝 (@DaiKing_boy)19:03 - 2018年11月28日
深夜のゲーム中はいつもこう
- 甘えん坊なんですね。きょうの撮影に協力してくれた「まんちよ」ちゃんもマンチカンでした。
- まったくもの怖じしない子でしたね。同じ種類なのに、うちの子と全然違う。とてもおとなしくてビックリしました。
- 猫ってそれぞれ性格も違うんだな、個性があるんだなって。まんちよちゃんは耳が折れていて、耳自体も小さいので、顔の丸みが目立つ。それに体も大きくて、抱っこするとどっしりと感じました。
- 日本家屋での撮影でしたが、猫と遊んでいる山下さんはとてもリラックスしているように見えました。
- たしかにアットホーム感があって落ち着きますね。実家にいるみたい。やっぱり猫がいる家っていいなあ。こたつに入ってインタビューを受けるのも初めての体験です(笑)。
- こんな一軒家に住めたら、きっと猫を何匹も飼いたくなるでしょうね。1匹はおなかの上に乗っていて、ほかの子はその辺をウロウロ歩いている……そんな生活を想像しちゃいます。
実家にいた猫「ルナ」との出会いは、壮絶な体験から
- もともとご実家で猫を飼っていらしたそうですね。
- 黒猫の女の子で、「ルナ」という名前でした。名付け親はお母さん。『美少女戦士セーラームーン』が由来です(笑)。
僕にとってルナは『魔女の宅急便』のジジみたいな、一緒にいるパートナーとか相棒みたいな存在でした。
- ルナちゃんはどういう経緯で飼うことになったんですか?
- 小学校の低学年からテニスクラブに通っていたんです。ある日、クラブの前にみんなが集まっているので「どうしたの?」って聞いたら「捨ててあったんだよ」って。
見たらダンボール箱が置いてあって、中に猫が10匹ぐらい入っている。みんなまだ目も開いていない、本当に生まれたての子猫たち。テニスクラブは人の出入りが多いから、きっと誰かが置いていったんでしょうね。 - それはひどい。
- 本当に頭に来て、「最悪! 捨てたやつ誰だよ!」と怒りました。だって、本当にまだ小さな、たくさんの命をですよ? よく放棄できるなと思って、あのときはイライラしてしまいましたね。
- 信じられない出来事だと思います。
- その後どうしたらいいか、クラブのみんなで話し合いました。すごく寒そうだから毛布を入れてあげよう、とか。
その中に1匹、とくに衰弱している黒猫がいたんです。ずっと震えていて今にも死んでしまいそうで。「まずはこの子だけでも看病しようよ」という話になって、家に連れて帰りました。
それがルナとの出会いです。
- 壮絶な出会いですね。
- すぐに動物病院に連れて行ったんですが、1軒目の病院の対応がひどくて。「野良猫ですか。もうダメですね」と、すごく突き放された言い方をされてしまったんです。
そこで僕はまたカッとなって「この動物病院はキライ!」と怒り出すという(苦笑)。 - 山下少年は正義感が強かった。
- 本格的にテニスをしていたせいか熱くなりやすくて、思ったことをすぐに言っちゃう子どもだったんですよ。
「お母さん! ここじゃダメだ、帰ろう!」と言って、別の動物病院に行きました。そこは友達の紹介だったんですが、すごく親身に診てくれて。 - その病院の先生は何と?
- 「とにかく暖かくしてください」とアドバイスをいただいて。あとトイレがままならないので、トイレの仕方やミルクのあげ方を丁寧に教えてくれました。
教わった通りに面倒を見ていたら、だんだん目が開いて、元気になって。そのまま飼うことになりました。
兄妹のように一緒に成長したルナとの悲しい別れ
- 同じように他の子猫たちも誰かが引き取ったんですか?
- いえ。じつはその後、他の子猫たちはみんなすぐに死んでしまったんです。何か病気に感染してしまったのか、隔離させたルナだけが最終的に生き残りました。
最初に発見したとき、体にガムテープを貼られていた子もいたんですよ。弱っているから剥がすのもひと苦労でした。こんなひどいことをする人がいることが悲しくて、すごく落ち込みました。 - 子どもにとっては強烈すぎる体験だったと思います。
- そうですね。ルナみたいな境遇の子を放っておけない気持ちが芽生えたきっかけだったと思います。
- その後、ルナちゃんはどんな様子で?
- ルナが一番甘えていたのはお母さん。本当の母親みたいに慕ってて、いつも一緒に寝ていました。ベッドに上がると枕元にすり寄って、寝る前に母の首をペロッとなめる癖があったみたい。あと、兄にはゴロゴロと喉を鳴らして誘惑してました(笑)。
僕のことはたぶん兄妹とか、同じくらいの立場の悪友みたいに思っていたんじゃないかな。僕に向かってデーン!と走ってきて、僕が逃げると追いかけてくる。「この野郎!」と振り返ると、今度は向こうが逃げるみたいな。 - 最高の遊び仲間だったんですね。
- すごくやんちゃな子だったので、壁紙も障子もボロボロ。今でも実家には痕跡がたくさん残ってますよ。
ルナは18歳まで生きました。大往生だったと思います。
- 最期の頃はまだ実家に?
- 東京でひとり暮らしをしていました。5年くらい前のことです。
母から「ルナがもう歩けなくなってる。長くないと思う」というメールがあって、添えられた画像には老いたルナの姿が写ってました。
とても心が痛んだけど、僕もすごく忙しくて、声優としていろんなことをやらせていただいている大切な時期でした。 - 看取ることができなかった。
- はい。当時のことは今でもどうしたらよかったのか、悔いが残ってます。
ルナが僕を忘れていないか不安で、いつも年末年始に帰るたびに、たしかめていたことがありました。実家に近づくと2階の部屋の窓辺にルナの黒いフォルムがうっすらと見えるんです。僕が玄関を開けるまでに階段をダダダッと降りてきて、開けると目の前にいてくれる。ホッとする瞬間です。
でも、その年からはその光景がない。「そうか、ルナはもういないんだ」と思いました。 - ひとつひとつの素敵な思い出が、辛くのしかかるんですね。
- それは本当にあると思いますね。母は僕以上に辛そうでした。当時は「もう動物は飼いたくない」と言ってましたから。
人生をがんばるため。共に歩むパートナーは……やっぱり猫
- 話を最初に戻します。とても辛い体験を経て、山下さんはおこめくんという新しい家族を迎えました。それはまたどうしてですか?
- 昨年、29歳になって、共に歩むパートナー的な存在がほしいなと思いまして。そのときに頭の中に浮かんだのが「猫」だったんです。
自分のことだけ考えてダラダラと過ごすより、何か守る存在がいたほうが、これからの人生をもっとがんばれるんじゃないかなって。 - ひとり暮らしでペットを飼うと、結婚が遠ざかるなんて迷信もありますが……。
- 結婚はまったく考えたことがないです。今がそういう心境なだけかもしれませんが。でも、もし結婚するなら理想の相手は「猫が好き」が大前提ですね(笑)。
- 猫と一緒に暮らしたい気持ちが強かったんですね。
- 「猫を飼いたい」と思ってからは日に日に気持ちが強くなって、気がつくとYouTubeでずっと猫の動画を観たり、ネットで猫のことを調べたりするようになりました。
僕が仕事に出ているあいだは家で留守番してもらうことになるから、まったりとマイペースに暮らせる子がいいなあ、と「猫がいる生活」を想像する毎日です。それはもう幸せでした(笑)。 - 猫を飼っている声優の方も多いですが、誰かに相談しましたか?
- 花江夏樹くんにいろいろと相談しましたね。「うちはこのキャットタワーを使ってるよ」とか「トイレはこういう感じ」とか、あれこれ教えてもらいました。
キャットフードだけでもいろいろあるし、猫に与えちゃいけない食べものがあることも教わりました。実家で猫を飼っていたときは、あんまり意識してなかったので反省しましたね。
- おこめくんとの出会いの経緯は?
- あるペットショップのホームページに載っていて、かわいいなあって思っていたんです。家からけっこう遠くにあるお店でしたが、直接会いに行きました。
でも、店内をぐるっと回っても目的の猫がいない。「あれ?」と思い、お店の方に写真を見せて「この子はいますか?」と聞いたら、「裏にいるので連れてきます」と……。表に出してもらえていなかったんですね。 - えっ、それはどうして?
- 売れ残っていたから、なのかな。ペットショップって生後2〜3ヶ月の子猫は店頭でよく見かけますけど、おこめはその時点で4〜5ヶ月は経っていたので。
たしかに表に出ている子たちよりは大きかったんです。トンボのおもちゃが好きみたいで、「もう好きなおもちゃが決まってるんだな、自我が芽生え始めているのかな」って。でも会った瞬間、「めちゃめちゃかわいい!」と思って、元気いっぱいなこの子に運命を感じたんです。
その場で「この子に必要なものをすべてください!」といろんなものを買い、一緒に連れて帰りました。
ひとつ屋根の下、お互いが自由に生きる毎日
- 新しい生活にすぐ慣れました?
- 最初の1週間ぐらいは慣れていない感じでしたね。初めはケージの中で暮らしていたんですけど、ずっと隅のほうで外をうかがっていて、戸惑っている様子がわかる。ごはんをあげると恐る恐る出てきて食べて、またケージに戻っていました。
そのうちにお気に入りのおもちゃで遊ぶようになって……とだんだん慣れてきましたね。僕を「ごはんをくれる人」と思ってくれたのかも(笑)。今は逆に、食事とトイレのときだけケージに戻っていますね。
- おこめくんの自慢のポイントは?
- 人見知りをあまりしないところかな。寺島惇太くんや山谷祥生くんが家に来たときも、ふたりに遊んでもらえて喜んでました。僕の母が来たときもすぐに懐いたのでビックリしました。包容力みたいなのを感じたのかもしれません。
基本的に暴れないのもいいところですね。猫を飼っている人に聞くと、みんな動物病院に連れて行くのがひと苦労らしいけど、おこめは大丈夫。
待合室で「山下おこめちゃん」と言われるのはちょっと恥ずかしいけど(笑)。
- 普段は何で遊ぶのが好きなんですか?
- 羽根とかテカテカしてるものが好きみたいで喜んで飛びついてますね。だけど脚が短いから全然飛べてない(笑)。そこがまたかわいいんですよ。
自分の中ではめっちゃ飛んでるイメージなんでしょうね。着地したときに飛べていない自分に驚いてササッと逃げちゃいます。見ているだけで楽しいですよ。 - 寝るときもかわいいでしょうね。
- 上から毛布をかけられるのを嫌がるので、そこは猫っぽくないなと思います。でも、寝るときは本当に無防備で。ごろんと仰向けになって、すごい表情で寝てます。そして寝相がすごく悪い! ときどき人間に見えるくらいですよ(笑)。
- 山下さんもおこめくんの気持ちがわかるようになってきた?
- 感情豊かな子なので、遊んでほしいとか、おなかが空いてるとかちゃんと訴えてくれます。でも、こっちから抱っこしようとするとちょっと嫌がるかな。
自分から行きたいという感じなので、来ないときは放っておいてますね。お互いの時間があるというか、ほどよい距離感を保っていられる関係です。 - お互いマイペースな同居生活、いいですね。
- 僕は仕事のときは完全に集中モードに入っちゃうタイプ。そうなっているときに「うるさいなぁ」とか思いたくないので、マイペースでいてくれるおこめはありがたいです。
猫のおかげで輝く人生。声優の仕事もより前向きに
- こうして取材を受けている今も、おこめくんのことが気になりませんか?
- 今はもう慣れたので、心配はしていないです。でもペットカメラはつけてみたいんですよね。心配というより、僕がいないあいだは何しているんだろう?って。ひとり暮らし中のおこめの生活をのぞいてみたいです。
- おこめくんと暮らすようになって、山下さんの生活に変化はありましたか? お仕事が終わったらまっすぐ帰るようになったりとか。
- 僕はもともとそんなにお酒を飲んだりしないほうなので、生活のリズムはあまり変わらないです。
- ただやっぱり意識はしますよね。仕事が遅くまでかかると、早く帰ってごはんをあげなきゃって。でも、おこめはマイペースなのでそこまで心配じゃないかな(笑)。僕が帰ると「お前今まで寝てたな?」という感じで出迎えてくれるんですよ。
- 寝ていたけど、起きてくれるんですね。
- 僕が家に近づくとなんとなく気配でわかるみたいで。
玄関を開けてすぐの扉がガラスになっているんですが、ガラス越しに目をしょぼしょぼさせながら「帰ってきたなぁ」という目でこっちを見てる。そしてなぜか隣にある爪とぎで、眠そうに爪をガーッと研ぎます。 - そして山下さんが「ただいま」と部屋に入る。
- おこめの鳴き声ってトーンは高いけど、ちょっとハスキーだから部屋に響かないんです。だから鳴いて出迎えてくれるんだけど、寝起きもあって声が全然出てない(笑)。ただ、僕がリュックを下ろしたりしているときに脚の隙間をあえてくぐろうとする。
それを見ると「おかえり」と言ってくれるのかなって思います。ちょっと経つと今度は「ごはんちょうだい」と鳴くんですけど(笑)。 - 守る存在ができて、山下さんの心持ちに影響はあったのでは?
- 「やるべきことをちゃんとやらないとな」と、より思うようになりました。家に帰ってだらけているだけじゃダメだなって。なんとなくですけど、人生に張りが出たのかな。生活に彩りが生まれて、仕事もこれまで以上にがんばろうって思います。
- おこめくんのためならがんばれますね。
- おこめの中では今の生活が水準になっているから、これ以上は下げられないなって(笑)。これより狭い部屋に住むことになったらまずいので、仕事をがんばろうって思います。
もし仕事がなくなったら? おこめのために田舎に引っ越そうかな(笑)。
- 山下大輝(やました・だいき)
- 9月7日生まれ、静岡県出身。A型。主な出演作に、『弱虫ペダル』(小野田坂道)、『とんかつDJアゲ太郎』(勝又揚太郎)、『僕のヒーローアカデミア』(緑谷出久)、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ(天草シオン)、『礒部礒兵衛物語』(礒部礒兵衛)、『Re:CREATORS』(水篠颯太)、『覆面系ノイズ』(杠 花奏)、『TSUKIPRO THE ANIMATION』(桜庭涼太)、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』(ナランチャ・ギルガ)、『クジラの子は紗砂上に歌う』(リョダリ)などがある。
サイン入りポラプレゼント
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- 2019年2月22日(金)12:00〜2月28日(木)12:00
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