間口が広がったことで、より一層自分たちを貫けるようになった
ー強烈な飛躍を見せた1年でしたね。
渋谷:楽しかったですねえ。例えばライブのキャパを広げるとか、ワンマンツアーとか、ドラマの主題歌(「予感」が『僕らは奇跡でできている』主題歌に)もそう。今までにはなかった対バンもできて。以前はやりたくてもできなかったことを一つずつ叶えられた1年でしたね。
ーそれは、今まで撒いてきた種がどういうふうに芽吹いたからだと思います?
上杉:というよりは……思う通りに生きればいいっていう気持ちを音楽にしてきたけど、それによって世間を変えてきた感覚というよりも、そもそも何かのアクションを起こすことの大事さが普遍的なもので。そこに気づいてくれるだけの間口を作ってこられた1年だったっていうだけな気がしていて。今まで通りのことに、周りの人が意味をたくさんつけてくれるようになっただけだと思うんだよね。
ーその間口としてひとつ大きかったのは、今年4月30日の日本武道館だと思うんです。バンドへの認知という意味でも、音楽的な部分でも、あらためて何を得られた日だったと思います?
渋谷:変な話、武道館でやると周りが変わるんだよね。やっぱり武道館って、音楽をやっていない人でも知っている場所だからさ。ひとつブランドがついて、それに伴って「聴いてみよう」は間違いなく増えたと思ってて。
ーでも、そのブランドをつけようと思ってやったライブではなかったわけじゃない?
渋谷:それは本当にそう。ただただ、武道館でやることを仲間達が喜んでくれるっていう気持ちだった。だから、自分達の活動に対する充足っていうよりも、その喜びがまた力になって、さらに真っ直ぐ行けるようになった感覚かな。
柳沢:それに間口が広がったことで、過去に発表してきた曲も聴いてもらえる可能性が増えたのはいいなぁと思った。で、その曲達全部が
SUPER BEAVERの意志だから。それをまた聴いてもらえるからこそ、もっと素直に今を曲にしていけると思ったんだよね。
ーインディーズのまま日本武道館を即完させたのは間違いなく大きなトピックだったと思うし、そのTVドラマの主題歌に起用されたことも含め、「鳴り物入りでメジャーからデビューしたもののドロップアウトして、そこから這い上がって--」というストーリーをあらためて語る必要なく、新しいドラマを作っていけてると思うんですよね。そうしてメジャーやインディーズっていう垣根を本当に超えたのが今年のビーバーの面白さで。
渋谷:そう考えるとさ、俺達以上に聴いてくれる人達自身が変わってきてくれたところはあるんだろうね。俺達が伝えてきた「あなたはあなたのまま生きればいいんだ」っていうことに対して、それぞれが自分のアイデンティティをどう示したらいいのか、何故そこに自分がいるのか、っていうことを確固たる意思としてこちらに投げ返してくれるようになってさ。それは、自分達が愚直に発信し続けてきたことがいい形になり始めてるんだなって。だからいま俺達自身が、過去のストーリー云々が関係なく楽しいと思えてるんだろうね。
柳沢:それにおいて大きいのは、ぶーやん(渋谷)が表現者として憧れられる対象になってきたってことで。見た目格好だけじゃなく、思想も含めて憧れられるような--ぶーやんがそういう存在になってきたことで、曲を作る俺個人も、ぶーやんに影響を受けてきたところが間違いなくあって。これまではどうしても「一緒に挫折を乗り越えていくお兄さん達」みたいな位置付けだったところも変わってきたと思うんだよね。ライブにおいても、俺達が誰かの挫折に寄り添うだけじゃなくて、俺らの曲を聴いてくれる人達自身がもっと自分達を表現していいんだ、自分ももっと表現者になっていいんだって思えるような。そういう変化があるし、俺達自身も年々自分に対するこだわりが強くなってると思うの。例えば衣装一つとってもさ、俺達は今もずっと衣装さんがついてない。それも、自分達が嫌だと思うものを着る必要はないし、自分の好きなものを着ればいいじゃんっていう意志表示だと思うの。なんなら個々のこだわりが年々強くなり続けてるし(笑)、それがキャラクターとしても濃くなっていくことで。だからこそお互いの個性を面白がって生きることの楽しさも理解してるバンドでさ。